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オーバークック! ~導かれし腹ペコたち~  作者: 十返香
二章 「星照祭」編

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12品目 エルカドの街

「ほらほら、シローくん! あそこに見えるのがエルカドの街名物、公衆大市場だよ!!」


「ほぉおおお――たしかに、こりゃすっげぇなあ」


 高台の手すりから身を乗り出したシローの下駄が、カラコロと音を立てる。甚兵衛によく似た異世界の装いが、朝の風になびいていた。


 今日は土曜の休息日。晴れて五級調理士となったシローは、グーグーと一緒に街の散策としゃれこんでいた。


 眼下に広がる市場は、まるで色とりどりの絨毯を敷き詰めたように鮮やかで、強い日差しを受けて輝いて見える。


「いやぁ、壮観だぜ。昼どき前だってのに、あんなに混雑してんだもんなぁ」


 シローの声には興奮の色が滲んでいる。


 転生してから初めて目にする、これほどまでの人だかり。日本の繁華街と比べても遜色ない賑わいようだ。


「うぅ、ごめんね、シローくん……アタシがお寝坊しなかったら、もうちょっといてる朝市に連れていってあげられたのに…………」


 グーグーが短丈シャツの裾をいじくりながら、伏目がちに呟いた。


「いやいや、この世界で暮らしている人たちのことも、色々と知っときたかったからな。ワシにとっちゃ、むしろ好都合だぜ」


 シローは笑顔で手すりから降りると、グーグーの袖をちょんと引いた。


「なあ、嬢ちゃん。年甲斐もなくて悪ぃけどよ、どんなモンが売ってんのか気になってしょうがねぇや。早くあっこへ行ってみねえか?」


「……うんっ! それじゃあ、全速前進でぇ――――――――」


 言うや否や、グーグーがシローの股座またぐらに頭を突っこむと、


「れっつら、ごーっっっっ!!!!」


「嬢ちゃん? ちょ、まっ……」


 返事を待たずに、グーグーはシローを肩車したまま、高台の柵を軽々と乗り越える。


 絶叫に笑い声、そして風を切る音と共に、二人は市場へ向かって一直線に飛び降りていった。



 ◆◇◆



「アタシたちが暮らす、このエルカドの街はねぇ――」


 人波を器用にすり抜けながら、グーグーが説明を始める。まだ少し足元のおぼつかないシローの手を、しっかりと握ってくれていた。


「すっごい昔っから、陸路と海路の行商が交わる場所だったらしくてさ。交易路の中継地として栄えてきたって言われてるんだよ」


「なるほどねぇ。だからこんなにもいろんな店が並んでんだな」


 シローの目が忙しく動き回る。


 地面に布を敷いただけの簡素な店から、木造の立派な屋台まで、商売の形も様々だ。ドワーフが打った武具、エルフが育てた珍しい果実に野菜、獣人の焼く香ばしい肉、人間が調合する香辛料――まさに人種、いや()()のるつぼのようだ。


「いやしかし、すっげぇ人ごみだな。こんな市が毎日たってんのか?」


「そだよ。今日は土曜の休息日だから街の外からも人がいっぱい来てるけどさ。平日は平日でまた違った混雑っぷりだから、シローくん、びっくりするんじゃないかなぁ」


 マジか、と驚くシローを横目に、グーグーは「ふふーん」と得意げに胸を張る。


「エルカドに住んでる人の数はねぇ。正直わかってる人のほうが少ないと思うんだ。けっこう長く住んでるアタシだってよく知んないし。近くの村から市のために来ている人もいれば、移民の出稼ぎに冒険者や調理士……そんなのがちょいちょい滞在してるからねぇ」


「ほーん。出入りの激しい街なんだなぁ」


 そうこうしているうちに、大市の喧騒を抜けた二人がたどり着いたのは、本や古物を扱う静かな一角だ。


 ようやく人の密度が下がり、ふうっと安堵の息をつく。


「これだけ人がいっぱいのエルカドだけど、街の大きさでいったらヘイヴランドでも四番目くらいなんだって。まぁ、マルガネータの受け売りなんだけど――でもアタシは、活気だけはどこの街にも負けてないって思ってるよ」


 ふと、シローが足を止める。その視線は看板に貼られている、大きな街の見取り図に吸いつけられていた。


「――この街は、交易路によってデカくなったって話、この地図を見るとすげぇよくわかるぜ」


 確かに、街を×(ぺけ)の字に貫く二本の大通りを中心に、東西南北が綺麗に区画整理されていた。それぞれ異なる色で塗り分けられている。


「でしょ? すっごく大雑把に言うとね、西エリアは学問とか芸術関連が盛んで、今アタシたちがいるこの東エリアは、公衆大市場と娯楽施設がいっぱいあるって感じかな。南エリアは高級住宅街ばっかりで、アタシたちが住んでる場所はここ――北エリアのこの辺り」


 地図をトントンと指差しながら、グーグーが少し声を潜める。


「北エリアは労働者や移民が多い場所でね。夜遅くまでやってる飲食店とかエッチいお店もいっぱいあるから、ちょっぴり治安が悪いんだ」


 シローは苦笑を浮かべながら、改めて市場の方へ目を向けた。


 人々の話し声が幾重にも重なり、異国の言葉があちこちで飛び交っている。香辛料の香り、焼き立てのパン、革製品や鉄の独特な匂い――すべてが混ざり合って、この街特有の空気を作り出しているかのようだ。


(――いやあ、なんとも心躍る場所だねぇ。ここは)


 久しぶりに感じる、新天地での高揚感。シローはこの街をすっかり気に入り始めていた。


エルカドの街は、池袋+イスタンブールのバザールを融合したオリエントなイメージです。



次回「繁盛店の条件」

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