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第二百一話 古龍たちの行方

 










 ドラゴンたちの集落は、レオニダ山脈の奥深いところにある。

 これなら、間違っても部外者が立ち入ることはできないだろう。


 陸からはあまりにも深い森が邪魔して無理だろうし、空を飛んでもクレイグのような見張りのドラゴンがいる。

 先ほどはリースが頑張ってくれたから無傷だったけれど、ドラゴンと空中戦を繰り広げて無事でいられる者は、この世界にほとんど存在しないだろう。


 そのことから、ドラゴンの集落はエルフの集落並に閉鎖的で未だに人間にとって未知な場所であるのだった。


「おー。久しぶりに帰ってきたなぁ……」


 地面に降り立ったリースは、懐かしそうに辺りを見渡す。

 あの……もう、地面に降りたから、僕のことを離してくれてもいいと思うんですけれど……。


「もっと帰ってくる頻度を増やしていただいてもいいんですよ?マスターとイチャイチャしたい気持ちはわかりますけど」

「い、イチャイチャって言うなっ!!」


 クスクスとアリスがからかうと、リースは顔を真っ赤にして僕の身体に回している腕に力を込める。

 あ、あばら骨が逝く……。


「というか、お前は私に族長を押し付けたいだけだろ!」

「それは、そうですよ。そもそも、妹の私よりも姉上がなるべきだったんですから」


 ドラゴンというのは、案外血というものを重視する。

 まあ、魔族だからやっぱり力ある者に従うんだけれどね……。


 おそらくだけれど、血や力で考えてもアリスよりもリースの方が族長に適していると言えるだろう。

 それに、面倒見もいいしね。


「仕方ないだろ。マスターと出会ったんだから……」

「最初に会ったのは私ですよ!」

「そんなの関係ないだろ!!」


 な、何故また喧嘩を……。

 久しぶりに会ったんだから、もっと仲良くすればいいのに……。


「……では、俺たちはこれで」

「クレイグ、ちょっと待て」


 後から遅れて降り立ったクレイグは、ラスムスを連れてこの場を去ろうとする。

 そんな彼を、アリスが呼び止める。


「明日、『あの事』で再び集まって会議をする。それには、お前も参加しろ」

「……はっ」


 クレイグは軽く頭を下げると、再び僕たちに目をやることなく去って行った。

 うーん……なんだか、アリスとクレイグは仲があまりよろしくないようだね……。


「な、なあ……」


 ん?

 声をかけられた方を見ると、そこにはラスムスが居心地悪そうに立っていた。


 あれ?お父さんの後についていかなくていいの?


「い、行くよ。でも、一応謝っておこうと思って。ぞ、族長の家族だったんだろ?ご、ごめん……」


 僕は目をパチクリと開いてしまう。

 まさか、この子に謝られるとは思っていなかったのである。


 ラスムスは僕たちを見ながら、合間にチラチラとアリスを見ている。

 ……あぁ、なるほど。アリスに嫌われたくないのかな?


 ほほー。青春だねぇ……。

 僕はニコニコしながら、構わないと告げる。


「ああ、別にいいぞ。お前らくらいなら、何されても負けないし。ただ……」

「た、ただ……?」


 リースも何故か石を拾い上げながら、優しく謝罪を受け入れる。

 しかし、最後の言葉にごくりと喉を鳴らす。


 リースはわざとらしく大きな口を開けて、ギラリと牙を光らせる。


「――――――次にマスターを狙って攻撃したら、お仕置きするからな」

「ひ、ひぃっ!?わ、わかりましたぁっ!!」


 リースはそう言って、石を握力だけで粉々に砕いた。

 それを見たラスムスは、顔を青くして走って行ってしまった。


 そんな彼の後姿を見て、リースは満足気である。


「さて、それでは、私の家に行きましょうか。お二人とも、そこで泊まっていただいてよろしいでしょうか?」

「ああ」


 僕はもちろんと頷き、リースもまた頷く。

 厄介させてもらえるなら、これほど嬉しいことはない。


 ドラゴンの集落に、宿屋なんてあるはずもないからね。


「では、行きましょう」


 僕とリースは、アリスの先導についていくのであった。












 ◆



 アリスの家に到着してからは、夜も更けて晩御飯をいただいていた。

 料理というよりも、素材をそのまま出しているという感じなのだけれど、森の恵みというべきか食材はとても美味しいものばかりだった。


「おぉっ!この肉は美味いなっ!!」

「それは、この辺りを荒らしまわっていたコカトリスの肉ですね」

「へぇ。固そうなイメージがあるけど、案外いけるんだな」


 リースとアリスも素材そのものを美味しそうに喰らっている。

 そう、一切調理されている様子のない、血の滴る生肉を。


 ……えぇ、コカトリス?

 それって、かなり強力な魔物だったと思うんだけれど……。


 というか、今の現存しているコカトリスって、魔王軍配下の者ばかりじゃなかったっけ?いいの?

 僕の心配をよそに、一切気にした様子のないリースはもちゃもちゃと生肉を食らいながら、何かを思いついたように顔を変える。


「そう言えば、私が昔にいたときのドラゴンたちの姿が見えないんだけど、どうしたんだ?もう、くたばったのか?」


 あぁ、確かに、僕も知っているドラゴンを見なかったかも……。

 と言っても、あまりドラゴンたちのことを僕は知らないんだけれど……。


 しかし、昔に僕がドラゴンの集落でやったことを考えると、見たとたんに襲い掛かってきても不思議ではないと思うんだよね。

 でも、アリスの後に続いて歩いている時も、不思議そうに僕たちを見るドラゴンたちはいても、襲い掛かってくるようなドラゴンはいなかったし……。


「いえ、まだ元気でしたよ。あの老骨連中がそう簡単にくたばるはずがありません。ただ……」


 アリスは苦笑しながら教えてくれた。


「姉上と兄上が帰ってくることを知って、まるで蜘蛛の子を散らすように四方八方に飛び去って行きましたけど……」


 …………えぇ?


