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第1話 麻美の決意

麻美は今日もため息をついていた。

特別、何かがあったわけではない。むしろ、何もない日常だからこそ、麻美はため息をついていたのだった。それはなぜか?

麻美は現在高校2年生。友達もそれなりにいて、クラスに馴染めていないわけではない。頭もそこそこ良く、成績も別に悪くない。運動も、少し鈍いが普通の範囲。それでも麻美はため息を出さずにはいられなかった。

「あーあ、明日学校行きたくないな。」

思わず、そんなことを呟いてしまう。

この麻美の憂鬱の原因は、主に人間関係だった。全く上手くいっていないのではない。周りから見れば、とても上手くいっているようにしか見えない。しかし、そのように上手くいっているように見えるのは、大体が麻美のおかげ、と言っても過言ではなかった。

とはいえ、麻美だって大したことをしているわけではない。宿題を見せてあげたり、勉強に付き合ったり、好きな人の情報を回してあげたり、そんな一般的なことだ。

ただ、普通は誰かに何かをしてあげたら、自分にも何かお返しがあるものだ。お菓子やジュースをおごってもらったり、自分もノートを見せてもらったり。そういうお返しを、麻美はされたことが無かったのだ。

最初のうちは、ありがとう!と元気よく言ってもらえれば満足だった。しかし、段々とお礼の言い方が雑になっていき、終いには、ありがとうの”あ”の字さえも言われなくなってしまった。みんながみんな、やってもらって当然、といった態度になっていったのだ。

それでも、人から頼まれたら断れない麻美の性格や、困っている人を見たら放っておけない性分から、見返りなしに相手に色々としてあげていた。

麻美は、そんな小さなことの繰り返しに疲弊し、今の生活や自分に対して、ほとほと嫌気がさしてきていた。

「今度は、今度こそは何を言われてもきっと断ってみせるんだから。」

もう何度目か分からないその言葉をはいて、麻美はベッドに潜り込んだ。


次の日の朝。

麻美はいつものように枕元の目覚ましを止めた。

「よし、今日は頑張るんだから!」

そう1人呟いて、気持ちに気合を入れた。

普段通りに服を着替え、顔を洗い、歯磨きをした。母が作ってくれた朝ご飯も食べた。

その1つ1つの動きに、少し力が入っていたようだ。

「ねーちゃん、今日は何かあるの?」

そんな麻美の様子に気づいて、麻美の4つ下の弟、良樹が声をかけた。

「え?あー、いや、別に大したことがあるわけじゃないんだけど。」

麻美は何と言っていいか分からず、思わず言葉を濁した。

「嘘だー。前も似たようなことあったし、やっぱ絶対何かあるってー。」

良樹は面白がるように、口元ににやっとした表情を浮かべる。

「分かった、ねーちゃん好きな人いるんでしょ。」

「は?そんなわけないじゃん。」

弟から急にそんなことを言われ、しかも全くの見当違い。麻美は思わず、反射的にぶっきらぼうな返事をした。だが、良樹にはそれが違う様子に見えたようだ。

「あ、ねーちゃん照れてるんだ!おかあさーん!ねーちゃんがねー!」

「やめてよ!もう、違うんだってば!」

楽しそうに母の元に寄っていく良樹。それを追う麻美。そんな2人を見て、母はくすっと笑っていた。

「お母さん!違うからね!」

にやにやしながらつついてくる良樹を手で制しながら、ムキになりつつそう言った。

「はいはい、若いっていいわねえ。」

母は、麻美と良樹を微笑ましく見守っていた。

「だから、違うんだってば!」

むーっと頬を膨らます麻美。良樹は笑っているし、母はにこにこしている。今日はもう、何を言っても信じてもらえそうには無さそうだ。それどころか、しゃべればしゃべるほどにドツボに嵌っていく。

麻美は否定するのを諦め、ため息を1つつきながら、通学鞄を手に取って玄関に向かった。

「いってきます。」

「いってらっしゃーい。」

「あ、ねーちゃん待ってよ!僕まだ準備できてない!」

「今日は1人で行きな。」

「待ってよおお。」

おいてきぼりにした良樹が半泣きで叫んでいる。からかわれた仕返しだ。まあ、そのうち後から追ってくるだろう。

「はあ、出鼻くじかれた。」

朝から少し疲れた麻美は、そう呟きながら、1人で学校に向かった。


数分後に良樹は麻美に追いついた。そして、きちんと麻美にからかったことを謝り、麻美も許した。そうして、2人はいつも通り、仲良く通学した。

「じゃあ、ねーちゃん、また後で!」

「うん、授業中に寝るんじゃないよー。」

「ねーちゃんこそ!」

2人で笑いながら、途中の分かれ道で分かれ、それぞれの学校に向かった。

「よし、今日こそはちゃんとするんだ、言いたいことはちゃんと言うんだ。」

そんなことを呟きながら、麻美は気合を入れ直していた。

「あーさみん!なーにぶつぶつ言ってんの?」

「わ!ひーちゃん!」

急に声をかけられて、麻美は少し驚いた。声をかけてきたのは、麻美の幼馴染の洋子ひろこだった。

「いやあ、今日こそはきちんと言いたいこと言おうと思って。」

「まーたそれか。ま、頑張れよ。って、この会話も何回目よ。」

洋子は、麻美の小学校からの幼馴染で、とても仲が良く、麻美も洋子に対してだけは言いたいことを言うことができた。

気の弱い麻美に対して、洋子はとても気が強く、また、正義感も強かった。今は洋子と麻美はクラスは違うが同じ学校に通っている。家もそれなりに近いため、たまにこうして一緒に学校へ行くのだった。

「いやー、中々上手くいかなくてねー。」

苦笑いを浮かべつつそう言うと、洋子は強い口調で麻美を叱った。

「”いかない”じゃなくて、”いく”の。そんなんじゃ、いつまで経ってもそのまんまだよ。」

「ま、まあそうなんだけど…」

麻美はそんな洋子にたじたじになった。洋子は、1つため息をつき、普段の口調に戻った。

「まあ、そこがあさみんの良いところでもあるんだけどさ。どっちにしろ、あんまり無理はしないようにね?しんどいのはアンタなんだから。」

そんな洋子を見て、ああ、心配してくれているんだなあと麻美は嬉しく思った。

「ふふ。」

「何?」

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

麻美は洋子と話しているときは気が楽だった。こうやって自分を出して話せる相手がいるからこそ、麻美は今の状態でもやっていけている。洋子がいなかったら、私、どうなっていたかなあ。

心の中で洋子にさらにお礼を言いつつ歩いていると、2人の通う学校へ着いた。

「じゃあ、また後でね。」

「うん、何かあったら私を頼れよ。」

「ひーちゃんイケメン。マジ惚れる。」

「馬鹿言ってないで、アンタは自分のことだけ考えな。」

「ふふ、はーい。」

そんな会話を残して、それぞれの教室へと向かった。

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