表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークック! ~転生料理人の異世界レシピ帖~  作者: 十返香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

2品目 少年料理人の必殺メニュー

「――どうだい、坊や。この卵だけを使って、あたしが見たこともないような旨いメシを作ってくれないかい?」


 マルガネータから卵を受け取った善志朗は、それを光にかざして観察する。「ほうほう」と興味深げに呟きながら、手のひらで重さを確かめた。


「ちょ、マルガネータ! なに言ってんのさ!! 卵だけの料理なんて、スクランブルエッグかオムレツくらいしかないじゃない!! それをこんな子供に、見たこともない料理だなんて――」


「グーグー。アンタはちょいと黙ってな」


 煙管がカァンと音を立ててテーブルを打つ。再びグーグーの体に魔法陣が浮かび上がると、「あばばばばばっ!?」と耐えがたい激痛が全身を駆け巡った。


「あたしはこの子と話してんだ――で、どうだい。やってみるかい?」


「こいつは面白ぇな。いいぜ。作ってやるよ」


「いい返事だね。ますます気に入った……ただし、わかってんだろうね」


 マルガネータが身を乗り出し、少年に顔を近づける。二人の足元に複雑な魔法陣が浮かび上がり、青白い光が螺旋を描きながら立ち上った。眼鏡越しに見える暗灰色の瞳が、獲物を見定める蛇のように鋭く光る。


「坊やの料理、あたしがちょっっっとでも納得いかなかった、そのときは――」


「ワシも一緒に売り飛ばそうってか? ふん、上等よ」


 少年は臆することなく睨み返す。その瞳には、年齢に似合わない確固たる自信が宿っていた。


 マルガネータの顔に、満足げな笑みが広がっていく。



「よし、決まりだ! 我、マルガネータの名において、この者、クリヤマゼンシローと共に食饌しょくせんを宣言する――盟約締結エル・ガンデ!!」



 まばゆい閃光が店内を包む。光が収まると、何事もなかったかのような静寂が戻ってきた。


「なんでい、いまの光は?」


 目をしばたかせながら、少年が眉根を寄せる。


「あたしと坊やの身体に、今の約束を魔法で縛ったのさ。これでもう逃げられないよ」


 少年は興味なさそうに「ふぅん」と鼻を鳴らす。一方、グーグーは血相を変えて立ち上がった。


「ちょっとぉ! マルガネータ!! その子は関係ないでしょっ!!」


「なに言ってんだい。ここまでやっといて無関係で済ませてやるほど、あたしゃヌルくないよ」


 グーグーが視線を巡らせると、倒れていた子分たちが息を吹き返していた。痛みに顔をしかめながら、よろよろと立ち上がろうとしている。


「べつにワシは構わないぜ。それよりも――」


 少年がグーグーの袖をくいっと引っ張る。強く引かれたわけでもないのに、グーグーは「……あれっ?」とバランスを崩して少年の隣にぺたんと座り込んだ。


「初めて使う食材に厨房だ。この嬢ちゃんの手ェ借りても構わねぇだろ?」


 マルガネータが鷹揚に頷く。煙管の煙が、ゆらゆらと天井に向かって立ち上っていった。


「じゃ、ちょっと待ってな。すぐに作ってやっからよ」


「え? あ、ちょっとぉ……!?」


 少年は軽い足取りで店の奥へと向かってしまったので、グーグーは慌てて後を追いかける。


 厨房に入るなり、グーグーはバンと調理台を叩いて少年を詰め寄った。鼻息も荒く、耳のピクピクが止まらない。


「ねぇ! ちょっとキミ!! なんだってこんな……あぁもう! 盟約ガンデまで結んじゃって、どうするつもりなのよ!!」


「盟約? ってのはさっきのピカピカしたヤツのことか?」


 あっけらかんとした少年の態度に、グーグーが鼻白む。


「そ、そうだよっ! 絶対に破れない厄介な魔法なんだから!! さっきマルガネータが言ってたでしょ!? この料理勝負に負けたら、なんでも言うこと聞かないといけなくなっちゃうんだよ、キミっっ!!」


