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【書籍化】闇ギルドのマスターは今日も微笑む  作者: 溝上 良
第二章 闇ギルドの日常編
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第十五話 礼拝室にて【1】

 









 クーリンとクランクハイトの二人と別れてから、僕は残る最後のギルドメンバーを探して歩いていた。

 ギルドメンバーが少なすぎではないかと思うが、僕のギルドはその……色々と特殊だから、少人数なんだ。


 そのことは、また後で触れることがあるだろう。

 それにしても、今日は珍しくたくさんのメンバーと会えたね。


 僕はギルドマスターだから本部のこの城からはほとんど出ないし、多くのギルドメンバーは長期の仕事を引き受けているみたいだし……。

 僕はマスターだけど、あまり彼女たちの仕事には関知していない。


 そのあたりは、彼女たちに任せていてもしっかりしているから大丈夫だ。

 さて、とにかく、僕は最後の『あの子』にも会っておこう。


 ……でも、正直に言うと、彼女のことはちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、苦手なんだよね。

 いや、あの子は僕のことを慕ってくれていると思うし、尊敬もしてくれていると思う。度が過ぎているけど。


 僕自身、あの子のことが嫌いということは絶対にない。

 あの子も小さなころから子供のように思って、僕が育ててきたのだから。


 僕はそう考えながら、迷いなく歩みを進める。

 あの子がいる場所は分かっている。


 朝はあの場所で毎日祈りを捧げているらしいから……。

 僕はついにその場所にたどり着いた。


 そこは、ギルドである城に備え付けられた施設の一つである、礼拝室だった。

 こういった施設は大体ギルドメンバーの要望で作られるもので、この礼拝室もあの子たっての要望で作られたものである。


「…………」


 その礼拝室では、一人の女が静かに祈りを捧げていた。

 彼女が、僕の探し求めていた最後のギルドメンバーである。


 挨拶に来たのだが、あの子の真剣な様子から今はとてもじゃないが話しかけられない。

 触れてはいけないような神聖なものを、あの子の祈りから感じることができた。

 ……この子の信仰対象が『あれ』と違っていたら、もっと素直に見入ることができたのになぁ。


「ふう……」


 しばらく、邪魔をしないように静かに彼女の祈りを見ていると、区切りをつけるように息をついていた。

 もう、邪魔にはならないかな?

 そう考えて、僕は彼女に声をかけた。


「あら、マスター!」


 最初は礼拝室に誰かが入り込んだことが嫌だったのか、怪訝そうにしていた彼女は、振り返って僕だと気づくと、嬉しそうな笑顔を浮かべてこちらに近寄ってきた。

 彼女の名前は、アナトという。


 長いロングの金髪はとてもきれいなのだが、今はシスター服で隠れているため見ることができない。

 目は細く、いつも笑っているように閉じられている。


 アナトの穏やかな性格が表れているようだ。

 アナトはトテトテと小走りで近づいてくる。


 普段は「ギルドの中で走ったらだめよぉ」と、ヤンチャなギルドメンバーたちに注意しているアナトが、小走りとはいえ走っているところを見たら、皆驚くんだろうなぁ。

 いや、皆は時々喧嘩をしても仲は良いだろうから、このおちゃめな一面も知っているのかな?

 それに、アナトも時と場合は考えるだろうし、ここには今僕しかいないから小走りしているのだろう。


「おはようございますぅ、マスター。礼拝室にお越しになるなんて、珍しいですねぇ」


 穏やかでのんびりとした口調のアナトは、不思議そうに首を傾げている。

 僕は挨拶を返しながら苦笑する。


 いやぁ……だってねぇ……。

 僕だって見知らぬ神様に祈りを捧げるくらいなら、何も問題ないんだよ?


 進んですることはないだろうけど、娘のように思っているアナトが誘ってくれるなら、喜んで付き合うよ。

 でも、アナトが信仰対象としているのが以前と変わっていないなら、ちょっと厳しいかな……。

 僕は前と信仰対象が変わったのか、恐る恐るアナトに尋ねてみると……。


「変えるはずないじゃないですかぁ。もちろん、信仰しているのはマスターのままですよぉ」


 あぁ……やっぱり変わっていなかった……。

 まるで、熱にうなされているように頬を赤らめて陶酔するアナトを見て、僕は心の中でガクリと膝をつく。


 表面上は笑顔のままだけどね。もう、笑顔はほぼ固定だよ。

 それにしても、おかしい。


 いつから、僕は崇められるような人間になったのだろうか。

 まあ、長生きという点では凄いんだろうけども……。


「この礼拝室で、毎朝マスターに祈りを捧げているときが、一番幸せですねぇ。欲を言えば、もっと礼拝室を大きく、かつ荘厳にしたいのですがぁ」


 ダメです。

 これ以上の増築は、僕は絶対に認めたくない。


 そもそも、『僕を崇めるための』礼拝室なんて作りたくなかったんだよ。

 自分を崇めさせるための部屋を作るとか、気持ち悪いでしょ?


 でも、アナトがどうしてもと言うので、ギルドメンバーに甘い僕が珍しく難色を示しながらも作ったのが、この礼拝室である。

 これ以上大きくするとか、恥ずかしすぎて認められない。


「ううん……良い考えだと思うんですがぁ……」


 いやいや、多分アナト以外誰も賛成しないと思うよ。


「そんなことはないと思いますけどぉ……」


 アナトはボソリと呟く。

 とにかく、ダメだよね。

 僕みたいな個人を崇めるための礼拝室なんて、この世界で物凄い数の信者を持っている二大宗教の人たちが知ったら、怒るだけでは済まないんじゃないだろうか?


「あんな馬鹿げた宗教を信仰するなんて、馬鹿しかいないわぁ。皆、マスターを崇め奉れば幸せになれるのにぃ」


 爆弾発言だぁっ!

 このギルドには二大宗教を信仰している子がいないからよかったものの、信者が聞いたら卒倒してしまうかもしれないね。

 冗談でもそんなことは言ったらダメだよ。


「冗談……?」


 どうして、そこで首を傾げるのかな、アナト。

 何を言っているか理解していなさそうな、不思議な顔はやめようか。




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