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7-1

 今日も南の集落がひとつ落とされたという。

 珍しい知らせではなかった。

 西津森にはこれでさらに、もうわずかの領土しか残されていない。

 館から程近い集落でも、荷物をまとめる者が増えた。





 今日も神殿には身内や近しいものを亡くして迷う人々が、救いを求めて行列をなしていた。人々の発する重苦しい空気があたりを淀ませている。

 神官たちはそれぞれの話を聞き、その想いを光に返し昇華させる手助けをする。

 イーシュはそれを遠目に眺めながら、神殿の庭先に出ていた。年若い見習いの身ではまだ、公的には直接にそうすることが許されていないからだ。

 人々がくれる涙に同調するような、今にも零れ落ちそうな雨粒を湛えた黒雲が空を覆っている。イーシュはひとりそれを見上げた。

 その瞳が、にわかに煙るように色を変える。

 なにか見えないものを見ている時の瞳だ。

 しばらくそうやってたたずむイーシュの頬を伝って、静かに涙の粒が落ちた。足元の地面を黒く染める。

 たまたま通りかかった見習い神官の友人がそれを見つけて、白い法衣を翻しながらそばに寄って来た。イーシュの様子を見て察し、そうしてイーシュと同じものを見る。


「……ああ、死者の魂が来ているんだね。今日もひとつ集落が消えたって言っていたから……そのせいかな。でも、どうしてこんなところに来たのかな……?」


 宙を見上げる少年の瞳も同じように煙った。


「……多分、綺麗な女の人だね。優しそうな雰囲気も感じる。でも僕にはあまりはっきり見えないし、何を言っているのかも、よく聞き取れないんだ……。イーシュにはもう少しなにかわかる? ……彼女は何か言っている?」


 問われて、イーシュはかすれる声でかろうじて答える。


「……。死者の声はあまり聞かないようにしています……。私はまだ囚われてしまうから」


 あの幼い日、親恋しさに亡霊に呼ばれたことをイーシュは戒めとしていた。そっと自らの両の手を組む。


「冥福を祈りましょう?」


 促されて、隣の少年も静かに手を組んだ。

 二人がそれぞれ想いを込め祈ると、そこに浮かんでいた魂は纏わりつかせていた重そうなものを捨て去り、純粋な輝きとなって、雲間から指した光の階段を駆け上がるように、天の向こうへと消えていった。


「そう悪いものではなかったみたいだね。素直に上がって、光の中へ還って行ったね」


 少年がそう言ってイーシュの顔を振り返った。そして、驚く。


「……イーシュ? 泣いてるの? 悲しいの?」


 イーシュはうつむき、顔を手で覆っていた。長い髪がかかり、さらに隠す。その隙間からか細い声が、かろうじて漏れる。


「はい……半分は……」


 その答えに少年は首を傾げる。

 イーシュは覆っていた手を下に下ろした。


「でも、もう半分は嬉しいんです。多分……私がずっと会いたかった人に会えたから……。あの人は、私に会いたくて、わざわざ来てくれたんですよ……?」


 あらわになったその表情は言うとおり、どこか寂しそうでいて、どこか嬉しそうでもあった。






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