第三百六十九話 手紙
マスター、お元気ですか?
私、ルーフィギアが手紙を書きます。
と言っても、あなたがどこにいるのかもわからず、どこに出していいのかもわからないので、いつかあなたが戻ってきたときに差し出すことができたらなと思います。
私は、マスターがどこかに消えたと聞いて驚きました。
その時、私は攫われたあなたとそんなあなたを助けに向かった『救世の軍勢』メンバーのせいでがら空きとなってしまったヴァスイル魔王国で仕事をしていましたから。
まあ、いつも通り敵をボコボコにしてくるんだろうなぁと思っていると、帰ってきたのはなんと『救世の軍勢』メンバーだけではありませんか。
マスターがいないとは何事かと思いましたが、私がショックを受けるよりもメンバーの人たちがマジで死にそうな顔をしていたので、かえって冷静になれました。
マスターが……魔王がいなくなって、この国はどうするのだろうかとも思いました。
しかし、流石はマスター、彼女たちにくさびを打ち込んでいたようですね。
なるほど、彼女たちのことはいまいち知りませんが、シュヴァルトを見ただけでも個性的なメンバーが集まっていることは分かります。
それでも有能なのだから、少し悔しいですね。
そんなメンバーが力を合わせれば、国を統治することなど簡単なのでしょう。
実際、マスターの下で幹部となり、ヴァスイル魔王国を支えていたのですから。
私も少し安心して、でもマスターが消えちゃったことは少し寂しくて。
マスターが消えちゃって、彼女たちが戻ってきて一週間が経った時だったでしょうか?
――――――『救世の軍勢』が瓦解しちゃったのは。
あ、心配しないでください。外部の敵に負けてしまった、なんてことではありません。
むしろ、魔王不在の情報を受けて襲ってきたどこぞの国の軍隊を十人足らずで壊滅させていましたから。
ええ、瓦解の理由は簡単です。
――――――そりが合わねー。
それにつきます。というか、それしかありません。
『救世の軍勢』のメンバー、皆それぞれ性格が合わないようで、空中分解してしまいました。
……何よ、このギルド!!
普通、ギルドって家族みたいにつながりが強くて仲良しなんじゃないの!?
なんで不倶戴天の敵みたいに、顔を合わせたら殺気を飛ばしまくり、下手したら殺し合いをしているの!?
それを止める人の気持ちになったことあるの!?馬鹿でしょ、バーカバーカ!!
……失礼しました。少し、興奮してしまったようです。
しかし、前述したとおり『救世の軍勢』は瓦解しました。
まあ、顔を合わせただけでも殺気を送り合うほどでしたので、ギルドメンバー以外からすればいい迷惑でしたので、それがなくなったというのは少し気が楽なのですが……。
つまり、『救世の軍勢』はマスターありきのギルドであったということです。
マスターという存在がなくなった以上、ギルドが団結する理由なんてありません。
いわば、あなたがそれぞれのメンバーをつないでいた支柱だったのです。
それがなくなれば、ばらばらの方角に走り出してしまうのも自明ですね。
まあ、その結果、ヴァスイル魔王国の後始末を任されたのが私です。死ね。
私は深緑の森のエルフの長だって言っているでしょ!?
どうして一国を任されなければならないのよ!!ふざけんな!!
……失礼、また感情が昂ぶってしまいました。
気を落ち着かせるためにも、マスターが気になっているであろうメンバーたちのその後を書きたいと思います。
まずは、ララディです。
彼女はさっさと出て行ってしまいましたね。『マスターいねーんだったら用はねーです』とか言って。子供ですか?
