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第7話 隠し事

麻美は教室の入り口で呆然と立ち尽くしていた。

「何で?姫はもういないのよ?優斗くんに彼女がいるはずない。だってそうでしょ?姫が優斗くんと付き合い始めたんだから。だってそんな…。」

彼女ができたばかりらしい優斗を眺めて、麻美は1人ぶつぶつと呟いた。

「麻美ちゃーん、そんなところにいたら邪魔になるよー。」

そんな麻美の後ろから桜が現れた。

「あ、ご、ごめん、桜。」

麻美はさっと取り繕った。

「っていうか、さっきからぶつぶつ言ってたけど…あーなるほどねー。」

桜は、麻美の視線の先にいた優斗を見て察したようだ。

「まあ、どんまい?っていうか、優斗って割といい噂聞かないし、付き合わなくて正解だと思うけどなー。」

「あ、うん…。」

「もー上の空じゃん。まあそれもしょうがないか。とりあえず席に着かないと授業始まるよー。」

「うん…。」

桜が何を言っても麻美にはほとんど聞こえていなかった。それもそのはず。麻美が気にしていたのは、優斗が誰かと付き合っていることではなく、消したはずの”彼女”が存在しているからだった。


麻美はその後もしばらく上の空のまま日々を過ごした。

そのまま3日が経った。

すると、優斗が彼女にフラれたという噂が流れた。優斗もすごく落ち込んだ様子で、それは事実なようだった。

まあ、何はともあれ、これで優斗はフリーだ。麻美はそう考え直すようになった。でも、やっぱり姫のことは気になっていた。

そんなとき、優斗が麻美に声をかけた。

「竹谷さん、あの、放課後って空いてる?」

まさかの展開に麻美は心を躍らせた。

「うん、うん!」

「そっか、よかった。じゃあ、放課後、体育館裏に来てもらえないかな?」

「わ、分かった!」

何の用事か分からないが、優斗と2人きりになるのは初めて。気になっているもろもろのことは一旦考えないようにして、麻美は放課後に備えた。


放課後、麻美は足早に体育館裏に向かい、優斗を待った。

「何の用かな?もしかして告白だったり?案外寂しがり屋で…って何妄想してるんだ私は。」

麻美はそんな独り言を言いながら楽しそうにしていた。

そこへ、優斗が来た。

「ごめん、待った?」

「ううん、今来たとこ。」

にっこり微笑んで麻美は優斗を迎えた。

そんな麻美とは対照的に、優斗は深刻な表情をしていた。

「どうしたの?こんなところに呼び出して。」

麻美はそんな空気を察して、心配そうに優斗に聞いた。

「あ、あのさ、竹谷さんってその、桜ちゃんと仲良いよね?」

「へ?う、うん。」

急に桜の話が出て、麻美は思わず変な声を上げた。

「あの、竹谷さん、お願いだ。桜ちゃんに考え直すように言ってもらえないかな!?俺、まだ別れたくないよ!」

麻美は状況が飲み込めなかった。

考え直す?別れたくない?桜?どういうこと?と、麻美の頭の中はぐるぐるしていた。

「え、あの、えっと?」

麻美は中々それらを言葉にできず、困惑した顔で優斗を見た。

それを見て、優斗は少し驚いた顔をした。

「あ、あれ、もしかして聞いてなかった?ごめんね?実は、俺、桜ちゃんと付き合っていたんだけど、すぐにフラれちゃって…。それで、なんとか仲を取り持ってもらいたいんだ。竹谷さんなら桜ちゃんとすごく仲がいいから何とかしてくれるかなって。」

