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第三百五十二話 ララディ、クーリンvs.アリア

 










 そこは、凄惨な光景が広がっていた。

 大量の死体が、地面を覆い尽くしていた。


 皆、元は元気に動いていたラルドの残党たちであった。

 その死に方は穏やかではなく、死体の損壊など当たり前であった。


 地面から生えている食人植物は今もぐちゃぐちゃと死体を噛んでいるし、体内に取り込んでゆっくりと溶かしている植物もある。

 オーガたちは未だに暴れたりないのか、すでに息絶えているラルドの残党たちを殴りつけたり引き裂いたりしている。


 まさに、この世の地獄であった。


「ふぅ、案外早く終わったですね」

「そうね。大した連中が残っていなかったのかもしれないわ」


 そして、そんな地獄を造りだした元凶であるララディとクーリンは、とくに罪悪感を抱くこともなく平然とその光景を見ていた。


「さっ、だったらマスターの元に急ぐです!仕方ねーからアナトの指示に従ってやったですが、あいつらより先にマスターと会いたいです!」

「そうね!」


 二人は死体の供養や埋葬などはまったく考えず、この地獄をそのままにしてマスターの元に向かおうと話しあう。

 マスターに敵対する勢力の人間なんて、死んだ後のことを世話してやる必要は一切ない。


 ゆえに、先に行ったアナトたちに追いつこうとこの場を去ろうとした彼女たちであったが……。


「あ、ちょっと待ってください。誰か近づいてくるです」


 ララディがそう言って立ち止まる。

 アルラウネの彼女は、地面を歩く振動で何者かがこちらに近づいてくることを察知した。


「歩いているのは一人です」

「アナトたちじゃないの?」


 アナトたちは三人で向かって行った。

 マスターを目前にして、一人離脱して戻ってくるということは考えにくい。


 ということは、三人が撃破された?


「やったですね!」


 ララディはニッコリと微笑む。

 三人のうち、誰かが再起不能になっていてくれると嬉しい。


 しかし、クーリンはララディほど楽観的ではなかった。


「一人であいつら三人を倒した?……そんな奴、結構マズイんじゃない?」


 汗をタラリと流す。

 先行した三人も戦闘タイプではなかったとはいえ、ララディとクーリンもとくにすぐれているというわけではない。


 どうしようか。クーリンが考えていると……。


「うわ、血の海じゃないですか。なんですか、この死体の山は」


 現れたのは、リミル……の身体を乗っ取ったアリアであった。

 凄惨な光景を目の当たりにしても、その無機質な表情は変わらない。


「あんた……リミル?やっぱり、あんたがマスターを拉致したの?」

「ああ、私はリミルとやらではありませんよ。アリアと申します」

「はぁ?頭でもおかしくなりやがったですか?」


 姿かたちが完全にリミルなので、ララディはぷーくすくすと頭がおかしくなったのかと笑う。

 しかし、どうにも纏う雰囲気や話し方がリミルではないため、クーリンは確信を持てずにいた。


「まあ、別にあなた方にどう思っていただこうが構いません。私がリミルであろうが、アリアであろうが……どちらにしても、ここであなたたちには再起不能になっていただきますので」

