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第9話 壊れた

麻美が優斗と付き合ってから1か月が経った。

麻美は未だにふわふわした気分でいた。そんな麻美を優斗は呼び出した。


「話しって何?」

にこにこして麻美が優斗に聞いた。

優斗は、少しためらうようにしてから、口を開いた。

「俺たち…別れよう?」

麻美には一瞬、何を言っているのか分からなかった。

「え?どうして?何でそんなこと言うの?」

プチパニック状態の麻美を見て、少し困った顔で優斗は言った。

「俺たち合わないよ。」

「そんなことない!ね、何か私嫌なことした?何かしたなら謝るし、これから気を付けるから!」

そんな麻美を見て、優斗は大きくため息をついた。

「そういうところ、ほんと嫌い。もっとあっさりした子が好き。やっぱり桜ちゃんが最高だよ。」

「…え?今、何て…。」

「え?何?聞こえなかった?俺、桜ちゃんが好きなんだよね。っていうか、竹谷さんと付き合ったら近くに行けるし、チャンス増えるかなとか思ってたんだけど、桜ちゃんは振り向いてくれないし、竹谷さんうっとおしいし、疲れたわ。」

優斗は半笑いでそう言い放った。

「え、嘘、だよね?私のこと好きって…。」

優斗は鼻で笑った。

「俺が?竹谷さんみないな子、本気で好きに?ないない(笑)。そう思い込めるのはすごいよね。ある意味感心するわ。桜ちゃんと全然タイプ違うし。」

「た、確かに私は桜ちゃんみたいに可愛くはないけど…。」

「あ、なんだ、自覚あるじゃん。それならそれなりに、大人しくしててよ。まあ、俺と1か月も付き合えたんだ。感謝してよね。竹谷さんが俺のこと好きなのとかバレバレだったし、楽しかったでしょ?夢あげたんだから、今度は俺に協力してよ。桜ちゃんが俺のこと好きになるようにさ。」

