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第8話 念願の

「やっぱり。来ると思っていたわ。」

麻美が学校に来ると、窓の中から33歳の麻美が微笑んだ。

「ねえ、私はやっぱり人殺し?姫は関係なかったのに。それに、桜のことはどうすればいいの?」

麻美は矢継ぎ早に質問をした。

「落ち着いて。大丈夫よ。誰も覚えていない。”姫”なんて初めから”いなかった”のよ。いい?」

そう言われて、麻美は少し落ち着いた。

「それと、これだけは忠告。桜だけは消しちゃダメ。他の誰を消してもいいけど、桜を消したら後でとても後悔するから。」

33歳の麻美が真面目な顔で囁いた。

「え?どうして?」

麻美はそれにとても驚いていた。

「あのね、桜はあなたが思っているよりも、とても頭の回転が速いの。あなたは桜をうっとおしいと感じることも多かったと思うけど、ムカつくことも多いし、見返りなんてないって思うけど、桜が私たちを好きでいてくれるおかげで助かっている部分もあるの。…私は消してしまってから後悔したから。」

麻美はとてもびっくりした。

「え?消したの?」

「ええ。28歳くらいの時ね。好きな人を取られて思わず。でも、それがいけなかった。私のストーカーとかも桜が適当に引き付けていてくれたなんて知らなかった。」

「ストーカー?」

「ええ。高校生のあなたにいるかは分からないけど、少なくとももう少ししたら現れてしまうわ。桜は悪くなかったの。それだけは後悔。」

「…ということは、桜はもう消せないんじゃないの?1度消したら消せないんでしょ?」

そう言うと、33歳の麻美ははっとした顔をした。

「そっか、そうよね!良かった!桜ちゃんとは仲良くね!それに、今まで通りの接し方をした方がきっと桜も喜ぶわ。変に取り繕わない方がいいはずよ。」

33歳の麻美はにっこり笑っていた。

「うん、分かった。」

それだけ言うと、麻美は家に帰った。


次の日。

いつも通りのフリをして、麻美は教室の自分の席についていた。

「ねえ竹谷さん。桜ちゃんに話通してくれた?」

優斗がそっと近づいてきて、麻美に耳打ちした。

ああ忘れてたなーと思いつつ、麻美は優斗に返事をした。

「うん。でもダメそうだよ。他に好きな人いるって。」

間違ったことは言っていない。

「え?相手は誰?」

焦った様子で優斗が聞いた。

「え、いや、その、それは言えないよ。桜に失礼でしょ。」

「うーん、そっか。えーショックだなー。」

ひどく落ち込んだ様子で優斗は自分の席に帰った。

そこへ、桜が来た。

「麻美ちゃーん、おはよー。何しゃべってたの?」

桜はにこにことした表情で、いつもと何も変わらない。

「ううん、大したことないよ。」

「ふうん?そっか。」

そう言いながら、桜は優斗を睨みつけていた。

「あ、あのさ、昨日のテレビ見た?ちょーおいしそうなパンケーキ屋さんの特集してたじゃん?」

「あ、見たよー。この近くにもあったねー。」

それに気が付かないフリをしながら、2人で他愛のない会話をした。


本当に何事も無かったかのような日々を過ごした。その1週間後だった。

麻美の机の中に、1枚の手紙が入っていた。

「竹谷さんへ

 放課後、中庭で待っています。どうしてもお話ししたいことがあるんです。

                                優斗」

麻美はとても驚いた。桜のことかな?と思いつつも、とりあえず中庭に行くことにした。


中庭に着くと、優斗がすでに待っていた。

「あ、ごめん、待った?」

「ううん、今来たところ。」

前回と逆の会話をしながら2人で笑っていた。そう、今回は優斗が笑っていたのだ。

「で、話って?桜のこと?」

笑いながら麻美が言うと、優斗は真剣な表情になった。

「いや、違うんだ。桜ちゃんのことはもうあきらめた。」

「じゃあ、どうして?」

「俺、竹谷さん、いや、麻美ちゃんに惹かれたんだ。その、優しいところに。変かな、こんなこと。急だよね、ごめん。」

照れたように笑いながら、優斗は言った。麻美は顔を赤くした。

「で、その、よかったら、考えてくれないかな、俺のこと。」

「う、うん!ぜひ!あの、私でよければ!」

焦ったように麻美は返した。それを見て、優斗はくすっと笑った。

「じゃあ、その、これからよろしくね?麻美ちゃん。」

「よろしくね、優斗くん。」

予想外の展開に、麻美はとても喜んだ。

そのまま2人で帰りにクレープ食べながら帰った。優斗は麻美を家まで送ってくれた。

「あの、ありがとう、優斗くん。」

照れたように笑う麻美に、優斗は優しく微笑みかけた。

「このくらい当たり前だよ?彼氏なんだから。…おやすみ。」

そう言うと、優斗は麻美の頬にチュッとキスをして帰った。


麻美は自分の部屋に帰ってから、その余韻に浸っていた。

「はあ、なんていい日なんだ。」

喜びをかみしめながら、麻美は眠りについた。


次の日、うきうきしながら麻美は教室に向かった。

朝に、弟の良樹から好きな人と何かあったの?ねえねえ!と言われても気にならないくらいには浮かれていた。

「おはよ。」

そう言って、優斗に手を振られただけで、麻美は有頂天に舞い上がっていた。

「…ちゃん、さみちゃん、麻美ちゃん!聞いてるの?ねえってば!」

後ろから桜に声をかけられていたのに、麻美は中々気が付かなかった。

「あ、ごめん、桜。おはよう。」

にこにこした麻美を見て、桜は少し渋い顔をした。

「ねえ、麻美ちゃん、もしかして優斗と付き合い始めた?」

「あ、ばれた?桜は鋭いね。ふふ。」

「麻美ちゃんが分かりやすすぎるの。それより、言ったじゃん、あいつは危ないって。分かっているの?」

「えー?大丈夫だよ。優斗くんはそんな悪い人じゃないって。」

浮かれている麻美を見て、桜はため息をついた。

「あのねえ…まあ、何かあったら言ってよね?」

「うん、ありがとう。ふふ。」

何を言ってもダメそうだと判断した麻美は、桜に何か言うのをやめた。

その後も麻美と優斗は順調に付き合っていった。

ただ1つ気になったのは、麻美が桜と話していると優斗が話に混ざってくることだった。そのたびに桜はとても嫌な顔をしていた。

それでも麻美は浮かれていた。

ずっとずっと好きだったから。

麻美は今まさに幸せだった。心から幸せだった。

それがたった1か月で崩れるなんて、思いもしなかった。

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