「はっはっはっ!そうか、逃げたか!」


 リースは心底面白そうに、豪快に笑う。

 口から滴る血が怖い。


 というか、どうして古いドラゴンたちがこの集落を去って行くの?


「そりゃあ、そうですよ。姉上の力はとんでもなく強い上に、あのドラゴンたちに対して良い感情は持っていないでしょうし……。それに、兄上なんてとんでもなく大暴れしたじゃないですか。トラウマになっているドラゴンたちも多いんですよ?」

「ひー!ひー!ど、ドラゴンがトラウマって……あははははははは!!」


 リースはアリスの言葉がツボに入ってしまったのか、お腹を抱えて大笑いする。

 確かに、最強の生物と多くの人が考えているであろう魔物であるドラゴンが、人間にトラウマを抱えるというのは少し情けないかもしれないけれど……。


 ……というか、僕、そんなにひどいことをしたかな?

 あまり考えたことはなかったんだけれど……。


「もう、笑いごとじゃないんですよ。彼らは歳をとっているだけあって、力は確かにあるんですから。今のドラゴンの集落には、彼らの力が必要だったんです。それなのに、この面倒な時期に逃げられたら……」


 はあっとため息を吐くアリス。

 ……何か、あったのかな?


「ん?何か、マズイことでもあったのか?」

「ええ……」


 リースも同じことを考えたようで、アリスに聞く。

 すると、アリスはきょろきょろと辺りを見渡した後、僕とリースの側に近寄ってきた。


「今、この集落にとある指令が来ているんですよ」

「ふーん……どこからだ?」

「魔王軍です」


 とてもネームバリューのある組織の名前が出て、僕とリースは少しの間固まってしまった。

 魔王軍。この大陸で知らぬ者は存在しないだろうと推測される、誰もが知る魔の軍団である。


 魔族の王である魔王が率いる魔王軍は強力な組織で、人類と何度か大きな戦争を繰り広げている。

 最近では活発的な活動はしていないようだけれど、それでもこの大陸に名を知らない者はいないだろう。


 言うことを聞かない子供に言い聞かせるときに、魔王の話をする大人もいるくらいだ。

 今のドラゴンの集落には、そんな大物から指令が届いているのか。


 ……一人間として、何だか凄く不安を覚えるよ。


「いや、マスターは大丈夫だろ。……それにしても、それは面倒だな」

「ええ、兄上は大丈夫でしょうけど……。一応、力は持っている古龍たちにいてもらえれば、魔王軍からの無茶な要求もはねのけられるんですけど……姉上と兄上が来たから、皆どこかに飛んで行っちゃって……」


 二人の間で、僕はどんな印象なの?


「そのことで、お願いがあるんですけど……」


 アリスが真剣な表情で、僕とリースを見る。

 お願いか……。


「明日の会議に、お二人も参加してくれませんか?兄上のことを知っているドラゴンたちは逃げてしまいましたが、存在を伝え聞いている者は多いですし……。それに、姉上は最強のドラゴンです。これで、魔王軍に従おうとする連中をけん制することができます」


 お願いの内容に、僕はなるほどとうなずく。

 リースほどの力を持つドラゴンがアリスの味方をしていれば、その反対派閥を抑え込むことができそうだ。


 僕はアリスのお願いならと、コクリと頷いて了承した。

 ……ところで、僕のことを伝え聞いているってどういうこと?


「まあ、可愛い妹の頼みだしな。それに、マスターも良いと言っているから、参加してもいいぞ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」


 ねえ、僕のことをどんなふうに伝えているの?

 エルフの集落でのことがあるから、怖いんだけれど。


「そう言えば、兄上は変わられましたね」


 アリスは柔らかく笑って僕を見てくる。

 お願いが聞き入れてもらえて気が楽になったのだろう、そんなことを言ってきた。


 うーん……そんなに変わったかなぁ……。


「昔は、今みたいにニコニコと笑うことなんてほとんどなかったじゃないですか。正直、最初見たときは誰かと思いましたよ。胡散臭い笑みを浮かべている人間だなって……」


 まあ、姉上が胸を押し付けているのを見て兄上だと確信しましたが、と続けるアリス。

 押し付けてないし!と顔を紅くするリースと口論を繰り広げているのをしり目に、僕は昔のことを少し思い出す。


 確かに、僕がリースとアリスに出会った時は、今のように常時微笑みを浮かべていたわけではない。

 そのことを考えると、僕も変わったのかな?


 でも、どちらかと言うとアリスの変貌の方が凄い。

 昔なんて、「左腕がうずく……っ!」みたいなことを言っていたのに……。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!昔のことは言わないでくださいって言っているじゃないですかぁぁぁっ!!」

「なんだ。お前から先にマスターの昔のことを引っ張りだしてきたんだろ」

「じゃあ、姉上だって……っ!!」

「止めろ!私を巻き込むなっ!!」


 ギャアギャアと姉妹喧嘩が始まる。

 こんな感じで、ドラゴンの集落での夜は楽しく過ぎていったのであった。




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