「へぇ、そりゃおっかねえ」


 少年はまるで他人事のように鼻で笑う。その態度に、グーグーは苛立たしげに地面をどん、と踏み鳴らした。


「お互いの約束をぜっっったいに守らせる、呪いみたいなモンだって言えばわかる!? やぶろうとしたらすっごい痛いんだよっ!? あたしでもヘニャってなって、尻尾がボワってなるくらい――――って、そんなことも知らない子に盟約を結ぶとか、マルガネータ、あのヤロぅ……」


 唸り声を漏らしながら、グーグーは厨房の外に鋭い視線を向ける。


「まぁ、なんだ嬢ちゃん。落ち着きなって」


 善志朗と名乗った少年は、近くに掛かっていた大きなエプロンに手を伸ばす。床を引きずりそうなほど長いエプロンが、ばさりと少年の小さな体を包み込んだ。


「心配してくれるのはありがてぇけどな。成り行きとは言え、さっきも言ったばかりじゃねぇか。『料理人のいざこざは料理で解決する』ってよ」


「だけどっ!」


「ま、ワシに任せとけって」


 少年は慣れた手つきで調味料棚を漁り始める。フライパンや調理器具を次々と並べていくが、背が低くて顔が調理台に半分隠れてしまっていた。


「はあ、まったく――――ところでさ」


 グーグーは呆れたようにため息をつくと、ひょいと少年を抱き上げた。そして近くにあった空き箱を足で手繰り寄せ、その上に少年を立たせる。


「今さらなんだけど、キミってばどこの子? この辺りじゃ見かけないよね」


 グーグーの問いかけに、それまでしれっとしていた少年の表情に、一瞬影が差す。


「あー、それなぁ。ちぃーっっっとばかり訳ありでよう……ま、あの姐さんを帰したら教えてやっから、ちょいとあとにしといてもらっていいかい?」


 グーグーは渋々といった様子で頷く。耳がぺたんと垂れているので、不満が見え見えだ。


「えっと、あの……ジェンシローくん?」


「……膳志朗」


「……ジェ? し、シロー?」


 少年は大きくため息をついた。


「ま、好きなように呼んでくれや」


「あははー」


 グーグーが誤魔化すように笑う。尻尾が申し訳なさそうに小さく揺れた。


「で。シローくんはさ、何の料理を作るつもりなの? マルガネータのヤツ、『見たこともない料理』なんて無茶ぶりしてたけど……なんかアテでもあるの?」


「おうよ」


 少年の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。くつくつという笑い声が、妙に老成した響きを含んでいた。


「なぁに、なんてこたぁねえ、ワシ特製の『玉子焼き』をチョチョイとな」


「え? ――――――えぇぇええええ! た、玉子焼きぃぃいいい!?」


 グーグーの叫び声が厨房に響き渡る。


「な、なに考えてんのさ、キミはっ!? そんなの、誰だって知ってる料理じゃん! ねぇ、ホントにわかってる? この勝負に負けちゃったら、キミは――――」


 金色の目を真ん丸にして、グーグーが少年に詰め寄っていく。だが善志朗は、小さな手で彼女の肩を押しとどめると、


「わかってる! わかってるから、落ち着きなって嬢ちゃん!! 顔が近ぇしツバ飛ばしなさんなっ!」


 グーグーが「ぐるる」とのどの奥で小さく唸る。じとっとした目で睨まれた少年は、なだめるように両手を上げた。


「ワシだってな、ただの玉子焼きじゃツマんねぇのは百も承知さ。だがよぅ――――()()()()()()()()っつーモンを、嬢ちゃんは見たことがあんのかい?」


「……へ?」


 グーグーの思考が停止する。焼かない、玉子焼き? その言葉の組み合わせ自体が、まったくイメージできない。


「ま、そこで待ってな。いまから面白ぇモン、食わしてやっからよ」


 戸惑うグーグーをよそに、少年の瞳には確かな自信の光が宿っていた。

次回「焼かない玉子焼き」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