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怪力女

作者: 八田理

「会長、新たに13名が不参加の表明です」

「これで158名だ。もはや異常事態ですな、会長」

「だからといって大会から締め出すわけにはいかんだろ」

 前代未聞の状況にスポーツ協会の会長は頭を抱えていた。議論は何日も続いているが解決の糸口すらない。しかし国際スポーツ大会の自国開催は来月に迫っている。だから今週中にも結論が必要なのだ。

(こんなとばっちりを受けるなら、いっそこのこと救出されなければ良かったんだ)

 口にこそ出さないが会長の本音だった。

 『王の娘、17年ぶりに発見』

 このニュースで国中が沸いたのはちょうど一年前。彼女は赤ん坊の時に、反国王の過激派に誘拐されたのだ。その組織は警察によって壊滅したが、肝心の監禁場所が不明だった。安全な場所に放置したと実行犯のリーダーは供述したが、具体的な場所を聞き出す前に刑務所内で自殺したのである。

 死亡説もささやかれたが国王も国民も諦めなかった。必死の捜索が続けられた。そして思わぬ場所で発見されると、一人前の娘として帰還したのである。

(確かにあの時は私も心から喜んだ。しかも、あんな立派に成長していたので驚いたもんだ。だが本当の驚きは、成長し過ぎにあったとは……)

 異変はすぐに発覚した。少し強く握っただけでスプーンやフォークが折れたり、袖を通そうとして服が裂けたり、日常生活の些細なしぐさで物が壊れてしまうのである。

 王はすぐさま最高の医療チームに彼女を検査させた。その結果、筋肉の異常な発達が判明した。これは王家の秘密とされ、強度のある日用品が与えられた。

 その体質が発揮されたのはスポーツを始めたときだった。ダイエットもかねてテニスをすると、彼女のサーブがあまりにも早く、元プロ選手のコーチは全く動けなかったのだ。気を良くした彼女は直後の全国大会に出場し、圧倒的な強さで優勝してしまう。

(なぜテニスだけにしなかった。他の競技にも手を出すから、こんな事態に……)

 血筋からか、彼女の自己顕示欲は並外れて強かった。テニス界の女王となって再びマスコミに注目されたことで、自身の存在をさらにアピールしようと決意したようだ。砲丸投げや重量挙げの陸上競技、ソフトボールのピッチャーやバレーのアタッカーといった団体競技、さらには女相撲まで、筋力がものをいうあらゆるスポーツに進出した。もちろんすべての競技で圧倒的な実力を示したのはいうまでもない。

 彼女の異常体質はすでに公然の秘密だった。しかしドーピングをしたわけではない。だから来月開催の四年に一度のスポーツ大会では、実に15の競技にエントリーしたのである。

「先ほど国際スポーツ委員会から、彼女の参加を見送れとの打電があったようですな。まあ、仕方ないでしょう」

「本当にそれでいいんですか、副会長。大手スポンサー8社による、参加容認を強く求める共同声明があったばかりですよ」

「広報部長。君はそのスポンサーからいくら裏金をもらっているのかね」

「し、失礼な! じゃあ言わせて頂きますが、副会長こそ、次期会長選挙の接待で札束をばらまいているとの噂じゃないですか」

「何だと。今の発言を取り消せ! さもないと貴様に次期のポストはないぞ」

「二人ともいい加減にしたまえ!」

 再びぶり返した不毛な議論に会長は立ちあがった。が、すぐ冷静になって椅子に座ると、彼女の参加申込書に視線を落とした。

(ここより重力の強い星で育ったんだから、筋肉が異常についたのも無理はないか……。自分で望んだわけでもないし、考えてみれば可哀想だな)

 だからといって参加を認めるかは別問題である。

 参加申込書の左上には顔写真。十二ひとえを肩までめくり、筋肉隆々の腕を誇示したかぐや姫が、不敵な笑みを浮かべていた。























 



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