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第5話 困惑

朝、ブルーな気持ちで麻美が教室に行くと、そこには今までどおりのクラスメートたちがいた。

みんな、麻美のことを変な目で見てこないし、普通に笑ってしゃべっている。

「おはー。麻美どした?そんなとこに突っ立って。」

声をかけてきたのは姫。昨日は、あんなに私のことを軽蔑してきていたのに…。

「あ、おはよ。ね、美樹にまた何か言われたの?」

麻美の質問に、姫は意外な答えを返した。

「へ?美樹?誰それ。」

麻美はぽかんとしてしまった。そこへ、後ろから桜が教室に入って来た。

「おはよー。って、何?何かあったの?」

きょとんとして聞く桜に、姫が質問した。

「ね、桜。美樹って誰か知ってる?」

「え?美樹?誰?」

麻美は信じられなかった。

「な、何言ってんのよ。ほら、昨日美樹が私の悪い噂流してさ、いろいろあったじゃん?」

それを聞いて、2人がびっくりした表情を見せた。

「え?悪い噂?何それ、誰よその美樹ってやつ!」

桜がひどく憤慨していた。

「よく知らないやつに変な噂流されるとか、どんまいとしか言えないよねー…。」

姫もそんな反応。

美樹のことだけでなく、昨日のことも忘れてるなんて。そうだ、昔の写真でも見たらさすがに思い出すだろう。というか、みんな忘れているフリをしているだけなんだよ、きっと。昨日あんなことがあったからとは言え、いじめ良くない。うん、きっとそうだ。

そんなことを考えつつ、携帯で少し前に撮った、麻美、桜、美樹、姫、の順で写っているはずの写真を探した。

それはすぐに見つかった、のだが…。

「え、何これ…。」

麻美は思わずそう呟いた。その写真は、麻美、桜、姫しか写っていなかった。しかも、美樹が写っていたところは、3人で肩を寄せ合うような写真になっていて、美樹がいたスペースすらなくなっていた。

「ん?麻美ちゃん、何見てるの?」

桜が写真を覗こうとした。麻美はなぜか、写真を隠してしまった。

「んーん、何でもない。」

「ホントに何でもないの?ってか、顔色わっる。」

姫が青ざめた麻美の顔を見て思わずそう言った。

「うわ、本当だー。麻美ちゃん、疲れているんじゃない?無理しない方がいいよー。」

桜も心配してくれている。

「あ、うん、ちょっと熱っぽいかも。きょ、今日ちょっと早退するね…。」

「うん、先生には言っておいてあげるから、ゆっくり休みなね。」

「しっかり寝とけよー。」

2人に見送られつつ、麻美はふらふらと家に帰った。


麻美が家に帰ったのには理由があった。といっても、本当に体の調子が悪いわけではない。美樹がいなくなった原因は、もしかしたら、私のせいなのでは?と思い、それを確かめたかったからだ。

麻美は家に着くなり、自分の部屋へ慌てて向かい、机の引き出しを開けた。

「あ、やっぱりここに入ってる。」

そう言うと、赤い石を取り出した。

「本当に何でも消せるなら…じゃあ、そこの消しゴム消してみて。」

麻美が呟くと、机の上の消しゴムが1つ、跡形もなく消えた。

「ねえ、消しゴム出してよ。返して。」

それには何も反応を示さなかった。

「やっぱり、やっぱり美樹は私が消したんだ。」

麻美は呆然とした。美樹を消してしまった、という罪悪感だけが麻美を襲う。

「今日、あそこに行ってみよう。」

そう呟くと、ベッドに潜り込んで布団を頭までかぶった。


その日の夜、麻美は学校にいた。そして、迷わず校舎を上がると、前に赤い石をもらった場所へと向かった。そこには、微笑を浮かべた33歳の麻美がいた。

「おめでとう。」

窓の中で、33歳の麻美は軽く手をたたきながら祝福した。それを見て、麻美はとても憤慨した。

「何がおめでとうよ!何もめでたくないじゃない!ふざけないで!」

それを見て、33歳の麻美は、くすっと笑った。

「おめでたいわよ。美樹は、33歳になっても変わらずに私を振り回すの。年を重ねれば重ねるほどに無茶振りはひどくなって、私は何度死にかけたか。でも、私が赤い石を手に入れた頃には美樹は消すことができなかったから。」

「そんなこと言われたって!」

「消すことができれば、その人の思い出も無かったことになる。試しに、何か校舎にでも落書きをして、落書きに使ったペンを消してごらん?書いた字ごと消えるから。」

麻美は驚いて、ポケットに入っていたペンで壁に落書きをして、消してみた。

「ほ、本当だ…。」

「ね?便利でしょ?でも、消すことができるのは、実際に使用できるもの、動くもの、になるの。消しゴムのカスとか、死んだ人は対象外なのよね。」

33歳の麻美は、はあ、とため息をついていた。

「え、死んだ人は消しゴムのカスと同じ扱いなの?」

麻美はむっとしたが、33歳の麻美は聞こえないフリをしていた。

「あと、1回赤い石で消されたものとかも、2回目は消せないのよ。ま、私たちくらいだろうけど。」

それを聞いて、麻美はびっくりした。

「え?私、消えたの?」

「消えたというか、消したのよ、自分で。何もかも無かったことにしたかった。赤い石を持ったまま、私を消したわ。そしたらどういうことか、こんなところにいる。ここでも何度も消してくれって頼んだのよ?でも、消せないのよ。私はもう概念的なものになっちゃっているんでしょうね。だから、これはチャンスだと思うことにした。それで、あなたに託したのよ。」

「そんなこと言われても…」

麻美はとても困惑した。

「思えば、高2のときがいろいろ分岐点になったなあってね。これからも大変だと思うし、どんどん石を活用しなさい。」

「い、いやよ!もうあんな思いはしたくない!」

「本当に?美樹ちゃんがいなくなって、少しほっとしたでしょ。もう無茶振りされることもない。クラスメートから無視されることも無い。きっと今頑張れば、生活はすごく楽になる。」

「や、やだ…。」

「本当に?あなたは私。私はあなたなの。気持ちは分かっているつもりよ。その石、おじさんにもらってすぐの時は、願いを叶えるって聞いていたのに消すことしかできないじゃないかって思ってたわ。でも、願いがかなえば、消したことすら無かったことになっているんだから、周りから見れば、それは単なる願いを叶える石なのよね。」

「何言っているか分からない。」

麻美はきょとんとしていた。

「それについては、美樹の先輩に聞けば分かると思うわ。ほら、石で恋を叶えた人、いたでしょう?」

麻美は思わず、あっと声を上げた。

「ね、周りは何も分からないんだから、何をしても大丈夫よ。元気出して。」

「な、何よ!もう来ないから!」

麻美はそう叫ぶと、走って家に帰った。

美樹の先輩って、たしか、テニス部の副部長さんだっけ、とか思いながら。

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