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オーバークック! ~導かれし腹ペコたち~  作者: 十返香


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4/11

4品目 名(?)コンビ誕生

「――じゃあ、さっきの料理の作り方を、とっくりと見せてもらおうじゃないか」


 厨房に入ったマルガネータは、腕を組んでじろりと睨む。膳志朗は「へいへい」と調理台の前に立つと、さっきまでの子供っぽさが嘘のように、きりっとした表情を浮かべた。


「あの玉子焼きはな、ちょっくら火入れの仕方が変わってるだけで、別段たいしたことをやってるわけじゃねぇんだよ」


 そう言いながら、膳志朗は余っていた抱卵走鳥エッグランナーの卵液をボウルにあけた。黄身の比率が高いため、普通の卵よりどろりと濃厚な色合いをしている。


「まず下準備だが――」


 膳志朗は手早く卵液を混ぜ、調味料を加えていく。途中で「こっちの世界にも醤油ってあるんだなぁ……」などと意味不明なことを呟いてはいたものの、その手つきに迷いはなく、まるで何百回もこの作業をしてきたかのようにスムーズなものだった。


「嬢ちゃん、耐熱容器に油塗っといてくれるか」


「はーい!」


 グーグーが嬉しそうに手伝う間に、膳志朗は深めのフライパンに水を入れて火にかけた。


「こっからが普通の玉子焼きと手順が違うんだが、姐さんはわかるかね」


 マルガネータが身を乗りだして覗きこむ。ほっそりとした顎に指を添わせながら、


「――湯煎ってやつかい?」


 当てずっぽうだったものの、どうやら正解だったらしい。膳志朗がにやりと口角をあげる。


「そう。だが、ただの湯煎じゃねぇぞ。ここに布巾を沈めて、その上に容器を置く。こうすることで、温度を一定に保てるんだ」


 水が小さな泡を立て始めると、膳志朗はすぐに火を弱火に落とした。


「さぁて、こっからが肝心だ。抱卵走鳥こいつの卵が固まり始める温度は、普通の卵より低いみてえだからな。70度前後――それより上げちまうと、さっき姐さんが心配したとおり、カッチコチになっちまう」


 容器に卵液を流し込み、布巾を敷いた湯煎鍋にそっと置く。蓋をして、あとは待つだけのようだ。


「はぁ~ん、なるほどねぇ。つまり、焼くんじゃなくて蒸すってわけかい」


「その通りだぜ。これなら温度管理が楽だし、均一に火が通るしよ。水分も逃げねぇから、あのジューシーさが生まれるんだ」


 マルガネータは感心したように頷いた。



 そうして待つこと15分後――



「ほい、出来上がりっと」


 蓋を開けると、湯気と共に濃厚な卵の香りが調理場いっぱいに広がった。容器をひっくり返すと、表面にうっすら焦げ目のついた玉子焼きが、ぽんと皿に落ちる。その瞬間、全体がぷるんと揺れた。


