表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークック! ~導かれし腹ペコたち~  作者: 十返香
二章 「星照祭」編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/40

14品目 焼きそば、なんてどうよ?

「あ゛~、やぁっと終わったぁ~」


 エルカドの街、東エリア――その中でもひときわ豪奢な石造りの建物を背に、グーグーは大きく伸びをした。隣を見れば、シローも同じようにくたびれた顔をして肩を叩いている。


「いやー、まぢでギリギリでしたな、シローくん……」


「ほんとツいてたぜ。屋台のエントリー締め切りが、まさか今日までだったとはよぉ……」


 二人揃って、はふぅと安堵の息を漏らす。


 背後にそびえ立つのは、調理士ギルドのエルカド支部。この街で料理に携わる者たちの拠点であり、様々な依頼や情報が集まる場所だ。


 昼食を終えた二人は勇んでここへ駆け込み、無事に星照祭せいしょうさいの出店登録を済ませたところだったのである。


「で? で? アタシたちの屋台の場所は、っと――」


 グーグーがギルドからもらった関係者用のパンフレットを広げた。シローも「どれどれ」と顔を寄せ、会場の見取り図を覗きこむ。


「なぁ、嬢ちゃん……コレ、めちゃくちゃ端っこのほうだよなぁ…………?」


「……わぁお」


 シローが指さす場所は、会場のすみすみ――屋台の導線メインストリートから外れた、見るからに人通りの少なそうな一角だった。


 二人は顔を見合わせ、渋い表情を浮かべる。


「……で、でもでもっ! 前向きに考えていこーよ、シローくんっ」


 グーグーがぐっとこぶしを握りしめた。


「ほら、このタイミングで参加できたってだけでも御の字じゃない? 今回はたまたまキャンセル枠があったけどさ、普通は〆切り当日にエントリーなんて絶対ムリだって!」


「…………へっ、違ェねえ」


 シローが真っ黒な髪を掻きあげ、小さく鼻を鳴らす。


「そうと決まったら、いっちょ気張ってみようかねぇ――料理人の腕の見せどころってモンだぜ」


 むん、と袖を捲り上げるシローに、グーグーが「よっシローくんっ! かっこいー!!」と無責任に囃し立てた。



 ◆◇◆



「うーむ、むむむむぅ……」


「ねぇねぇ、シローくん。さっきからパンフばっか見てるけど、どーかしたの?」


 人通りの多い通りを、二人はゆっくりとした歩調で歩いている。


 石畳の上を行き交うのは、地元民よりも旅行者の方が多いようだ。耳に飛び込んでくるのはグーグーも聞き慣れない異国の言葉ばかりで、道を塞いでいる屋台に何やら文句を言っている一団もいた。


 そんな雑踏の中、シローはパンフレットを食い入るように見つめたまま、前も見ずに歩いている。危なっかしいことこの上ない。グーグーはその両肩に手を置くと、人波にぶつからないようかじを取った。


