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【書籍化】闇ギルドのマスターは今日も微笑む  作者: 溝上 良
第三章 勇者パーティー編
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第二十二話 オークと勇者パーティー

 









 う、うわ。キラキラと輝いていたララディの目が、一瞬で澱んだ海のように……。

 と、とりあえず彼女の目の件はさておき、一体何事かと驚きながらも声の方向を見る。


 あ、オークか。

 とてもポピュラーな魔物の一種である、オークがこちらに向かって猛然と走ってきていたのであった。


 それも、複数体。

 まあ、オークが少数ながらも群れて行動することはさほど珍しくない。


 ちょっと不思議なのは、オークは木々の生い茂る陰鬱とした暗い森を好んで住処にする。

 森の中とはいえ、僕たちがいる花畑はかなり広く、見通しがいい。


 だからこそ、オークをすぐに見つけることができたのだけれど、こんなところにオークが突撃してくるだろうか?

 色々考えるが、現にオークは僕たち目がけて猛突進しているのだから、考えても仕方ないか。


「あのオーク……よくも……っ!!」


 僕の隣にいるララディが、怒りで鬼のような形相を浮かべてオークを睨みつけていた。

 いつもニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべてくれる彼女と比べると、ひどくギャップがある。


 ララディがこれだけ怒っているのは、簡単に予想ができる。

 オークたちは僕ら目がけて猛然と走り寄ってきているのだけれど、その重たい脚を蹴りあげるたびに綺麗な花が無残にも飛び散ってしまうのである。

『普通の』人間である僕でも眉を顰める光景なのに、植物と深くつながりのあるララディからすると絶対に許せるような行為ではないだろう。


「絶対に許さねえです……っ!!」


 ララディの背後から、ズルズルと太い植物の蔓が現れて、獲物を貫くのを待っているようにふらふらと揺れている。

 本当ならララディに全部任せて僕は後ろで見ていても大丈夫だろう。相手は単なるオークだし。


 でも、やっぱり彼女だけを戦わせるなんてことはできないよね。

 僕だって最近はギルドに引きこもりっぱなしだったけれど、ギルドを作る前までは旅をしていて戦闘の機会を得ていた。

 オークくらいなら大丈夫……なはずだ。


「ま、マスター……ララを守るために……っ」


 ララディは隣に立った僕を、感動に打ち震えたようにキラキラとした目で見てくる。

 あと、脚がガクガクしている。


 あれ?もしかして、オークと戦うのが怖いのかな?

 なんだったら、全部僕に任せてくれてもいいんだけれど。


 そう伝えると、ぶんぶんと激しく首を横に振るララディ。

 長くてふわふわの緑髪が靡いて、僕に当たってちょっと痛い。ビシビシ痛い。


「マスターとの初めての共同作業!頑張るです!」


 うん、言葉には何か引っかかるものがあるけれど、間違いではないよね。


『オォォォォォォッ!!』


 オークたちと僕たちの距離が随分と近くなってきた。

 近くで見ると、かなり汚らしい身体である。


 まあ、人間と違ってオークには水浴びの習慣はないようだから、仕方ないんだろうけれど。

 僕は接近戦にはそれほど自信がないし、今から魔力を彼らにぶつける戦い方をしようと思う。


 ララディも同じタイプなので、蔓がうねうねとしながらオークたちを狙っていた。

 そうして、そろそろ攻撃を仕掛けようかなぁと思って僕とララディが態勢を整えたときだった。


「待てっ!!」


 僕のものでも、ララディのものでもない声が花畑に響き渡ったのであった。

 もちろん、オークは人間の言葉を話せないので除外する。


 ……ということは、第三者だろうか?

 その疑問は、すぐに解決されることとなった。


 オークがその声に驚いて固まっている間に、僕たちとオークの間に一人の少年が現れたのである。

 鎧を装備しているが、騎士のようにガチガチに武装しているというわけではなく、リッターのように要所要所を隠しているような軽装備。


 手には立派な剣を持っていて、僕たちに背を向けている。

 このタイミングの良さ、まるでヒーローのようだ。


「あ、こいつは確か……です」


 ララディは小さな声でそう呟いていた。

 ん?知り合いかな?


「はぁ、はぁ……っ!ちょっと、待てよ!」


 僕たちの前に立ちはだかる少年の元に、一人の男が駆け寄る。

 この男は重装備だな。騎士かな?


 男の後ろには、二人の女の子も付いてきていた。

 ……どこかに所属しているギルドのメンバーだろうか?もしそうだったら、ちょっとまずいな。


「はいです」


 僕が目配せをすると、ララディがコクリと頷く。

 彼らにばれないように小さな花を地中から出して、その花びらの中に入ってあった粉を掴む。


 それを、ギルドの紋章が入れられている右の頬にパホパホとまぶすと、あら不思議。ララディの右頬には、何も描かれていないたまご肌が露わになっていた。

 察しがよくて助かるよ。


 ララディの素早い対処のおかげで、あの四人組には見られていなかったようだし。

 僕たち闇ギルドは、正規ギルドやグレーギルドと対立しているからね。

 無駄な戦闘は避けたい。


「僕たちが来たからには、もう大丈夫ですよ」


 最初に駆けつけてくれた少年は、そう言ってニコリと笑いかけてくれる。

 う、うん……どうもありがとう。


「けっ」


 ら、ララディ。死んだ目をしながら唾を吐くのはやめたほうがいいんじゃないかな?

 ここ、君の大好きな花畑だよ?

 あと、見た目とギャップがあり過ぎて凄い。


「おっ、可愛い子がいるじゃん。こりゃあ、負けられないな!」

「(お前に言われても嬉しくねーです。マスター、プリーズ)」


 重装備の男はララディを見て、気合を入れていた。

 そうだろう!可愛いだろう!


 僕の娘同然のギルドメンバーは、皆可愛いのだ!

 ララディも褒められたら喜んでもいいんだよ?


「よし、行くよ!ロングマン!」

「おうよ、ユウト!!」

『グォォォォォォッ!!』


 ユウトと呼ばれた軽装備の少年と、ロングマンと呼ばれた重装備の男がオークに向かって行く。

 オークも新たな獲物が来たとばかりに襲い掛かる。

 こうして、ほのぼのとしていた花畑は戦場になったのであった。




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