伍 水中
――ぎん色をした水の中に、目がくらみそうなくらいぎらぎらしたおひさまをせおったぼくがいる。右手をあげると左手をあげるけれど、それでもぼくがいる。そこは冷たいのかな、それともあついのかな。この水もおひさまもさわったことがないからぼくにはわからないけれど、そこにいるぼくならわかるのかな。舟からからだをだして、顔を水面にそっと近づけてみたら、水の中のぼくも、ぼくに顔を近づけてきた。
「ねぇぼく。そこはあついの? それとも、つめたい?」
水の中のぼくもぼくと同じようにくちをうごかしているけれど、答えはかえってこない。
「ねぇぼく。じゃあね、そこはほんとうにどくなの?」顔をもう少しちかづけてみる。
「ここはどくだからさわるのもだめっていわれたけど」もう少しだけ。
「こんなにきれいなのに、ほんとうに、どくなの?」もう少し。
「詠!」
ぎぎぃといやな音をたてて、乗っていた舟がぐらりとかたむいた。水に鼻さきがくっつきそうになる。水の中にいるぼくはおおきくゆがんでいてどんな顔をしているかはわからなかったけれど、にっとわらったくちもとだけは、やけにはっきりと見えた――