『キラキラ』な未来
いくつか個人名が出てきますが、すべて小説内の架空の人物であり、特定の個人とは関係ありません。
「では、出欠を取ります。えーと……伊藤 心音(ここね)さん」
「先生、『ここね』じゃなくて『はあと』です。間違えないで」
間違われた生徒が冷たく言い放つ。
「あ、ごめんね。『は・あ・と』……と。よし」
出席簿の名前の上にふりがなをふっておく。
「次は、上田……ごめんなさい、なんて読むのかしら」
「上田 凸(てとりす)です。先生、自分の生徒の名前くらいちゃんと読んでください」
「本当にごめんね。『て・と・り・す』……と。次から気を付けるね」
先ほどと同様にペンを走らせる。
「じゃあ次は……遠藤 優子(ゆうこ)さん」
「はい」
「ぷっ……」
どこからか空気の漏れる音がした。肩を震わす生徒たち。
「くくっ……」
「もう……だめ……」
数人の生徒がたまらず吹き出す。それは一気に広がり、やがてクラス中が笑いの渦に包まれた。
心音が優子に向かって声高に叫ぶ。
「『優子』って! どうせ『優しい子になってほしいから』とかそんなんでしょ!」
凸が優子を指差しながらあざ笑う。
「なんて没個性的な名前なんだ!」
クラス中が優子を指差し、笑っている。周りの生徒がみんな……。先生まで……。
目をつぶり、耳をふさいでも、頭の中に笑い声が響いてくる。
嫌だ……嫌だ……いやだ……。
優子は深い暗闇の中に落ちていった――
「……ぉぃ、おい!」
突然、世界が引き戻される。目の前には見慣れた彼氏の顔。ベッド脇のランプが明りを灯している。外はまだ暗そうだ。枕元の時計に目をやると、針は午前2時を指していた。
彼氏が不安げに彼女の顔を覗き込む。
「どうした? だいぶうなされてたぞ」
「ごめん、大丈夫。悪い夢見てただけ……」
首が冷や汗でじっとりしていた。手のひらで拭いながら彼氏に答える。
「心配したぞ……。一体どんな夢見てたんだ?」
彼女が細々とした声で言った。
「――あたしが『優子』とかいう『ダサダサネーム』になって、みんなから笑われてるのよ。ね、最悪でしょ?」
「それは……確かに最悪だな」
彼氏も笑った。
私の周りでも最近、なかなか読めない名前の人が増えてきました。きちんとした由来はあると思う(思いたい)のですが、中にはまるでペットのような名前を子どもに付けられる親御さんもいらっしゃるようで……。
私にはまだ子どもはいませんが、いつか子どもを授かった時は『優子』のように、『こんな子に育ってほしい』いう思いから名前を付けてあげたいなと、そう思います。