ただ、その出て行く気持ちを加速させたのは、おそらく唐突に現れた男女の二人組ではないでしょうか。
マホとユウトと名乗る二人は、自分は元勇者パーティーだとか、マホはマスター教万歳と叫んでいました。
マホの方はマスターがいないと聞いてショック死しかけていましたが。
ララディと彼らは知り合いのようで、ララディは『ま、マホが急成長してやがるです……』と愕然とした表情でつぶやいていました。
ユウトは常識人でマホを止めようとしていたのですが、マホがグイグイとララディの元に行くので嫌になったのではないでしょうか。
結局、ララディは『最初にマスターと出会った森に帰るです』と言って、マホにばれないようにこっそりと出て行きました。
彼女がいなくなったことに気づいたマホにどこに行ったのかと聞かれたので教えてあげました。はい、嫌がらせです。
私に国家運営を任せながらさっさと出て行くララディにムカついたのです。
次は、ソルグロスですね。
彼女がワールド・アイだと知った時は、ぼったくられたことを思い出して少々ムカつきましたが、彼女は『救世の軍勢』の中でも比較的まともなので許します。
何故なら、彼女は私たちの方に情報を送ってくれるからです。
もともと、情報収集のためにほとんどヴァスイル魔王国にいなかったこともよかったのでしょう。
他のギルドメンバーと会うこともないので険悪になるはずもないのです。
……まあ、ほとんど帰って来ないことから、ソルグロスがギルドメンバーに対しての思いは大体予想がつきますし、彼女もまたマスターがいなければギルドに所属する意味もないと考えるタイプなのでしょう。
『マスターが帰ってくるという情報を手に入れたら秘密にしてマスターを独占するでござる』と言って、今も大陸中を歩いています。
もし、ばれたときがどうなるのか……私たちは巻き込まないでほしいですね。
何やら、エヴァン王国のとあるギルドと個人的な交流があるようで、たまに行動を共にしているらしいです。
まあ、そのギルドは情報を集めるために利用されているようですが。
次は、リッターです。
彼女は他のギルドメンバーに比べて酷く落ち込んでいましたね。
おそらく、マスターへの依存度が高かったのでしょう。
しかし、マスターの言葉を思い出したのでしょうか、すぐに復活して行動を開始しました。
そのあたりは、流石は『救世の軍勢』のメンバーだなと思いました。
ですが、彼女はヴァスイル魔王国ではなくエヴァン王国で働いています。死んだ目をしながら。
おそらく、マスターがいないのであればこの国にいる理由もないので、友人であるニーナ女王を助けに行ったのではないでしょうか。
エヴァン王国の『切り裂き騎士』の名は、ここまで伝わってきています。
不満を爆発させるように暴れる騎士らしいです。マスターのせいですよ。私は知りませんよ。
次は、ヴァンピールです。
彼女もまたヴァスイル魔王国に滞在することなく、現在は吸血鬼領を統治しているようです。
マスターがいなくなって、あのおバカ具合も少しなりを潜めたようで、とくに混乱などはなく吸血鬼領を治めています。
同じく真祖のリトリシアやメイドのメル曰く、昔のヴァンピールに少し戻っているとのこと。
昔の彼女がどのような人だったのかは知りませんが、何だかとてつもなくマズイような気がします。
『あーあ。また昔のように人狩りでもしたら、マスターは戻ってきてくれるのかしら?』などと呟いていたことを聞きました。
狩りという言葉が不穏すぎて笑えません。
はい、問題はシュヴァルトです。
この女、まるで私を奴隷のようにこき使ってきます。どういう教育をしていたのですか?
メイドの定義が崩れます。普通、使われる立場ですよね?
だというのに、鞭を振るって私に労働をさせるというのはいかがなものですか?
帰ってきたときは主であるあなたを失って酷く落ち込んでいたので、私も同情しましたとも。
しかし、このようなことをされればいくら私でも怒りま――――――。
シュヴァルトハトテモイイヒトデス。
ダイスキナマスターヲマッテイマス。
トテモヤサシイデス。イイヒトデス。イイヒトデス。イイヒトデス。ダークエルフメイドバンザイ。
次はリースです。前述は見ないことにします。何もなかったんです。
リースはメンバーの中でも『救世の軍勢』を残そうと比較的努力していました。
しかし、『やっぱり無理だな。私も修行してくるよ』と言って諦めました。
その後、彼女は大陸中を飛び回っているようです。
修行と言っていたように、たくさんの戦闘を経験しているようです。
大陸中で暴れている黒龍という噂は、よく聞こえてきます。
もともと強かったのに、今では考えられないほど強くなっているのではないでしょうか?
