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「そうか。あの時、旦那様に母親の事を『もっと前から知っていた』って言っていたのはこのことか」
「はい」
ベルンは最後にイーシュと過ごした折に、この件については耳に挟んでいたのだ。
やっと謎が解けたというように、清々しいすっきりとした笑みを浮かべる。
「……俺もその後、この森のはずれで療養していた時に、逃げてきた他の西津森の兵士から聞いたよ。俺と同じ年代の奴らがいたんだ。あんたの母親、なんか有名な神官だったらしいな。高位の……っていう理由の他に、美貌でな。そう言われてみたら、たしかに綺麗な神官が、むかーし一人いたな、と思い出したよ。巫女じゃあなかったらしいな」
茜色だった空が藍色に変わり始めていた。西向きのこの窓からも、それがよく観察できた。
眩しかった陽はすでに落ち、余韻の明かりが残るのみ。
外では一旦は消えていた婦人方のおしゃべりに代わって、今度は別の騒がしい物音が立っていた。
けれど二人の耳には届いても、今は注意が払われない。
ベルンは目を閉じ、思い出の中に沈んで、その人を見ていた。
「亜麻色の髪と碧の目で……。あんまりはっきりとは憶えてないが、たしかに、あんたと似た雰囲気があったな。穏やかな中にも、どっか凛とした雰囲気があってな。……あれが間違いなくあんたの母親なんだとしたら……あんた、父親より、母親似だと思う」
聞いて、イーシュはどことなく恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに頬を染めた。
詳細をもしかしたら知っているかもしれない奥方に聞けずに今まで来たイーシュには、母親の話は初めて聞くものだった。
イーシュのその様子を見て、もう少し何かを話したそうなベルンだったが、それ以上は知らなかったのだろう。何度も首を捻ったが、最後は悔しそうに口を閉じた。
代わりに、よく知る方の人物の話を始めた。
「それにしても、ライオルがそんな臭い約束してたなんてなあ。あいつに似合わねえよ」
ベルンはおかしそうに「くっく」と声を漏らすと、ついで腹を抱えた。
イーシュも少しそう思ったのだろう。微笑んだが、それは神妙なものだった。
「あの時、ライオルが言ったこと、私、本当は信じていなかったんです。だってそうでしょう? 私は神官で、ライオルは兵士です。それでなくたって、ずっとそばにいるなんて、無理です。でも……」
憂いと悲しみと喜びと、複雑な表情を混ぜ合わせてイーシュは床に目を落とした。
ベルンがそれで察した。
「……そうか。ライオルはできる最期までそばにいてくれたんだな……」
イーシュは微笑み、それ以上その事には触れず、先を語った。
その話が出るのも、もうまもなくだ。