「はぁー、こりゃ見事なモンだねぇ」


 マルガネータは指でツンツンとつつく。ぷるんぷると揺れる弾力は、先ほど食べたものとまったく同じだった。


「これって、茶わん蒸しとかプリンみたいな作り方だよね?」


 グーグーが興味深そうに覗きこみながら、膳志朗へ質問する。


「おう、その通りだぜ。だから『焼かない玉子焼き』って訳よ」


 マルガネータが一切れつまんで口に入れると、


「……参った。完全に同じ味だ」


 悔しそうに、でも満足そうに呟いた。


「坊や、アンタ本当に初めて抱卵走鳥エッグランナーの卵を扱ったのかい?」


「ん? ああ、初めてだぜ。だが卵ってのは大体似たようなもんだろ? 中身が固まる温度さえ分かりゃあ、あとは応用でなんとかすんのが腕ってモンよ」


 マルガネータが何か言いかけたが、こみ上げる笑いをガマンできなくなって大爆笑した。


「あーあ、参ったねこりゃ。完敗だよ、完敗。あたしの負けだっ!」



 ◆◇◆



 マルガネータが指をパチリと鳴らす。すると、マルガネータと膳志朗の身体が青白く光った。


「おわっ」


 膳志朗がびっくりしたように自分の身体を見る。光はすぐに消え、白い煙のような残滓が溶けるように室内へ広がっていった。


「盟約はここに成就せり――ほい、魔法はこれで解呪しといたよ」


「えっ? えっ!? じゃあさ、じゃあさ! アタシの借金もチャラってことで――」


 グーグーが尻尾をぶんぶんさせながら期待に目を輝かせるも、


「あたしゃ返済を待つだけって言ったんだよ。アンタの魔法までは解呪してないからね、このスカタン」


「嬢ちゃん。ケジメはちゃんと付けるモンだぜ」


「……はぅ~、そ、そうですよねぇ」


 グーグーは耳と尻尾をへんにゃりさせながら、悲し気にうなだれた。


「でも、待ってもらったところで、どうやってお金を工面すればいいか……」


 しおれっぱなしで指をこねるグーグーを見て、マルガネータが心底呆れたようにため息をつく。


「んなモン、この坊やとコンビを組んで店を再開すりゃいいだけじゃないか」


 ワシと? とばかりに膳志朗が自分を指さす。


「なあ、坊や。アンタ行くとこなくて困ってるだろ?」


「なんでマルガネータがそんなこと知ってんのよ」


「見りゃわかるからに決まってんだろ。ただの迷子がボロボロの服を着て、こんな裏町に近い場所を裸足で徘徊してるわきゃないだろーが」


 マルガネータに見つめられた膳志朗は、困ったように頭をポリポリとかいた。


「……ま、そうだな。これからどうすっか、ちっとばかり難儀してたとこだぜ」


 マルガネータがタバコを煙管につめながら、ニヤリと笑う。


「じゃあ話は簡単だ。このバカ――」


 アタシのこと? とグーグーが首をかしげる。その様子があざとくて、マルガネータは片眉をぴくりと上げた。


「――このクソボンクラは、飯屋を開いたはいいものの、商いってのがまるでわかっちゃいなくてね。雇う予定だった料理人にも愛想つかされて、オープン前にトンズラされちまう始末さ。せっかく店はあるってのに、このままじゃ宝の持ち腐れってもんだろ? だから――」


 ぱん、と膳志朗とグーグーの肩に手をあてる。


「坊やは寝泊りさせてもらうかわりに、メシを作る。グーグーは今度こそ店を繁盛させて、借金をあたしに返す。どうだい? カンペキな筋書きだろ?」


 膳志朗とグーグーは顔を見合わせた。


「ワシはまぁ助かるが、嬢ちゃんはそれでいいのかい?」


「へっ? あ、うん! ぜんぜんっ! むしろドンと来いだけど!?」


 その様子を見て、マルガネータは満足そうに頷いた。


「んじゃ、あたしはそろそろ退散するとしようかね――――おい、グーグー。店の再開祝いだ。借金の返済期限をどーするかなんて、しみったれたことは言わないどいてやるよ」


「えっ! ほんとっ!?」


「待たされた分は、利子につけとくからね」


 ぎろりと睨まれたグーグーは、「ですよねー」と冷や汗をたらした。


「あ、そうそう坊や。一つ忠告だ」


 店を出る間際、マルガネータが振り返る。


「アンタみたいな腕のたつ料理人の噂は、この街じゃあすぐに広まるもんさ。いろんな連中が寄ってくるかもしれないけど、気をつけるんだよ」


 真意は伝わってはいないのだろうが、賢そうな少年だ。こちらの表情を読んで冗談ではないと理解したのだろう。膳志朗は意味深な表情でこくんと頷いた。


「んじゃ、そいうことで……また来るよ。坊や、ごっそさん」


「おうよ。姐さんもありがとな」


 ふっと笑い返して店を出たマルガネータに、どっと子分が詰め寄る。


「いいんですか、姐さん!? あんなこと言って……」


 どうやら聞き耳を立てていたらしい様子に、マルガネータは心底呆れながら、


「問題ないよ、親分にはあたしから言っとくから」


「でも……」


 言いよどむ子分たちを、上目遣いで睨む。


「いいかい? より儲かって恩が売れるほうに賭ける。それがあたしら金貸しの醍醐味――いや、矜持ってもんだろうが。大丈夫だよ、親分だってきっと分かってくれるハズさ」


 マルガネータは、かっかっかと笑いながら歩き始める。


(それに、あの坊や……ただのガキじゃない。いったい何者なんだろうね)


 空には月が上り始めたころ。夕飯時を迎えるためか、いたるところから食材を仕込む匂いが漂っている。


 さてさて、次はどんなメシを喰わせてもらおうかね――マルガネータはこの街に新しい楽しみができたことに、静かに満足していた。

ここまでお読みくださりありがとうございました。


楽しんでいただけましたら、一人でも多くの方に読んでもらうきっかけに繋がりますので、なんらかリアクションを頂けると嬉しいです。


しばらく毎日更新しますので、よろしければブックマークも是非。


少年と獣人娘のドタバタ珍道中をこれからもご贔屓ください。



次回「少年の 正体みたり クソ爺ぃ」

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