「いやぁ、見れば見るほど、面白そうな食いモンの店ばっか載っててよ。目移りしちまうぜ」


「あー、わかる。エルカドは()()()()って言われてるくらいだもんねぇ」


 調理士ギルドの受付で、星照祭の屋台出店は過去最多になったと聞いている。その数、およそ200店超。長くエルカドで暮らすグーグーですら聞いたことのない規模感だ。


「どれどれ、どんな美味しそーな屋台があるのかなっ――――と」


 シローの肩越しに、グーグーがパンフレットを覗きこむ。出店者の一覧を目で追っていくと、ふいに見覚えのある名前が目についた。


「うげっ、マジぃ!?」


「――っ、どうしたんでい、嬢ちゃん。耳元で叫ぶなよ、くすぐってぇ」


 首をすくめるシローの抗議を無視して、グーグーは食い入るようにパンフレットを睨みつける。


「いやだって、ココ見てよ!」


 パンフレットの一か所を、ぴしぴしと指で叩く。


「こーこっ! これっ! ヲゥカさんも出店してるなんて、アタシ聞いてないしっ!!」


 あまりの慌てように、シローが「うん?」と首をかしげた。


「ヲゥカ? なんだ、そんなにスゲぇ料理人なのか?」


「えっ!? ……っあー、そっかぁ。シローくんは知らなくて当然だよね。んーとぉ……」


 グーグーはこめかみを指でトントンと叩きながら、どう説明したモンかと言葉を探す。


「あのさ、エルカドの街って、いっぱいご飯屋さんがあるじゃない?」


「まあな」


「ってことは、ヘイヴランド中を見渡せば、もっともーっっっっといっぱい、ご飯屋さんがあるってことでしょ?」


 グーグーはシローの肩を掴むと、くるりとこちらを向かせた。


 周囲を歩く人々が、邪魔そうに二人を避けていく。だが構っていられない。グーグーはしゃがみ込んでシローと目線を合わせると、真剣な眼差しで真っ直ぐに見つめた。


「ヲゥカさんはね、そんなヘイヴランド中の調理士の中でも、七指に入るくらいスゴイ人なの。色んな逸話があるんだけど、例えばね――」


 曰く、ドワーフとエルフの諍いを料理によって停戦させた。街を襲撃しにきたドラゴンを餌付けして追い返した。ヲゥカの料理目当てに魔界から押し寄せてきた魔族を、こぶし一つでぶん殴って蹴散らした――


 どれも荒唐無稽な話(最後のヤツはもはや武勇伝のたぐい)だが、火のない所に煙は立たない。


「おうおう、そりゃまた剛毅(ごうき)な話だなぁ」


 シローの朔夜さくやの如き瞳が、ぎらりと光る。


「この世界にきて早々、そんなスゲぇ料理人と勝負できるってのは幸先いいじゃねえか……くくっ、血がたぎってきやがるぜ」


 シローの声が熱を帯びていく。らんらんとした目つきでブツブツと物騒なことを呟く姿は、正直ちょっと可愛くない。


 グーグーはなんとか話題をそらそうと、


「……あー、あのさ…………そう、そうだよっ! シローくんはさ、どういう屋台をやるつもりなの?」


「――ぅん? あー、そうだなぁ」


 急に現実に引き戻されたシローは、ぼんやりと空を見上げた。青く澄んだ空の下、色とりどりの旗が風に揺れている。


 しばしの沈黙のあと、



「…………焼きそば、なんてどうよ?」



 そう、ポツリと呟いた。


「へ? 焼きそば? なんかショボくない?」


「おいおい、嬢ちゃん。焼きそばってのはすごいんだぜ?」


 思わずこぼれたグーグーの不躾な本音に、シローが腰に手を当て抗議する。


「なんせ縁日のメシの中じゃあ利益率がべらぼうに高ぇんだからな」


「り、りえきりつ……?」


 急に難しい言葉で諭されたグーグーは、口をもにょもにょさせて押し黙る。


「おう。一番儲かるのは、やっぱ王道のたこ焼きサマだけどよ。王道ってヤツぁ、得てしてライバルも多いモンだ。それに意外と調理の手間がかかっちまうし――」


 シローはくっくっと喉の奥で笑った。


「ワシと嬢ちゃんの二人で屋台を回すことを考えると、そういうモンに手ぇ出しちまうのはちと厳しい。だからこそ、低原価かつ高利益な焼きそばこそが屋台最強だってぇことを、ワシたちで証明してやろうじゃねえか」


 その後も、なにやら早口でブツブツと難しいことを呟き続けるシローに、グーグーは「はぁ」「そーだよねー」と当たり障りのない相槌を打っていると――


「ま、いろいろと言ってはみたがよぉ」


 考えを吐き出してスッキリしたのか、シローがふぅと息をついた。


「嬢ちゃんが先に言ったとおり、ただの焼きそばを作っても面白くもなんともねぇ。客のド肝を抜くような、すげぇモンをこさえてやるつもりだぜ」


「お、その自信あふれたカワイイお顔――なんかアイデアあるの?」


「ったりめえよ。さっそく材料を仕入れにいこうじゃねえか」


「荷物持ちならまっかせなさーいっ」


 グーグーが胸を張って請け合う。と、その鼻がひくひくと動いた。


「――あ、シローくんシローくん。あそこの串焼き、めっちゃいい匂いしない?」


「お、ほんとだ。腹ごしらえしてから行くか」


 二人はそそくさと屋台で串焼きを買うと、頬張りながら大通りをゆったり歩いていった。

次回「満紅生姜みつべにしょうが

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