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5-3

「それからなんだな。神殿で朝な夕な兵士の無事を祈るようになったのは」

「どうしてご存知なのですか?」


 客にお茶を継ぎ足すイーシュの手元が、驚きでいくらかぶれた。

 ベルンが肩を上下にして笑う。


「ああ、さっき聞いたんだよ。奥方様にな。短い言葉だったが、えらく誇らしげに語ってくれたんだぜ」


 頬を染めるイーシュに、ベルンはカップを片手にした。


「ライオルを可愛がっていた門兵だった男は、俺の剣の弟子だった……ってことはあんたも知ってたな。あいつの言うとおりさ、剣の腕は立つ方じゃなかった。でもいい奴だった。面倒見がよくってさ。ライオルのほかにもあいつの世話になってた奴がいたんだ。慕われてた。そんな奴だったから、俺もなんかな。よくしてやりたくてな。そんなわけでライオルを預かったって理由もあるんだ」


 ベルンはなぜだか少し笑った。

 それは自嘲だったのかもしれない。

 戦地に赴いた弟子が命を落とした。身を守る術を教え切れなかった師として――。

 戦争なのだ。個人の力だけでは生き残ることが難しいこともある。誰もベルンを責めることなどできるはずもなかったが、ベルンは自分で自分に責を感じていたのかもしれなかった。


「……たぶん、あんたがライオルを神殿で見たその日だな。俺も知らせを聞いて……ライオルと真剣での試合をした。ぼっこぼこにしてやった。そんで、そのあと、俺は初めてライオルに酒を飲ませてやったよ。まだあの時、飲酒が許される年じゃなかったがな。……あいつ、鼻水垂らして泣いてたよ。『負けたのが悔しくて泣いてるんだ』って言い張ってたなぁ……」


 ベルンの語るライオルの姿はイーシュの知らないものだった。

 感心したように、どこか嬉しそうに、「そうですか……」とイーシュが小さく呟く。そして手に持った剣を大事そうにさする。


 ベルンが遠い目をした。

 精霊を見る時のイーシュのように、現実でないものをありありと見るために。黒い瞳の色が鈍る。


「あの年から目に見えて西津森は窮地に追い込まれていった……。『蛮族の住む北の森』ってひとつにくくられ、隣森といっしょくたに攻められていた俺たちの森が、初めて皇国に『西津森』と呼ばれたのもその頃だった。俺は旦那様の護衛だったから、戦線からその報告が来たときの事をよく憶えている」


 やりきれない、とでも言いたげなため息をベルンは挟む。


「そして、皇国は中津森と西津森を見比べて、より脆弱だった方、つまり俺たちの故郷、西津森を先に落とすことを決めたんだそうだ。……俺たち森の民にとって、どの森に生まれ、所属しているかは重要な事だ。皇国はそれを軽んずるどころか、ずっと視界にすら入れていなかった。個々の森の独立性を他国にも認められたのは悪い事じゃない。だがな、なんなんだかな……」


 皮肉としか言いようがない。

 わざと俗っぽい言葉でベルンは締めて、最後に笑いながら舌打ちをした。 イーシュはただその様を見守った。その話は当時から神官の身分の者にも届いていた。イーシュの眉間にも、力が入らないはずがない。


「ここ中津森の主が亡くなったのも、確かこの頃だったはずだな……」


 ベルンの言葉に促されて、イーシュはライオルとの、『その』思い出を語り始めた。







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