「はぁ!?リミルのくせに、えらく言うですね!このホルスタイン!!」

「ふっ……これは特に気に入っています」


 アリアはぼいんぼいんと胸を弾ませる。

救世の軍勢(イェルクチラ)』一の胸を持つクーリンをもしのぐそれを揺らされ、クーリンとララディは愕然とする。


 とくに、ララディは『救世の軍勢(イェルクチラ)』一の貧の者だ。そのショックは計り知れない。


「うがぁぁぁぁぁぁっ!!許せねーです!マスターをさらったことも含めて、死刑確定です!!」


 荒ぶるララディに応えるように、ラルドの残党たちをもぐもぐしていた植物たちが一斉にこちらに振り返る。

 そして、なんと地面から自ら這い出て自走し始めたではないか。


「なにそれ、キモイわっ!!」

「キモイって言うなです!!」


 まさかの仲間であるはずのクーリンからの罵声に、ララディも顔を険しくする。

 その間にもズダダダダッと植物とは思えないほどの素早さでアリアに接敵する。


「……下界には、不思議な植物もあるんですね」


 少々驚きながらも、アリアは見事に対応してみせる。

 迫りくる植物たちを、順にタッチしていく。


 すると、ソルグロスの四肢を破壊したときのように、あっけなく植物たちが壊されていく。


「ふぁぁぁぁぁっ!?なんですか、それ!?」

「植物風情じゃダメってことね!」

「ララを侮辱するなです!」


 植物なら、いくら常軌を逸した行動を見せようとも、防御力が弱いというのも納得だ。


「ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


 ならば、強力な魔物であるオーガならばどうだ。

 散っていく植物たちに紛れるように接近したオーガは、勢いよく拳を振りおろし……。


「はい」

「ギャァァァァァァァァァァァッ!?」


 アリアの軽いはたきで吹き飛ばされた。


「…………はぁっ!?」


 これには、流石のクーリンも愕然とする。

 彼女の使役しているオーガは、ただのオーガではない。


 野生のオーガよりも、何倍も強化されている。

 しかし、それでもオーガを倒すことができる者は存在する。


 そんなことは重々承知のクーリンは、だからこそいつも巨大な魔法陣を開いて複数のオーガを召喚しているのだ。

 だが、今までの敵はオーガを倒すことはあっても、一撃で……それも簡単にはたいた程度で倒すことができた者はいなかった。


「くっ……!!」


 クーリンは召喚していたオーガを、一斉に襲い掛からせる。

 ゴブリンなど、多少強化されていてもアリアには敵わないだろう。


 オーガたちはクーリンの指示に従い、猛然とアリアに襲い掛かった。


「何体向かって来ても一緒なんですけどね」


 アリアは軽くため息を吐き、自分の背丈よりも巨大なオーガに襲い掛かられても平然としていた。

 迫りくる攻撃を避け、代わりに軽く身体をタッチする。


 それだけで、強靭なオーガの肉体は破壊される。

 上から振り下ろされる硬い拳を避けてタッチ。


 空気の破裂音を生じさせながら迫る膝蹴りにタッチ。

 牙をむいて食らいつこうとしてくる頭にタッチ。


 それだけで、オーガたちは身体を破壊されて命を落として行った。

 先ほどクーリンとララディがラルドの残党たちを皆殺しにしたこともあり、オーガの死体が加わった今、とてつもなく赤くて血なまぐさい光景になっていた。


 それを見て、アリアはふとあることに気づいた。


「……植物はどこにいきました?」


 オーガたちと共にラルドの残党を血祭りにあげた食人植物たちの姿が消えていた。

 不可解に思っていると、地面が小さく揺れる。


 その揺れはどんどんと大きくなり……。


「おぉっ」


 ドゴッとアリアの立っていた地面が崩落した。

 代わりに現れたのは、大口を開ける巨大な植物であった。


 いくらアリアとは言えども、それから逃げるすべは持ち合わせていなかった。

 結果、彼女は植物に頭から飲み込まれたのであった。


「ふーはははははははっ!!作戦大成功です!!」


 植物と共に現れたララディは、高笑いをして勝利を宣言した。

 オーガを囮にして、本命は食人植物である。


 こっそりと隠れていたのだが、うまくいった。


「出てくるのが遅いのよ!!あたしのオーガ、めちゃくちゃ殺されちゃったじゃない!」

「文句言うなです!うまくいったんだから、ララを褒め称えるべきです!!」


 ギャアギャアと喧嘩をするクーリンとララディ。

 敵を倒した後でも、褒め合うなんてことは決してしないのが『救世の軍勢(イェルクチラ)』である。


 顔を近づけあって罵声を吐き散らしていた二人であったが、その喧嘩はララディがハッとした様子でアリアを取り込んだ植物を見たことで終わりを告げた。


「……?何よ、いきなり。急に黙り込んだら、気持ち悪いわよ」

「……ヤバいです」


 クーリンの挑発にも、ララディは反応しない。

 ギルドの中でもスーパー短気な彼女が反応しないので、クーリンは気持ち悪さを覚える。


「ちょっと。あんた、本当にどうしたのよ?」

「…………」

「あんた、あの植物に取り込まれたら生きている奴はいないって言ってたじゃない。なんか、凄い消化液を出すんでしょ?」

