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第二百九十五話 精神汚染の内容

 










 マスターはクランクハイトが二人を眠らせた後、彼女たちを比較的安全だと見られる宿屋の中に連れ込んでベッドに寝かせた。

 彼女たちから離れる際、過剰なまでに魔力を込めた防御壁を作ったのは余談である。


 結果として、なけなしの魔力がまた減ってしまったのだが、ギルドメンバーを守るために魔力の消耗は惜しまない。

 再び、外に出てきたマスターに、クランクハイトは自分の分析した結果を報告する。


 マスターが、どうしてギルドメンバー同士では争っていたのに、自分には攻撃してこなかったのかという疑問を呈したため、それを考えていたのだ。

 もともと仲が悪かったから……というのは思考の停止だ。


 クランクハイトはそれ以外の原因を考えた。


「た、多分だけど、あ、悪魔の精神汚染が女の負の感情を増幅させるものだから……かな……?」


 クランクハイトの考えた推察はそれだった。

 暴れていた女の魔族たちは、悪魔によって何らかの負の感情を暴走させられた。


 マスターに助けを求めていた男を攻撃した女は、あの男と親しい間柄だったのではないだろうか?

 普段の共同生活で溜まった負の感情が増幅させられて……という感じである。


 そして、これなら『救世の軍勢(イェルクチラ)』のメンバーがマスターに攻撃を仕掛けなかったことも理解できる。


「わ、私たちはマスターに負の感情を一切持っていないから……」


 そう言われて少し嬉しそうだ。

 メンバー同士ではドロドロの殺意を抱きあっているのだから、そんなものが増幅させられれば殺し合いに発展してもおかしくない。


 普段は何とかマスターの前では我慢しているが、本当はいつどこでも隙があれば仕留めたいのだ。

 だから、負の感情を増幅させられた今は、マスターの前でも戦闘を行っていたのだろう。


「ま、マスターが抱き着かれたのは、あ、あいつらがマスターに抱いている感情の中で最も負に近い性欲を増幅させられたため……だと思うわ……」


 凍りつくマスター。

 うちのメンバーはそんなに男に飢えているのか……と斜め上の納得をした。


「わ、私は違うけどね」


 クランクハイト、ここで他のメンバーを淫乱にして自分だけは違うと評価を上げようと画策する。汚い。

 しかし、彼女はここで一つ安堵のため息を漏らす。


 少なくとも、一騎当千並の力を持つギルドのメンバーがマスターに襲い掛かることはなくなったのだ。

 マスターに牙をむくのであれば、クランクハイトはアスモデウスの力を存分に振るって殺しにかかるが、流石にギルドメンバー全員を相手にするのはキツイ。


 まあ、全員がこの魔王城にいるわけではなく、何人かは外に出て無事だろうが……。


「ま、まあ、こ、今回の敵はそれなりに強いのかもしれないわ……」


 マスターが、ギルドメンバーにも精神汚染を及ぼせるほどの力を持つ悪魔が敵だと知って驚いていることに答える。

 実は、リッターやリースは他の魔族たちのように完全に支配されてしまったというわけではない。


 そもそも、彼女たちの精神汚染系の魔法に対する抵抗はそれなりに強い。

 それに加え、マスターの力が少量込められたギルドの紋章があれば、大抵の精神魔法は防ぐことができる。


 今回の敵はその防衛網を潜り抜けられるほどの力を持っているようだが、リッターとリースの正気を完全に失わせることはできなかった。

 実際、リースは黒龍として戦っていなかったし、リッターも悪魔の力を全力では振るっていなかった。


 それは、この国がせっかくマスターにあげたプレゼントであり、戦闘の余波で壊すのはもったいないということが、心のどこかで残っていたからだ。

 ……とはいえ、それぞれが相手を本気で殺そうと思っていたことは事実である。


 本気で殺すつもりであることと全力で戦うことは違うのである。

 マスターはうーんと伸びをして、少し余裕のある笑みを浮かべていた。


 彼は、暴れている人々の中で一番力の持っていると考えられる『救世の軍勢(イェルクチラ)』のメンバーを抑えられたので、あとは悪魔を見つけ出して締め上げるだけだと考えているのである。

 男に飢えているのはリッターとリースだけだと、本人たちに伝えればひどくショックを受けそうなことを考えていた。


「えっ……?」


 その甘々な考えに、クランクハイトは目を大きくする。

 この男、ギルド内での自分の重要性をいまいち理解していない。


「そ、その……ま、マスター、い、言いづらいんだけど……」


 首を傾げるマスターに、非情な現実を突きつける。


「ほ、他のメンバーもこんな感じだと思うわ」


 ――――――。


 一瞬間が空き、マスターは苦笑する。

 まさか、そんなわけあるはずがない。


救世の軍勢(イェルクチラ)』のメンバーが、全員男に飢えているというのだろうか。


「い、いえ、わ、割と冗談じゃないわよ」


 マスターは気づいていないようだが、『救世の軍勢(イェルクチラ)』メンバーのマスターに対する依存度や愛情は非常にマズイレベルで深い。

 マスターが気づかないのは、表だってそのような感情をむき出しにして彼に迫ることがほとんどないからである。あと、鈍感。


 その理由は、メンバー同士が相互に監視し合って牽制しているというものであるが、マスターが知る由もない。

 クランクハイトに言われて、マスターは表面上穏やかな笑みを浮かべているものの、内心では深刻な面持ちであった。


 お見合いでもさせた方がいいのだろうか?

 マスターの考えが斜め下をいっているのであるが、このことに気付ける者は誰もいなかった。


「そ、そうね……」


 とにかく、他のメンバーも探さなければならないと言ったマスターに頷く。

 悪魔に精神汚染された彼女たちを、このままのさばらせているわけにはいかない。


 リッターとリースのように衝突をしているのであれば、早く止めないと王都がむちゃくちゃになってしまう。

 戦闘の余波だけで一般人は死んでしまうのだ。


 クランクハイトは、もう少し待っていずれかのメンバーが死んでしまうのを待ちたかっただが、マスターの前でそんなことを言えるはずもない。

 マスターは探索魔法を使う。


 すると、いくつもの戦闘が勃発していることが分かったが、とくに大きな規模のものが二つ見つかった。

 マスターとクランクハイトは、その戦闘の元に向かうのであった。



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