○たい
※注意 一般的な恋愛小説ではない。
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目覚めた君は、蚊のなくようなか細い声でこう言った。
「私を愛していた?」
僕の返事を待つ君の目はただの目になってしまった。
頭の先から爪先まで、ただの人間になってしまった。
僕の体の中が、何か、で満ち満ちている。
目から涙が溢れだした。
何か、を僕は知っている。「理解したくはない」
何か、を僕は持っている。「望んではいない」
君だったものを見つめながら、
「君を愛していく。」
僕はそう誓った。
決意の証、最初の行動。
君の首元に僕の唇が触れる。そして・・・
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君は昔から料理が上手だった。
自他共に認めるほど。
君はとても美しかった。
僕にはもったいないくらいに。
君はとても知的であった。
少し抜けているところもあったけれど。
そんな君が病気になった。
無慈悲な余命宣告、そして選択。
君は幸せな死を、短い生を選んだ!
僕との生を選んだ!
こんな僕を!
なんの取り柄もないこんな男を!
君は愛していた!
愛してしまっていた!
だけど・・・僕は・・・
君は少しずつ動かなくなっていった。
動けなくなっていった。
君の担当医は優秀だった。
正確で、堅実で、冷酷だった。
だが、この世に全知全能な人間などいない。
君の担当医にも気付けないことがあった。
君が最も遠く、最も近い場所へ旅立つ日。
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余命の期日は過ぎた。
僕は料理をしている。
君は僕を見つめている。
完成した料理をもって、君の目の前に座る。
君が食べれない料理。
君は何だか嬉しそう。
僕は料理を口に運ぶ。
一口、一口、噛み締める。
君への愛を噛み締める。
君はとっても嬉しそう。
次の日も料理をする。
冷蔵庫の中身が少なくなる。
君は僕を見つめている。
僕は料理を口に運ぶ。
君への愛を噛み締めるために。
次の日も、その次の日も。
君はいつも嬉しそう。
冷蔵庫の中身が空になる。
僕の料理は今日で終わり。
君は僕を見つめている。
僕も君を見つめている。
君は僕を見上げている。
僕は君を見下ろしている。
僕の左手が君の額に触れる。
僕の右手が君の瞼を下ろす。
君の目を見るのはこれで最後。
君を見るのは・・・コレで最後。
「さようなら、僕を愛した人。僕が唯一愛せた人。」
この部屋に君はもういない。
君が僕を見つめてはいない。
僕は、最後の料理を口に運ぶ。
一口、一口、噛み締める。
君への愛を噛み締める。
僕は涙を流す。
歓喜と悲壮の涙を。
最後の愛を噛み締める。
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次の日の朝、彼らがやって来た。
僕は彼らを知っている。
僕は彼らを誰一人として知らない。
彼らがいつか来ることを、僕は知っていた。
彼らがいつ来るかを、僕は知らなかった。
冷蔵庫の中を確認する。
もうこの部屋に戻ることはないだろうから。
冷凍庫の端に、愛を見つけた。
料理をする時間は・・・無い。
凍ったそれを僕は口に運ぶ。
一口、噛み締める。
一口だけ、噛み締める。
これが本当に最後。
君への愛を噛み締める。
玄関の扉を開けて、彼らと向かい合う。
いくつか言葉を交わし、彼らの後についていく。
近くの女性に訊いてみる。
「貴女は、愛したい人を愛することが出来ますか?」
女性が答える。
「ええ、勿論。」
僕は質問を重ねる。
「それは、簡単なことですか?」
女性は少し考えて、こう答えた。
「簡単なこと・・・だと思うわ。」
「今の、今までの私はそうだった。」
僕が彼女に訊くことはもう何もない。
僕は彼女に失望した。
僕は彼女を羨望した。
彼女の答えに、僕は納得した。
僕はこれからどうなるのか。
僕はそれに興味がない。
ー部屋の中ー
最も味わいたくない快楽。
最も味わいたい苦痛。
僕はそれを同時に味わった。
だから僕には、感動も、退屈も、ない。
これから、永遠に。
君にまた会いたいな。
終わりor終わり?
自分のために創ったものなので、誰かが少しでも楽しんでくれたのならとても嬉しいです。