「……そうです。あれは、一瞬で鉄でも溶かしてしまう消化液を、中にたっぷりと満たしているんです。いわば、あの中にソルグロスがいると思ってくれたらわかりやすいです」

「うげ……」


 植物の中でスタンバっているソルグロスを想像し、嫌そうに顔を歪めるクーリン。

『お待ちしていたでござる』とか言うな。


「で?そんなのに取り込まれたら、いくらあいつでも死ぬでしょ?てか、あたしでも死ぬわ」

「普通はそうです。でも……」


 ララディはえへへっと何だか達観したように笑った。


「普通、あの植物って獲物を溶かしたらさっさと地中に戻っちゃうんですよね。……何で戻っていないと思うです?」

「…………マジ?」


 ララディが何を言いたいのかクーリンが理解した瞬間、アリアを取り込んだ植物が爆発した。


「ぎゃあぁぁぁあぁぁぁっ!!消化液が飛んでくるですぅぅぅぅっ!!」

「あ、あぶなっ!どうにかしなさいよ!!」

「無茶言うなです!!」


 あわあわと逃げ惑うララディとクーリン。

 そんな彼女たちをしり目に、引き裂かれた植物の中から現れたのは、多少衣服が溶けているものの身体には大したダメージを負っている様子のないアリアであった。


「むぅ……服が少々溶けてしまって、なかなか艶めかしい姿になりましたね」


 本来は自分の身体ではないため、どこか客観的に見てしまう。

 クーリンをも上回る豊満な肢体は、所々衣服が溶けてチラ見えしているため、確かに非常に色気を醸し出していた。


「な、何であれに食われて生きているですか?」

「そう、ですね。……使徒だからです」

「説明が面倒になって適当言ってない?こいつ」


 とりあえず、使徒で押し通すことにしたようだ。


「さて、そろそろあなたたちも無力化しますね」


 アリアはそう言って、卓越した身体能力を活かして姿を消した。

 ただ素早く動いただけなのだが、他の戦闘タイプと違ってララディとクーリンは近接戦闘に特化しているわけではなく、目で追うことができなかった。


「じゃ、ララは失敬するですよ」

「あっ、ずっるい!!」


 ララディは自身を植物に食らわせ、その中に逃げ込む。

 召喚魔法使いであるクーリンは置いてけぼりにされて、殺意をみなぎらせる。


 生きていられたら一発殴る。


「じゃあ、あなたからですね」

「ちっ……!」


 目前に現れたアリア。

 その握っている拳を腹にでも叩き込まれれば、あっけなく意識を飛ばしてしまうだろう。


 だが、タダではやられてやらない。


「ゴーレム!!」


 クーリンは頭上に魔法陣を展開、ゴーレムを召喚した。

 硬くて重い岩石で構成された身体を持つゴーレム。


 それを、上空から落下させればどうだろうか?


「死ぬんだったら、あんたも道連れよ……!」

「……『救世の軍勢(イェルクチラ)』って、こんなのばっかりなんですか?」


 その異常なまでの戦闘意思の高さと覚悟の決まり具合に、アリアは辟易とする。

 さっさと諦めて攻撃をくらってくれたら楽なのに……。


 上空から落下してくるゴーレムの大きさは圧巻だ。

 今から逃げようにも、範囲の広さから逃げ切ることはできないだろう。


 ゴーレムというのは、ただの岩石で構成されているわけではない。

 魔物であるため魔力で強化された岩であり、たとえ生半可な魔法攻撃を仕掛けたところでビクともしないだろう。


 そんなゴーレムを、敵諸共自分も死ぬ覚悟で上空から落としたクーリン。

 死んでもマスターが助けてくれるだろうという強い信頼からくる安心もあったが故の決断だったが……。


「本当、お兄様は面倒な連中に囲まれていますね」


 アリアは軽く拳をゴーレムにぶつけた。

 それだけで、先ほどまでの再現のようにあっけなくゴーレムは木端微塵になった。


 アリアの拳が当たったところを起点に、一気に岩石が飛び散った。


「う、嘘……ふぎゃっ!!」


 その一つが呆然としていたクーリンの頭部に激突し、彼女は地面に崩れ落ちた。

 だくだくと血が流れており、一般人なら非常に危険な出血量になることは目に見えて明らかなのだが……まあ、『救世の軍勢(イェルクチラ)』メンバーだし大丈夫かとアリアは視線を外す。


 そして、その視線の先にはゆっくりと地中に潜ろうとしていた植物があった。


「逃がさないですよ」

「げふぅっ!!」


 アリアは一瞬で接近し、軽く植物をタッチする。

 かなりの防御力を持っているのだが、彼女の前では大した障害にはならない。


 植物は深い根を張っていたというのに、そのタッチであっけなく吹き飛ばされる。

 植物の中からどろぉっと出てきたのは、目をぐるぐると回しているララディであった。


「本当は殺したいのですが……やっぱり、お兄様に嫌われるのが怖いですね」


 アリアははぁっとため息を吐いて、残る『救世の軍勢(イェルクチラ)』メンバーの元に向かうのであった。



新作を投稿しております。

随分文字数書けてきているので、下から良ければ見てください!

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新作です! よければ見てください!


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