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第二百話 アリス

 









 目の前のドラゴンが頭を下げるのを見ながら、僕は一瞬このドラゴンが誰だかわからなかった。

 白いドラゴンというのは一人だけ知り合いがいるのだけれども、昔よりも随分と立派になっていたからだ。


 まあ、あの子なんだろうけれども。


「ああ、久しぶりだな、アリス。ちょっと、大きくなったか?」

「え、本当ですか?えへへ……じゃなくて!」


 リースの言葉に、白いドラゴン――――アリスは照れくさそうに笑う。

 これが、人間形態だったら可愛らしかったんだろうけれど、今のアリスは白いドラゴンである。牙がむき出しで怖い。


「久しぶりですけど……やり過ぎでしょう!?」


 最初は嬉しそうに照れていたアリスであったけれど、すぐにキッと目を吊り上げる。

 ……ドラゴンが怒って目を吊り上げるとか、とても怖い。


 ついでに、クワッと口も大きく開けて、姉であるリースを怒る。


「山脈の一部が消え去っているんですけど!?何をしたんですか、姉上!!」

「何って……ちょっとブレスを……」

「ブレス!?姉上のブレス!?」


 ガーンとショックを受けるアリス。

 うん。確かに、リースほど強力なドラゴンがブレスを吐いたら、とんでもない威力になることは分かっていたからね。


 まあ、戦いだったんだから、僕も止める気はなかったけれど。

 それに、この辺はドラゴンの集落に近いということで、人間や魔族は住んでいないし。


「そんなことをしたら、下手をすれば山脈の大半が焦土になるでしょう!!」

「ちゃ、ちゃんと手加減はしたぞ?」


 あわあわとしながらリースは言い訳する。

 手加減して、一つの小山の大半を消し飛ばすのか……。


 やっぱり、リースは規格外である。


「当たり前です!じゃないと、私も怒っていましたよ!」

「もう、怒っているじゃん……」


 妹の説教を受けて、シュンとなるリース。

 ちょっとかわいそうになったので、僕はアリスと会話をする。


 うーん……こういうところが甘やかしているんだろうなぁ……。

 でも、後ろから救世主を見るような目で見てくるリースは可愛いし、それにアリスとも久しぶりに話したかったからね。


「久しぶりですね、兄上。お元気そうで、何よりです」


 アリスはリースの時とは違い、柔らかな声音で話しかけてきてくれた。

 ドラゴンの顔を、うっすらと微笑みに変えてくれているような気もする。


 うん、アリスも元気そうでよかった。

 それにしても、久しぶりだね。


「そうですね。『あの時』以来です」


 そんなに前なのか……と、少し思い出に浸る。

 アリスがあの時というのは、僕が初めてリースやアリスと出会った時のことである。


 当時は、森に迷い込んで半泣きになりながらさまよっていたんだよなぁ……。

 そこで、この子たちと会えたのだから、結果的には良かったんだけれど……。


 うんうん。あの時から考えると、随分アリスの様子も変わったよね。

 昔はあんなに……。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?昔のことを引っ張りだすのはやめてくださいっ!!」