次は、クーリンですね。
彼女は意外にも、リースと並んでギルドをまとめようとしていました。
マスターが何か言ったのでしょうか?
でも、さっさと諦めちゃいました。
『そもそも、こんな奴らをまとめることなんてできっこないでしょ!!』と逆切れをして飛び出して行っちゃいました。
元魔王軍四天王で現在はクーリンの下にいるラルディナによると、現在彼女は魔物たちを使って一人の小さな集合体を作っているようです。
あの人、逞しすぎやしませんか?
自給自足生活を楽しんでいるようで、ラルディナはブツブツと文句を言っていました。
まあ、逆らう気はないようですが。
私もクーリンみたいに自由に楽しみたいです。国家運営、嫌です。
次はクランクハイトです。
彼女はまったく協調性がないですね。驚くほど。
部屋に引きこもって、ひたすら本を書いています。
ええ、呪いの本です。
最初は見ただけで気絶するような呪いの本でしたが、次第に効果が変わっていきました。
十円禿げができる呪い、便秘になる呪い、四六時中腹痛に襲われる呪いなどなど。
しかし、そんな呪いの書にもかかわらず売り上げはうなぎ上りらしいです。
どうやら、その呪いに耐えたらものすごく面白い話が読めるようで……。
最近では、『闇ギルドのマスター』と名のついた本がバカ売れしたようです。
誰をモデルにしているんでしょうね?
まあ、私の手伝いをまったくしてくれないので、相変わらずの『救世の軍勢』メンバーだなぁっと思います。
次は、アナトです。この人が一番厄介ではないでしょうか。
彼女はヴァスイル魔王国のことは、それほど大切に想っていません。
アナトが大切にしていると言えるのは、ただ一つ……マスター教です。
ヴァスイル魔王国の国教であり、天使教と悪魔教という二大宗教を撃破した今、マスター教を止めるものは何もありません。
近頃、急速な勢力拡大が進んでおり、ヴァスイル魔王国だけでなく大陸中に広まっています。
いずれ、対抗するような宗教が現れなければ、マスターが戻ってくるころには大陸がマスターの色に染まっていることでしょう。
巨大なマスター教を率いるのが、大シスターと呼ばれるアナトです。
彼女は、『いずれ神であるマスター様が再び降臨されるまでぇ、あのお方に喜んでもらえるようなことをするのよぉ』といいながら信者を獲得していっています。
あなたは嫌がりそうですが、私は止めません。
国家運営を押し付けられている意趣返しではありません。
あなたの反応がどんなものなのか、少し楽しみですがそうではありません。
ぶっちゃけ、マスター教を弾圧もしくは抑制しようとすると身の危険を感じるからです。
マスター、何カルト作っちゃってんですか。
最後は、リミルですね。
彼女はまあふらふらとどこかに行きますから、ほとんど魔王国にいませんね。
一番悠々自適に楽しんでいるのではないでしょうか?
じゃあ、私と代われよって話ですけどね。
私、『救世の軍勢』メンバーじゃありませんよね?
どうして、私が魔王国を統治しなければいけないんですか?
本当……本当……。
さて、マスターが気になる『救世の軍勢』の近況を記しました。
また、この手紙をあなたに届けられることがくることを望んでいます。
早く……本当に早く帰ってきてください。
切実に願います。
『救世の軍勢』メンバーの個性が強すぎます。我が強すぎます。
どうしてマスターが彼女たちに慕われて束ねられていたのか、まったく理解できません。
おそらく、彼女たちを御しきれるのはあなたしかいないのでしょう。
だから、早く帰ってきてください。
私、ストレスで死んでしまいそうです。
早く帰ってきてください。帰ってきてください!!
本当に早く帰ってきなさい!私の胃が爆発しちゃう前に!
次話で終わりです。
金曜日に投稿する予定です。




