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夜間連絡
山間を走る県道を幾分か越えると、山の入り口にあたる林道の標識が見えた。
日が暮れてから気づいたことは、この辺りは街灯が少ないということだ。危うく標識を見逃すとこだった。
ガス屋に勤めるなら、夜間に緊急の対応で駆り出されることはよくあることだ。ガス臭いなんて電話がかかってくるのはまれで(それは漏れてるかもしれない。これは緊急だ)、ほとんどは普段あまりつかってないのに、いきなりストーブだ風呂だとつかうとガスは止まる。ガスメーターがガスもれと勘違いするからだ。
今夜かかってきた電話も、話を聞く限り後者だった。電話をかけてきたのは若い女性で(声の張りから若いと思う)、高くもなく低くもないその声は、夜間当番でうたた寝をしていた僕の耳に何のバイアスもなく入ってきた。
なんでも、コンロを使おうとしたが、ガスが出ないらしく、同時に沸かしていた風呂も途中から水になったという。僕は緊急時対応としての手順を踏んだあと、ガスメーターの液晶に何か表示がないか確認してもらうために、ガスメーターを見ることが可能か聞くと、積雪がひどく見れないという。