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第10話 リセット

次の日の朝。

麻美が教室に着くと、みんなが麻美を見てきた。

「ああ、この感覚、知ってる。」

麻美は思わずそう呟いた。

そう、みんな、麻美のことを見てきていた。あの、美樹が噂を流したときと同じように。

「おはよー。麻美ちゃーん。…ん?」

桜もそれに気が付いた。というより、桜も同じような目で見られていた。

2人を見て、くすくすと笑う声。気持ち悪いという言葉。嘲笑や侮蔑の目。全て2人に降り注いだ。

桜は迷わず優斗のところに向かった。

「何?」

そう言って、くすっと笑いながら優斗は桜を見上げた。

桜は優斗に往復ビンタをした。

すると、それまで見ているだけだった周りの人が一斉に桜を止めにかかった。

「何してるの!優斗くん可哀想!」

「変態なうえに乱暴とか、救えねーな。」

「暴力とか、人として最低ー。」

周りは口々に桜を罵った。

「や、やめてよ!桜悪くない!」

思わず麻美はそう言ったが、それは逆効果だった。

「おい、聞いたか?変態その2が何か言ったぜ?」

「きっしょ。人の言葉しゃべれよ。」

それを聞いて、桜がさらに切れた。

「はああああ!?放せよ!可哀想なのはあんたらの頭だろーが!本当に救えない最低野郎ども!!言葉の暴力は暴力じゃないってのか!?あ!?ふざけんな!あたしのことはどうでもいい!麻美ちゃんの悪口だけは言うな!」

それを聞いた周りもヒートアップ。

「うっわ、本物だ、これは。」

「よくこんなん好きになれたねー、優斗くん。」

顔を腫らした優斗は、にっこり笑っていた。

「それでも俺は桜ちゃん好きだよ?ね、女の子好きだなんて嘘でしょ?俺と付き合えば疑い晴れるよ?ね?」

優斗は優しく桜に問いかけた。

「優斗くんやさしー!」

「ね!こんな優斗くんの申し出断ったら鬼だよねー。」

周りの女子もはやし立てた。

「うるさい、お前なんか嫌いだ!あたしは麻美ちゃんが好きなの!ほっといて!」

桜がそう叫ぶと、みんな静かになった。

そして、優斗がニヤッとして何かを掲げた。

「これ、なーんだ?」

手に持っていたのは、ボイスレコーダーだった。

「これ、桜ちゃんの両親に聞かせたらどうなるかな?」

そう言われて初めて、桜が顔を青くした。

確か、桜の家はそこそこのお金持ちで、かなりしつけが厳しいと聞いている。

「さっくらちゃーん、形勢逆転、かな?ね、大人しく俺と付き合ってよ。照れないでさ。大事にするよ?」

桜は押し黙ってしまった。

ど、どうしよう、と麻美も焦っていた。そんな時だった。急にポケットが濡れている気がした。

手を突っ込んでみると、トイレに流したはずのあの石。麻美は迷わず叫んだ。

「お願い!優斗と、あのボイスレコーダー消して!!」

途端に、目の前からふっと消えた。これで安心、と思っていたのだが…。

桜はなぜかまだ、同性愛者、と言われ続けていた。

多分、何かメモなんかで誰かが噂を流していたのだろう。でも、それが分からないとさすがに消せない。

麻美は桜を呼び出した。


廊下の隅で、2人はひそひそとしゃべった。

「桜、これ。」

「あれ?流したはずの石?」

「うん、ポケットに戻ってきたの。ね、お願いがあるの。いい?」

「うん、いいよ、何?」

桜は相変わらずにっこりと微笑んでいた。

「私、もう耐えられない。あんな人たちと一緒に、何も無かった顔で授業受けられないよ。」

「麻美ちゃんがそう言うんなら、消しちゃえばいいよ。何もかも。」

「いいの?」

「うん、なんで?」

「…学校ごと、消しちゃおうかと思って。」

「あはは、豪快。いいじゃん。」

「学校にまつわる思い出も、全部消えるんだけど、いいの?私たちが出会ったことも忘れちゃう。」

そう言うと、桜がふふっと笑った。

「いいよ。麻美ちゃん関連のこと忘れるのは寂しいけど、また1から出会えるって思ったら、それはそれで楽しそうだから。」

「…ありがとう。」

そう言うと、2人は学校の外へ移動した。


2人は学校の門の前に立った。

「ね、麻美ちゃん。忘れる前に、最後のお願い、聞いてもらえる?」

「何?」

「ふふ、目を閉じて。」

麻美が目を閉じると、唇に暖かくて柔らかいものが触れた。

「ふふ、ありがとう。ま、絶対最後にしてあげないけど?」

そう言って、桜はいたずらっぽく笑った。

麻美は少し泣きそうになりながら笑った。

「じゃあ、いくよ?」

「どうぞ。」

「…この学校を、全部、消してください。」

そう言うと、学校は、ふわっと消えていった。跡には何も残らなかった。

しいて言うなら、南さんだけ残っていた。


そんな様子を麻美はただ呆然と見ていた。

「ね、こんな時間にこんな”公園”で何しているの?ってあたしもか。」

そんな麻美に、桜が声をかけた。

「あたし桜っていうの!あなたの名前は?」

そう言う桜の顔は、出会った当初と全く同じ、屈託のない笑顔を浮かべていた。

「私は竹谷麻美。」

「そう、麻美ちゃんね。この辺に住んでいるの?」

「そうだよ。」

「あたし、あっちに見えている高校に通っているんだ。麻美ちゃんは?」

「あ、私も。」

なんとなく、そんな気がした。

「っていうか、ここ、変な噂の多い公園だから長居しない方がいいよ?」

「噂?どんな?」

麻美はなぜかその噂が気になった。

「なんかね、ここって昔学校があったらしいんだけど、その当時の幽霊がうじゃうじゃでるんだって。それに、なんか怪しい石を配ろうとしてくる気味の悪いおじさんも出るって!」

「それって、赤い、500円玉サイズの石?」

「そう!知ってたの?」

「いや、なんとなく。」

そんな話をしながら、2人はそこを後にした。


その日の夕方。

学校帰りの麻美の弟、良樹は公園に来ていた。

「ねえ、君。願いが叶う石があるんだけど、1つどうだい?」

良樹に知らないおじさんが声をかけた。

「石?」

「ああ、嘘だと思うなら持って帰っても損はないだろ。ね。」

「ふうん?面白そうだし、もらうよ。」

そう言うと、良樹はポケットに石を仕舞って家に帰った。

いかがでしたでしょうか。

楽しんでいただけたなら幸いです。


麻美の心の支えになっていた幼馴染の洋子が引っ越してしまってから、麻美の精神状態が悪くなっていったことや、桜が麻美を支えていたことなど上手く伝わっていれば嬉しいです。


それでは、アドバイス、感想、評価など、いただければ喜びます。

ありがとうございました。

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