麻美は途中から優斗の言葉が聞こえてこなくなっていた。

”俺、桜ちゃんと付き合っていたんだけど”の部分が頭をぐるぐるし始めた。

麻美は、その状態のまま、適当に返事を返した。

「うん、聞いてみる。」

「よかった、ありがとう!じゃあね!」

そのまま優斗は帰っていった。


体育館裏に取り残された麻美は、その足で音楽室に向かった。

桜は吹奏楽部に所属している。そこへ行けば桜に会えるはずだ。

音楽室の入り口から麻美が顔をのぞかせると、声をかけるよりも早く桜が麻美に気が付いた。

「麻美ちゃん?どうしたの?」

にっこり笑って桜が麻美に近づいた。

「ねえ桜。ちょっと今時間いい?」

「うん。もちろん。」

桜は何の迷いも無く、部活を抜け出して麻美についてきた。後ろから、吹奏楽部員の桜を止める声が聞こえたが、桜は振り返りもしなかった。

「で、麻美ちゃん、話って?」

歩きながら桜が麻美に聞いた。

「…あの、優斗くんと付き合っていたんだって?」

そう言うと、桜が渋い顔をした。

「…それ、誰から聞いた?」

「優斗くん本人。」

「ちっ、あの野郎、余計なマネしやがって。」

桜は麻美に聞こえないくらいの声でそう呟いた。

「違うの、本人にどうしてもとか言われて…。」

麻美は桜の話をさえぎるように口を開いた。

「ねえ、桜。桜は私に嘘ついたよね?付き合っているなんて言わなかった。姫と付き合っているって。」

「いや、私は好きでも何でもないから…って姫?誰それ?」

麻美は困惑した様子の桜に向かって、覚えているわけのない友人の名を思わずしゃべっていた。

「付き合っているのが姫だと思って、思わず姫を消しちゃったじゃん、どうしてくれるの。桜が姫を殺したんだ。私じゃない、私じゃない。」

ぶつぶつ言いだした麻美を見て、桜がぎょっとした。

「どうしたの?とりあえず、落ちつこ?ね?」

「うるさい!うそつき!」

麻美は桜の手を振り払って逃げようとした。が、桜に思いっきりつかまれて逃げられなかった。

「うそつきって、ひどくない?付き合ってくれって優斗に言われたから、適当に付き合って捨てたほうが未練も無くなってすっきりすると思ったからそうしたのに。私は今ちゃんとしゃべっている。麻美ちゃんこそ、何か隠しているんじゃないの?」

きっとした目で桜に見られ、麻美は思わず泣きそうになっていた。

「ね、とりあえず私の家おいでよ。ちゃんと全部話そう?お互い、隠し事は無しね。」

桜にそううながされ、麻美は思わずうなずいた。

「よかった!じゃ、いこっか。」

そう言うと、いつもの桜に戻り、麻美の手を引いて桜の家へ向かった。


「おじゃまします。」

「今親いないし、ちょうどいいでしょ。上がって上がってー。」

のんきそうなしゃべり方で桜の部屋へと誘導された。

「で、何隠しているの?」

部屋に着くなり、桜がいきなり聞いた。

「いや、でも…。」

「隠し事は無し、だからね?」

桜がじっと麻美の目を見据えた。

「信じてもらえるかどうか。」

麻美はため息をついた。

「何言っても信じるから。ね?」

「…分かった。」

観念した様子で、麻美はポケットから石を取り出した。

「これ。何でも消すことができる石なの。」

「…へ?」

桜がびっくりした顔をした。

「ほら、やっぱり信じられないでしょ。」

「うーん、なら、これ消してみて。今使ってない鉛筆。」

麻美は言われるがままに鉛筆を消した。

「わ、すっごいね。で、その、姫とやらも消した、と。」

いきなり直球で言われて、麻美はビクッとした。

「あーごめん、そんなつもりじゃなかったのよ。もうあたし覚えてないみたいだし、別に良くない?気にしすぎだって。」

桜はあっけらかんとしていた。

「いや、もう1人、美樹も消したの。」

「ふうん?あたしとしては覚えてないし、どうでもいいや。」

やっぱりさほど驚くでもなく、桜はあっけらかんとしている。

「え、あの。」

「ん?どした?あー、びっくりしなくてびっくりした?」

「うん…。信じてないとか?」

「まさか。今目の前で見たのに。それより、あたしは麻美ちゃんがいればいいから。」

麻美は全く動じない桜を見て驚いていた。いつもはふわふわした雰囲気の桜なのに、芯は強いんだな、でも普段から譲らないところもあるからな、と麻美は思っていた。が、その直後にさらに驚くことになった。


「あたし、麻美ちゃんのことが好きだからね。あ、恋愛の意味ね?念のため。」


いきなりの爆弾発言に、麻美はただただ驚くばかりだった。

「何?隠し事は一切なしだって言ったでしょ?」

「そ、そうだけど。」

「それに、言っちゃった方がいろいろ分かってもらいやすいかなって。あたしが優斗のこと好きじゃないとか。」

それを聞いて、麻美は納得した。

「ごめんね?麻美ちゃんの好きな人を取った形になっちゃって。でも、あいつ、本当にクズだから。近づかない方がいいよ。」

「う、うん…。」

「あ、信じてないなー!でも、まあしょうがないか。でも気を付けてね?クズだから。」

「わ、分かった…。そろそろ帰るね。」

「…分かった。気を付けてね。」

桜は名残惜しそうな顔をしたが、麻美を見送った。送ろうか?の申し出は断った。

麻美はもう頭の中がぐちゃぐちゃだった。

明日からどんな顔して学校行けばいいのか。これからどうするべきなのか。何もかも分からなくなった麻美は、その夜、自然と学校へ足を運んでいた。

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