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第三百三十二話 白と黒の光

 










「(しかし、あまり余裕もありませんね)」


 デニスは額から汗を流し、自身の状態を今一度確認する。

 やはり、聖具を使うのは非常に精神力と体力を消耗する。


 それが、一つではなく複数だとすれば尚更である。

 ここまで耐えられているのは、ひとえにデニス自身の踏ん張りであった。


 しかし、今ここで戦わなければならないのである。

 天使への信仰を守るため、異教徒を滅ぼすため、魔王軍を撃退するため、デニスはその命を削るのであった。


「もう一度、天使様のお力を……!!」


 その強い信仰心に応えるように、聖槍『ザッパローリ』の槍先に光が集まり始める。

 再び、あの強力な光線を放とうというのだ。


 しかも、今回はデニスの生命力すら削った光線であり、先ほどよりも強力なものになっているだろう。


「これほどの光が集まれば、いくらあなたの夜のような薄汚い翼でも防ぎきることはできないでしょう?」

「ふふ~、どうかしらぁ?」


 はぐらかすアナトであったが、確かに彼の元に集まっている光力はかなりのものであった。

 黒い翼で防げないことはないだろうが、多少のダメージは負ってしまいそうだ。


 まあ、翼がなくなるのであれば、ちょっとくらいの痛みなら我慢するが。


「いきます!!」

「確かにぃ、あれだけの光を当てられたらぁ、ちょっと痛そうねぇ」


 とはいえ、あの程度では翼を焼切ることはできそうにもないので、ただ痛みを受け入れるほどの被虐嗜好も持っていないことから、アナトは迎撃することを選んだ。

 その手段として、彼女はどこからかあるものを取りだす。


 それは、会談の場でムラトフをボコボコにした時に使っていた、金砕棒であった。


「だからぁ」

「なっ!?」


 金砕棒を取り出しただけだったら、デニスは鼻で笑っただろう。

 その程度の棒きれで、天使の光を防ぐことなどできないのだから。


 しかし、その金砕棒が光り輝いて姿を変えていくと、目を見張ってしまった。

 物々しい棘が付いていた比較的太い形状だったそれは、細長い……デニスの持つ『ザッパローリ』に酷似したものになった。


「私もぉ、槍を出しちゃうわぁ」


 アナトは金砕棒から変化させた槍を構えて、ニッコリと微笑む。

 その槍先に、凄まじい勢いで黒い光が集束しはじめていた。


『ザッパローリ』と同じように光線を放つのだと確信したデニスは、力を完全に溜めきる前に倒してしまうことを決める。


「くっ……!!『ザッパローリ』!!」


 光線を放つデニス。

 しかし、一度力を使い果たして生命力を削ってそれを補てんした彼とは違い、アナトはまだ一度も使っていなかったため、彼よりも早く光を溜めることに成功した。


「お願いねぇ、『ファンデルフ』ぅ」


 そして、アナトは金砕棒の……いや、槍の真名をボソリと呟いて、その黒い光を放つのであった。

 デニスの持つ『ザッパローリ』から放たれた白い光と、アナトの持つ『ファンデルフ』から放たれた黒い光がぶつかり合う。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ちょっ、規模が大きいのよぉぉぉぉっ!!」


 その結果、ぶつかり合う地点から強い衝撃波が生まれ、乱戦状態であった戦場をひどくかき乱す。

 数多くいた天使教徒たち、意識を失っていた魔王軍、そして『救世の軍勢(イェルクチラ)』メンバーも誰一人例外なく吹き飛ばされる。


 アナトはクーリンたちが吹き飛ばされているのを見て、ちょっとニッコリした。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 少しでも気を抜けば押し切られてしまいそうなせめぎ合いの中、デニスは歯を食いしばってなんとか耐えていた。

 もともと、戦士でもないため体力は人一倍ないデニス。


 聖具という消耗量の多い武器を使っているため、もはや彼の身体は限界だ。

『ザッパローリ』を支える腕からは、血も噴き出す。


 しかし、それでも彼は決して聖槍から手を離そうとはしなかった。


「わ、私の信仰は……私たちの信仰は!邪教に屈することはないのです!!」


 アナトは意外なデニスの抵抗に、首を傾げる。

 あっさりと押しつぶせると思っていたのに、案外拮抗している時間が長い。


 疲労していた先ほどまでのデニスを考えると、もう押し切れてもいいはずなのだが……。

 そこで、彼女は祈りを捧げる天使教徒たちを見た。


 強く目を瞑り、必死に祈る姿。その祈りが、デニスの力になっているのだろう。


「……気持ち悪い」


 だが、その美しい光景は、アナトにとって不愉快以外のなにものでもなかった。

 一瞬見せた冷たい目をすぐにかき消し、いつもの穏やかな笑みを見せる。


「ふふ~。この勝負を決めるのはぁ、あなたたちの信仰が強いかぁ、私の天使に対する憎しみが強いかよねぇ。じゃぁ、そうなるとぉ……」


『ファンデルフ』から放たれる黒い光の量が、一気に増大する。

 先ほどまでの二倍ほどにまで、その圧が強くなったように感じられるほどだ。


「なっ、何故!?何故『ザッパローリ』の光が押されて……!?」

「そうなるとぉ、私が負けることはないわぁ」


 必死に食い下がるデニスだったが、それも一瞬だけ。

『ザッパローリ』から放たれていた白い光は、黒い光によって一気に押し戻されていく。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 そして、ついにはデニスの身体を飲み込むのであった。


「あらあらぁ……あなたたちの信仰もぉ、大したことないのねぇ」


 所々が焼け焦げてしまったデニスが、意識を失って地面に落ちる。

 彼を空中に留まらせていた『ホイッスラー』はその光で焼き消されてしまったようだ。


 ゼルニケ教皇国を支えてきた聖具の一つが、ここに失われたのである。

 そんな地に落ちたデニスと呆然とする天使教徒たちを見て、アナトは歪に微笑むのであった。



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