優斗は笑いながら麻美にそう言い放った。

麻美はただただ呆然としていたが、次第に笑いが込み上げてきた。

「ふふ、ふふふふ。」

「な、なんだよ、気持ちわりい。じゃ、頼んだぞ?あ・さ・み・ちゃん?」

そう言い残すと、優斗はそそくさと帰ってしまった。

「あはは、ふふ、そっか、そうだよね、私なんて可愛くないんだ、ふふふ、ははは。」

何がおかしいのか分からないが、とにかく笑いが止まらない。

その状態で、麻美はなぜか石を握りしめていた。

「そうだ、人間を消すところ、私見たことないや。どんな風に消えるかな。」

そう言うと、麻美は石を握りしめたまま町に繰り出した。


麻美は人通りの多い道に来た。

「ふふ、試しに、そこのホームレスのおじさん消して?」

麻美が呟くと、おじさんは跡形も無く、一瞬で消えた。

「ああ、誰も気づいていない。まあ、そもそも誰も見ていないか。…じゃあ、今度はそこのパン屋のおばさん消して。」

陳列棚の整理をしていたパン屋のおばさんも、一瞬で消えた。

持っていたパンは、床に落ちた。

「わあ、目の前で人が消えたのに、誰もおかしいと思っていない。これはすごいなあ。」

そう呟きながら、今度は家族連れに目を付けた。

「あの、赤ちゃん抱いてるお母さん消したら、どうなるのかな?」

そう言うと、お母さんは消え、手に抱えていた赤ちゃんが地面に転がった。

「パパ、赤ちゃんちゃんと抱えとかないとだめだよ。赤ちゃんがいたいいたいだよ。」

隣の、お兄ちゃんらしき男の子がお父さんにそう言った。

「ああ、ごめん。なんで赤ちゃん放したかな、おーごめんよ、大丈夫か?」

お父さんは困惑しながらそう答えた。

「ふふ、すごい。赤ちゃんはお父さんが抱えていたことになっているのね。記憶の改ざんも、ある程度できるんだ。すごいすごい。」

にこにこ笑いながら、麻美は呟いた。

その調子で、何人かの人を消して、麻美は家に帰った。

「あはは、楽しかった。明日は何を消そうかな。ふふ。」

その麻美の目は、焦点が合っていなかった。


次の日、教室に着くと、麻美はにこにこしながら席に着いた。

その麻美を見て、少し心配そうな顔で桜が麻美に近づいた。

「麻美ちゃん?何かあった?様子が変だよ?」

「変?どこが?」

麻美はにこにこして答えた。

「笑っているけど、笑ってない。とにかく変なの!優斗と何かあったんでしょ。」

そう言われ、麻美は一瞬真顔になった後、また笑顔に戻った。

「うん、フラれた。まだ桜が好きだって。私、利用されただけだった。でも、石って楽しいね。何でも消せる。誰でも消せる。ふふ。」

それを聞いて、桜は優斗に近づいていき、思いっきりビンタした。

「この、最低野郎!あんたなんか消えちまえ!」

そういきなり言われた優斗は、泣きそうな、状況がうまく飲み込めていないといった表情で教室を出て行った。

そんな優斗を無視して、桜は麻美の近くに帰ってきた。

「麻美ちゃん、気にしちゃダメだよ?別に誰を消したって何を消したって構わないけど、自暴自棄になったら麻美ちゃんが辛いよ?あたしは麻美ちゃんの味方だからね。」

そう言って、桜は泣きそうな顔をした。

「どうして桜が泣きそうなの?」

「麻美ちゃんが辛いなら、あたしはもっと辛い。元気出して?」

そう言われ、麻美は初めて泣いた。本当は辛くてショックだったのだ。桜に抱きしめられながら、麻美はわんわん泣いた。教室の中だろうと、もう気にしなかった。


しばらくして、麻美も落ち着いた。

今回のことで反省した麻美は、石はもう使わないようにしよう、と思った。そこで、捨てたら帰ってきたと聞いたので、石はトイレに流した。

その直後だった。

「竹谷さん、ちょっと。」

トイレから出たところで、優斗に声をかけられた。

「わ、私急いでるから。」

麻美はそう言って走って逃げようとしたが、優斗に腕をつかまれた。

「ねえ、桜ちゃんに言ったでしょ、俺のこと。ふざけんなよ、恩を仇で返しやがって。」

優斗は麻美を睨みつけた。

「お、恩なんて。人の心踏みにじったくせに。」

麻美の声は震えていた。

「はあ?知らねーよ。っていうかさあ、前から思ってたけど、桜ちゃんと竹谷さんって、異常なほど仲良いよね?っていうか、桜ちゃんって、竹谷さんにだけ、異常に優しいんだよね、何で?」

「し、知らないよ、そんなの…。」

麻美は下を向いた。

それを見て、優斗はニヤッとした。

「やっぱり。桜ちゃん、竹谷さんのことが好きなんだね。」

言い当てられて、麻美はビクッとした。

「竹谷さん分かりやすくて便利だわ。ね、このこと噂されたく無かったら俺のいうこと聞いてよ?ね?」

「そ、そんな…。」

「嫌なの?ならいいよ、桜ちゃんは女の子しか愛せませんーって言いふらしてくる。」

優斗がくるっと後ろを向いて帰っていこうとした。

「ま、待って!」

麻美は思わず優斗の服をつかんでいた。

「何?服伸びるからやめてほしいんだけど。」

「そ、その、分かったから…。それはやめて…。」

消え入る声でそう言った麻美を見て、優斗は吹き出した。

「あははは!そうだよね!大事な友人だもんね!?見捨てられないよね!あー傑作。じゃ、頼んだからなー。」

そう言うと、優斗は麻美を振り払って帰っていった。

「ど、どうしようどうしよう。」

麻美は真っ青な顔で家に帰った。


「石はトイレに流しちゃった、どうしよ。」

そう言いながら自分の部屋に帰った。

そして、携帯で桜に連絡を取った。すると、すぐに桜が麻美の家に来た。

「麻美ちゃん!?」

慌てた様子で麻美の部屋まで来た。玄関を開けてもらった途端に上がりこんだらしい。

「さ、桜、ご、ごめ…。」

そう言う麻美を、何も言わずに桜は抱きしめた。

「謝らないで。ね、もう消しちゃお?」

桜はそう言ったが、麻美は下を向いた。

「ごめん、これ以上何も消したくなくて、石、トイレに流しちゃったの…。」

「そ、そっか、こっちこそごめん。麻美ちゃんは何も気にしないで。あたしの問題ならあたしが何とでもするから。あんなクズ、あたしがボコボコにするから。」

そう言いながら、桜は携帯をいじった。

「あーもしもし優斗?あたしは何があってもあんたとだけは付き合わない。言いふらすなら好きにすれば?卑怯者。」

そう言うと、あっさりと携帯を切った。

「ちょ、桜、そんなことしたら…。」

「いいの。あたしは麻美ちゃんがいればいいから。入学式の時から一目ぼれだったの。うふふ。」

優しく笑う桜が、今の麻美には涙で歪んで見えた。

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