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【書籍化】闇ギルドのマスターは今日も微笑む  作者: 溝上 良
第二章 闇ギルドの日常編
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第十八話 食堂冷戦【2】

 









「くぅぅっ!」

「ヴァンピール殿、羨ましいのであれば素直に口にするでござるよ。淑女とは言えないような顔をしているでござる」


 目を紅くして僕を睨みつけるヴァンピールに、水をゴクゴクと大量に飲み干しながら言うソルグロス。

 ヴァンピールは貴族みたいに優雅だから、明らかにマナー違反をしているララディを許している僕が気に入らないのだろう。


「どうぞ、リースさん」

「お、ありがとう、シュヴァルト。……うん、美味い」


 シュヴァルトはとても大きな肉塊を切り分け、皿にのせてリースに差し出す。

 リースは目を輝かせてそれを受け取る。


 その肉はまだ血が滴っており、とても新鮮そうだ。

 リースは口を大きく開けて、それをペロリと食べてしまう。

 口の端に血がついているよ、リース。


「わっ……」


 僕が指摘すると、慌てて口元を拭うリース。

 そして、恥ずかしそうに僕を見る。


 仕草が男らしかったり、女らしかったりせわしない。

 そういうところも、彼女の魅力だが。


「二人ともぉ?かちゃかちゃ音を立てながら食べちゃダメよぉ?」

「うっ」

「はぅっ」


 クーリンとクランクハイトはというと、アナトに食事マナーでお説教を受けていた。

 二人とも、同じことで怒られるとか、仲が良いんだなぁ。

 それにしても、クランクハイトの目指す大人の女というのはなかなか道が険しそうである。


「マスター、あーんです」


 僕の膝上に座っているララディは、口元に料理を運んできてくれている。

 何だろう。何かを世話するのが、今の彼女の流行なのだろうか?

 食事のスピードは遅くなってしまうが、可愛いララディのお遊びに付き合ってあげる。


「はい、じゃあ次はマスターの番です。あーん」


 一通り、僕が食事を終えると、今度はララディが口を開ける。

 なるほど、してもらったらお返しをしないといけないね。

 僕はララディがポカンと開けている口の中に食べ物を入れると、美味しそうにモグモグと咀嚼する。


「美味しさが増すです」


 僕も、皆と食べていると料理がとても美味しく感じるよ。

 まあ、シュヴァルトが作ってくれる料理なら何でも美味しんだけれど。

 時折ララディに向けて鋭い視線が飛んでいる以外、とても穏やかに食事が進んでいった。


「なあ、こんなにギルドメンバーが集まっているし、定例会議を今日してもいいんじゃないか?」


 血の滴る肉をたっぷりと食べて満足した様子のリースが、突然そんなことを言った。

 ああ、定例会議か。


 僕のギルド……というかどこのギルドもそうだと思うけれど、毎月一日程度、ギルドメンバーが集まって色々なことを話しあう。

 他のギルドなら幹部メンバーだけだろうけど、僕のギルドはそもそも人数がとても少ないため、全員参加となっている。

 ギルドにいないことが多いメンバーも、その時ばかりは戻ってくる。


「そうねぇ、次いつ皆が集まれるかわからないし、いいかもしれないわねぇ」


 まとめ役のアナトが、顎に手を添えながら答える。


「マスター、それでいいでしょうかぁ?」


 うん、いいよ。

 僕は聞いてくるアナトにそう返す。


 アナトはコクリと頷くと、穏やかな笑顔を止めて真剣な顔になる。

 すると、ワイワイと騒いでいたメンバーも静かになり、真剣な表情をつくる。


 先ほどまで僕の膝の上に座っていたララディも、自分の席に戻っている。

 アナトはそんな状況を見て満足そうに頷くと、コホンと喉の調子を整えて定例会議開始の宣言をした。


「では、闇ギルド『救世の軍勢(イェルクチラ)』の定例会議を始めましょぉ」


 僕のギルドの特殊さが分かっただろうか?

 そう、僕たちのギルドは闇ギルド。


 王国や他のギルドからは犯罪ギルドとして、お尋ね者のギルドである。

 ……はあ、どうしてこうなったんだっけかなぁ。












 ◆



 定例会議といっても、大したことをするわけでもない。

 非常事態が起きた際に行う緊急会議ならともかく、この定例会議では皆元気でいるのかどうか、僕が見るために開催しているものなのだから。


 だから、基本的にこの会議で話し合う内容はなかったりする。

 皆、元気でなによりだ。


 皆はどうにも仕事熱心な気があるらしく、しょっちゅうギルドを留守にする。

 それでも、何人かはギルドに常駐しているけれど……。


「大丈夫です、マスター。私たちが『仕事で』怪我することなんてないですから」


 僕の心配を吹き飛ばすように、ララディが可愛らしい笑顔を見せてくれる。

 うーん……そうは言ってもねえ。


 今も、リッターやリース、クーリンに、クランクハイトは怪我をしているようだし……。

 その四人は、所々に包帯やガーゼをつけている。


「はいです。だから、『仕事』で怪我をすることはないです」


 ……ううん?

 ララディの言っていることが、いまいちよく分からない。


 四人はギルドメンバー間の訓練や喧嘩で怪我をしたのだろう?

 だったら、仕事となればもっと大きな怪我をしてしまう可能性があるんじゃないの?

 良く知っているメンバーだからこそ、手加減とかしているんだから。


「それが、そうでもないです……」


 ララディがテヘッと笑いながらそんなことを言う。

 ……うん?


「さて、マスターに報告することもないみたいですしぃ、定例会議はここまででよろしいでしょうかぁ?」


 アナトがポンと手を合わせて聞いてくる。

 うん、そうだね。


 皆の元気な顔が見られたし、僕はそれで十分かな。

 こうして、定例会議も終わったので食堂を出ようとするが、僕以外皆立ち上がる様子を見せない。

 どうしたんだろう?


「ララたちで仕事の報告をしようと思ってるです」


 不思議に思っていると、ララディが教えてくれる。

 うーん、なるほど。


 仕事の中には守秘義務が課されているものも、少なからず存在する。

 いくら、ギルドマスターとはいえ、その秘密を聞いたりすることはできない。


 うぅ……僕も何か仕事を受けられたらいいんだけれど、皆が強く反対するんだよね。

 ……そんなに信用ないかな、僕?


 これでも、皆と出会う前は旅をしていたから、荒事も経験があるんだけれど。

 まあ、今そんな不満を言ったって仕方ないか。

 僕は仕事を適度に頑張るようにみんなに伝えて、食堂を後にするのであった。


『さて、それではマスターにこの世界をプレゼントする算段を決める話し合いを始めましょう』


 ……僕、何も聞こえていないから。





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