第3話 赤い石
「ね、みんな。面白い噂聞いたんだけど。」
美樹が麻美たち3人に声をかけた。
「どうしたの?」
きょとんとした顔で麻美が聞く。
「あのね、”どんな願いでも叶えられる”魔法の石があるんだって!」
興奮した様子で美樹が答えた。
「ぷっ、あはははははは!」
咳を切ったように姫が笑い出す。
「な、何よ!」
「いや、ロマンチストだなー美樹は!そんなもんあるわけないじゃん。」
そう言われて、美樹はむすっとした。
「あるんだって!部活の先輩がそれ使って彼氏できたって言ってたもん!」
「そーなんだー。で、どこにあるのー?」
桜が少し興味を持ったようだ。
「あのね、それがね、この学校にあるらしいの!!」
それを聞いて、美樹が再び吹き出す。
「あるわけないじゃん!見たことないよ。」
「い、いいもん!姫には見つけても使わせてあげないから!!」
美樹はぶすーっとむくれてしまった。
「あるんなら探しに行こうよー。面白そうじゃーん。」
「そうよね!?行こう!麻美も!!」
「えー…。」
正直、麻美は乗り気じゃなかった。
「朝、私たちを騙した代わりってことで!ね?」
美樹はまだ気にしていたようだ。ここで断ると後が面倒くさいことになると思った麻美は行くことにした。
「で、いつ行くの?」
「今日の放課後。夜にしか見つからないんだって。」
「えー、お化けの類じゃないよねー?」
桜が少し嫌な顔をした。
「大丈夫だって!特に何もなかったって、先輩も言っていたし!」
美樹は目を輝かせている。
「危なかったら帰るからねー?」
「分かってるって!」
そういうわけで、魔法の石とやらを探しに行くことになった。
美樹の話によると、魔法の石は、
・夜の学校限定で見つかる。
・500円玉サイズの赤い石。
・何でも願いがかなうが、願いを叶えると消えてしまう。
・先輩が使ってたんだから絶対に存在する!!
とのことだった。
本当にあるのか?と麻美は半信半疑だった。
桜は、どちらかというと面白そうだから行く、という感じだった。
本気で信じきっているのは美樹だけだ。
で、実際、今が夜。
一旦みんな家に帰ってから再び学校に集まった。
「なんか胆試しみたーい。」
桜がちょっと怖気づく。
「大丈夫だよ!さあ、行こう!」
美樹がさっさと歩き出した。
「ま、まあ、なかったらなかったですぐ諦めて帰るでしょ。」
麻美が桜を励まし、2人も学校へ向かった。
懐中電灯を持って学校の中を進むが、それらしいものは全く見当たらない。美樹がイライラしてきた。そして、桜は帰りたがり始めた。
「ねーもーいーじゃん、帰ろーよー。」
珍しくぶすっとした顔で桜がごねた。
「やだ!絶対見つけて帰るんだもん!」
美樹は聞く耳持たず。
「ないってもう!あるわけないじゃんか!」
桜のこの言葉で美樹が切れた。
「は!?何それ!もういいよ!桜だけ帰れば!?」
「そうするから!麻美ちゃん、美樹のことよろしくー。」
そう言うと、桜は帰り、美樹は麻美の腕をつかんで先へ進み始めた。麻美も、正直帰りたかった。
「見つけるまで帰らないから!!」
これは面倒なことになったなーと麻美は思っていた。
「あ、あれとか、そうっぽいかな?」
何回聞いたか分からないその言葉をはいて、美樹は駆け出した。麻美は、その後を追うのをやめた。
「はあ、いい加減疲れた。」
そう、2つある校舎の1~4階をずっと行ったり来たりしているのだ。それも、集合したのが夜の12時で、今は午前3時。麻美は疲労が溜まっていた。美樹もそのはずなのだが、気持ちの方が勝っているのか、一切疲れた様子を見せない。
「桜が帰った時に帰ればよかった…。」
そう呟いて、ふと顔を上げると、鏡のようになった窓に映る自分と目が合った。いや、これは自分なのか?いや、私こんなに老けてない!!
「きゃ…」
「しー、静かに。」
悲鳴を上げそうになったところで、窓の中の自分?がそう囁いてきた。
その人は、自分と面影がそっくりなのだが、見た目は40代後半から50台前半といったぐらいだ。少しやつれた顔で、疲れきった雰囲気が全身に漂っている。
「ね、私、誰だか分かる?」
「え、わ、私…?」
そう言うと、窓の中の人はにっこりと微笑んだ。
「そう。33歳のあなたよ。」
麻美はびっくりした。33歳?老けすぎだし、やつれすぎ。私、将来こうなるの?
「見えないでしょ?33歳に。」
麻美はこくりとうなずいた。
「あなた、いや、私たちは、引き受けなくてもいいことも引き受けてしまうし、はっきり断ることも苦手。でも、それでもいいやって、どこかで思っているでしょう?」
「あ、はい。疲れるけど、みんな悪い子じゃないし、一緒にいて楽しいから…。」
ふふっと未来の私は笑った。
「うん。そう思ってた。でもそれは、嫌われたくない、傷つきたくない、という気持ちが大きいのよね。」
麻美は目を伏せた。
「よく聞いて。あなた、今のままだと、とても後悔することになるわ。そして、疲れ切って、今の私みたいになる。」
そう言われ、麻美は未来の自分を改めて見た。とてもこうはなりたくない。
「今のあなたに、未来を変えてもらいたいの。」
「で、でもどうやって…。」
「そこよ。いいものあげる。」
そう言うと、未来の麻美が窓から手を出して、そっと麻美に何かを握らせた。
「これはね、未来を拓くことができる石よ。でも、1つ注意があるの。」
手を見てみると、500円玉くらいの大きさの赤い石が握られていた。
「これ、何かを消すことはできるけど、作りだすことはできないの。だから、よく考えて使ってね。あ、石を身につけた状態で願えば、勝手に叶うから。そろそろ美樹ちゃんが戻ってくるし、私は戻るわね。何かあったら、いつでも会いに来てね。アドバイスしたりもできるから。」
そう言い残すと、未来の麻美は消えてしまった。
直後に美樹が教室から項垂れて出てきた。麻美は思わず、石をポケットにしまった。
「ないんだけどー!」
「あ、あはは。どこにあるんだろうね。」
麻美はポケットの石に気付かれないように気を使いながら、美樹を慰めつつ、探索を進めた。
結局、美樹は3時半にやっと諦め、それぞれ家路についた。
家に帰ってから、麻美はポケットに入れた石を取り出して見てみた。
「何でも消すことができる石…か…。」
それが本当なら、正直怖い石だ。ただ、窓に映った自分のこともあって、嘘だと一蹴することも出来なかった。
「多分、使うことも無いよね…。」
そう呟くと、机の引き出しに石をしまって、もやもやした気分でベッドに潜り込んだ。




