第二十三話 花畑の戦い
「うぉぉぉぉっ!!」
オークの重たそうな攻撃を、重装備の男が受け止める。
……男とか少年とかだったら呼びづらいし、心の中では名前呼びでいいか。
「はぁぁぁぁっ!!」
そして、オークが攻撃後の硬直している隙に、軽装備の少年がオークを斬りつける。
綺麗な花に、オークの汚そうな血が付着する。
おぉっ。人助けをする余裕があるくらい、彼らも強いようだ。
まあ、オークがそれほど強い魔物ではないということもあるだろうけれど、戦い方はとても様になっている。
よかった。僕たちが闇ギルドって知られていたら、彼らとの戦いは避けられなかったかもしれない。
「ロングマンさん!怪我をしたら下がってください!」
「おうよ!!」
ロングマンの後にやって来た女の子二人のうちの一人が、オークの攻撃で軽い怪我を負った彼に呼び掛ける。
その子は、アナトのように修道服を着ていた。
でも、ちょっとだけ意匠が違うね。よかった。彼女もマスター教とかだったら、僕失神していたかもしれない。
「天使様。彼に癒しを……」
「よし、助かった、メアリー!」
男が怪我をした場所に手を触れて、目を瞑って彼女―――メアリーが祈ると暖かな光が溢れ出す。
軽いかすり傷を負っていたロングマンは、すっかり全快してしまう。
……あれが回復魔法?
ふーん……まあ、『あの程度』で傷が治るから力を抑えたんだろうな。
僕が転んでしまった時は、アナトが顔を真っ青にして猛烈なまでに回復魔法をかけてきたから、ついつい比較してしまう。
あの時は凄かったなぁ。アナト、あれだけの回復魔法を使っていたら、死んでいた者も甦るのではないかと思っちゃったくらいだ。
もちろん、そんなことはないんだけれど。
「うぉぉぉぉっ!!」
少年―――ユウトの剣が、オークの首に突き刺さった。
オークは血を噴き出させながら、花畑の中に倒れこんだ。
いくら、生命力が強いオークでも、首にあれだけの致命傷を負えば戦うことはできないだろう。
『ガァァァァァァッ!!』
「しまったっ!?」
だが、その隙にロングマンが押さえていたもう一体のオークが、僕たち目がけて走り出した。
四人組が手ごわいと判断して、まだ戦っていない僕たちを標的にしたのだろう。
オークにしては賢い選択かもしれないけれど、僕はともかくララディはとっても強いよ?
とにかく、こっちに来たんだったら追い払わないと。
僕はそう思って、手に撃ち出す魔力を溜める。
「アース・バレット!!」
『グァァァァッ!?』
しかし、僕が魔力を撃ち出す前に迫ってきていたオークが土の塊に吹き飛ばされてしまう。
誰かと思えば、四人組の最後の一人である少女が、魔法を撃ち出したのであった。
おっ、助かったよ。ありがとう。
「……ッ」
そう伝えるも、プイッと顔を背けられる。
……まあ、こういうこともあるよね。
ギルドメンバーは違うんだけれど、僕は初対面の人……とくに、女の子からは避けられることが多々ある。
何でだろう……。清潔感は気を付けているんだけれどな。
「(あっ。こいつ、マスターのイケメンスマイルにダメージを受けたですね。もし、女を見せたら殺すです)」
ララディ、何であの子を睨んでいるの?
「あっ、最後の一体が逃げ出しやがったっ!!」
ロングマンの声に導かれて見ると、生き残りのオークがダッシュで森の中に走って行っていた。
仲間が二体もやられたので、勝てないと判断したのだろう。
「これは……追いかけられないみたいだね」
ユウトがそう言って剣を収めると、戦闘の緊張が緩和される。
いやー、助かったよ。ありがとう。
僕が四人組の彼らにそう伝えると、ユウトが申し訳なさそうに僕たちを見た。
「いえ、お礼を受け取れないどころか、僕たちは謝らないといけないんです。あのオークたちは、僕たちが違う場所で戦っていたんです。混戦の中、あの三体に逃げられて慌てて追ってきたところに、あなたたちがいたんです」
なるほど。やはり、こんなところにオークが自らやってくるはずはなかったのだ。
ユウトたちに追いかけられていたから、こんな見通しの良い花畑に乱入してきたのだろう。
「すみませんでした!」
「私からも謝罪します」
ユウトとメアリーがペコリと頭を下げる。
しかし、ロングマンと最後の女の子は謝ろうとはしなかった。
「…………」
ララディ。僕は怒っていないから、その忌々しそうな顔はやめて。
僕しか気づいていないけれど、いつかばれるから。
女の子は、僕をじーっと見てとても警戒している目をしていた。
な、何でだろう……?
とりあえず、僕は怒っていないことと、助けてくれたお礼を彼らに伝えたのであった。
「そう言ってくれると助かります」
「なっ?謝る必要なんてないって」
「ロングマン!」
はは、ロングマンはとても正直な子のようだ。
ただ、正直は美徳だけれども時と場合は考える必要があると思う。
現に、ララディの纏う雰囲気がとてつもなく冷たいものとなっているから。
この子が怒ったら、僕は止められないからね?
「……ねえ、あなたたち、何でこんなところにいるの?」
おっ、初めてあの女の子が話しかけてきてくれた。
ちょっと、嬉しいかも。
「ララの歩く練習です。ここは綺麗な花畑だし、連れてきてもらったです」
「……ふーん」
ララディが質問に答えると、何か疑念を抱えるような目で僕たちを見てくる女の子。
……うーん。どうやら、この子は随分と賢いようだね。
あまり、情報を渡さないように注意しないと……。
さて、じゃあ彼らが何でここにいるのかを聞こうかな?
「あ、僕たちは依頼を受けて、この森を抜けた村に向かっていたんです。その途中で、たまたまオークと遭遇して……」
それで、逃がしてしまったオークを追いかけて、僕たちと出会ったということか。
「あの……もしよかったら、僕たちが向かっていた村まで同行させてもらえませんか?やっぱり、どうしてもこのままじゃあ気がおさまらなくて……。この森は魔物が出ますから、それからあなたたちを守れば少しは償いになると思って……」
ユウトが恐る恐るといった様子で提案してくる。
う、うーん……ユウトが義理堅い性格だということは分かったけれど、これはちょっと有難迷惑かな?
僕たちのギルドと彼らが向かっている村はかなり離れているだろうし、そもそも、この森に出てくるような魔物では、ララディどころか僕でさえ相手にならない。
別に、彼らに守ってもらえなくても、この森の隅から隅まで探索できてしまうだろう。
本当は断りたいんだけれど……。
「どうするです……?頭がぱっぱらぱーになる香りを出す植物を出すですか?」
ララディが僕にしがみついて、ぼそぼそと提案してくる。
……うん、やり過ぎだから。
頭がぱっぱらぱーって何?どんなに強い毒草を嗅がせようとしているの?
僕は、彼ら四人組を守るために、ユウトの提案を受け入れたのであった。