 ボフッと白いドラゴンの全身が煙に包まれる。

 そこから飛び出してきたのは、リースを少し幼くした感じの可愛らしい少女であった。


 ただ、違うところを挙げるとすると、髪の色がリースは黒でアリスは白である。

 さらに言えば、角の長さもリースの方が長い。


 そんなアリスが、顔を真っ赤にしながら手で僕の口を塞いでくる。


「お、おい!マスターにしがみつくな!重いだろ!」

「でも、姉上!兄上がからかってくるんですよ!!」

「分かったから、離れろ!ズルいぞ!」

「ズルい!?姉上が一番密着していると思いますけど!?」


 僕を挟んで激しく応酬される言葉。

 後ろからリースがギュッと強く抱きしめてきたと思えば、アリスは僕の口を押さえるために身体を押し付けてくる。


 ……二人とも、柔らかいものが当たっているんですけれど。

 しかも、二人とも発育がいいから、また……。


 まあ、家族同然の彼女たちに欲情することなんてないんだけれど、女の子としてどうなのか……。


「あ、あの……族長。そいつらと知り合いですか……?」


 ラスムスがおそるおそるといった様子でアリスに話しかける。

 怖がっているというより、なんだか緊張しているようだ。


 なんだか、もじもじしているし。

 ……ドラゴンがもじもじしている様子なんて、見たくなかったよ。


「ん、ラスムスか。ああ、そうだ。こちらは、私の姉上と兄上だ」


 アリスはそう言って僕たちを紹介してくれる。

 僕はドラゴンじゃないけれどね。


 ……それにしても、やはりアリスの話し方には違和感がある。

 僕は、あの小さかったアリスの話し方しか知らないからなぁ。


 ……今、そのことを言ったらまた顔を真っ赤にしてとびかかられるだろうから、黙っておこう。


「え、えぇぇぇっ!?じゃ、じゃあ、俺たち、とんでもないことをしてしまったんじゃ……」


 ラスムスはビクビクとしながら僕とリースを見た。

 いやー、まあ、リースに関しては謝った方がいいかもね。


 リースは、アリスの姉なのだから。


「まあ、お二人のことを若いドラゴンたちは知らないからな。とくに、咎めることもできない。……だが、クレイグ。貴様は、姉上のことが分かって攻撃を仕掛けたな」

「…………」


 アリスの詰問に黙り込むラスムスの父――――名前をクレイグと言うらしい。

 彼は人間形態にならないから、表情はいまいちわからないけれど……。


 竜の力を部分的に展開できるのは、純血のドラゴンだけである。

 今、人間になれば、クレイグは落ちてしまうから変身できないのだろう。


 うーん……そうなると、やっぱり僕にはどんな表情を浮かべているかはいまいちわからないなぁ。

 同じ種族であるリースなら、すぐに分かるんだけれどね。


「……いくら、族長の姉とはいえ、何の知らせもなければ見張りとして制止するのは当然です」

「なら、どうしてわかった後も攻撃を仕掛けた?」

「それは……」


 一応、言い訳をしてみるクレイグだけれど、アリスにすぐに返されて言葉も出ない。

 いや、だって明らかにリースに気づいて攻撃を仕掛けていたよね。


 この子が族長であるアリスの姉だということも知っていたはずなんだから、そんな言い訳は許されないんじゃないかなぁ。


「ふん。どうせ、私が気に食わなかっただけだろう。下手な言い訳などいらんぞ、クレイグ」


 アリスはそう言って鼻を鳴らす。

 人間の形態だから、怒っていても可愛く見える。


 しかし、くるりと身体を反転させると、僕とリースを見てニッコリと微笑む。


「すみません、姉上、兄上。さ、集落まで案内しますので、付いてきてください」

「ああ」


 リースは目の前の光景が何でもなかったように頷き、アリスの後に続いて飛ぶ。

 ……ところで、僕はいつまで君に抱かれていなければいけないのかな?


 別に、僕は魔法で飛べるんだけれど。


「ま、まあ、こんな機会もほとんどないし、今のうちに味わっておけよ。ドラゴンに抱っこされて運ばれるなんて、そうそう経験できることじゃないぞ?」


 リースはそう言って、もっとギュッと抱きしめてくる。

 いや、これ傍から見たら、僕が凄いマヌケに見えてしまうんじゃないかなって……。


「ははは、兄上。姉上はただ兄上と引っ付いていたいだけ……」

「う、うるさいぞ、アリス!お前の昔のことも、他のドラゴンたちに話すぞ!!」

「そ、それは関係ないでしょう!?」


 ワイワイと仲睦まじく会話をするドラゴン姉妹。

 僕はそんな姉に抱きかかえられながら、ちょっと情けない自分を見てため息を吐くのであった。


「父ちゃん……」

「…………」


 その時、後ろの方でドラゴンの親子がどんな顔をしていたかは、見ることができなかった。




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