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墓へと帰る

作者: 瑞希

私にはかつて、友人がいて、家族がいた。それらは当たり前に存在するもので、私にとっては愛の象徴でもあった。

朝起きたとき、外に雪が積もっているのが見えた。昨夜は降ってすらいなかったので大分時間が経ったのが分かった。気持ちではマッハ1をも超えた速さで制服に着替えリビングへ出たとき、母親の姿はなかった。時間も時間なので当然ではあるが、心なしか寂しかった。

若干の諦めを抱えつつ、ビニール傘をさして家を出た。だんだんと見えなくなっていく空と、続々と増していく重さは状況も相まって絶望を暗示しているのだと思われた。

教室に着いたとき、幸いにも予感はそこまで的中しなかった。教師は私を軽く咎めただけだったし、誰かから白い目を向けられた訳でもなかった。だけれども、イジられたり注目を浴びたりした訳でもなかった。その後、少なくとも放課後までは何の問題もなかった。

ホームルームが終わったとき、いつもの友達と一緒に帰ろうとした。しかしその人はどうやら他の友達と帰るらしかった。最近は一緒に帰ることがあまりないので今日こそは、と思ったが、それを邪魔するほどの勇気も傲慢さも持ち合わせては居らず、それにただ一緒に帰らなかっただけで友情が無くなることはないと考えたので、そのときできた精一杯の笑顔で見送った。

帰路に着いたとき、私は1人で歩いていた。そこまで重く考えることではないが、ほんの少しの陰鬱な気が離れなかったので、気分を変えようといつもとは違う道で帰ることにした。

ボーッとしていると、母親からたった1行のメールが届いた。内容も非常に淡白なもので、今日は帰れないということだった。それについては何も思わなかった。しかし、返信をすることは叶わなかった。騒音が響き、集中できなくなった。スマホから目を離すと、2、30代の中年ども(私から見たら、だが)が安酒片手に口喧嘩していた。それには違和感があった。すっかり辺りは暗くなったが、季節のことを考慮するとまだ普通の人は仕事中だ。そこまで思考を巡らせたとき、途端に晴れやかな気持ちが襲ってきた。彼らを見ていると謎の安心感を感じられた。が、気がつくと無職たちは喧嘩をやめ、談笑を始めていた。そのとき、気分はトランポリンを跳ねて以前よりも深くまで沈み込んだ。私と彼らには分かりたくもない決定的な違いがあるのだと気づいてしまった。

それから私は目を閉じ耳を閉じ、自分を世界から遮断して歩いた。何かにぶつかるかもしれないが、こちらの方が私にとっては安全だった。

案の定何かにぶつかった。恐る恐る目を開くと、それは墓石だった。気が付かぬ間に墓地に入っていた。

そこは限りなく静かだった。いつしか耳を閉じるのも忘れ、静寂を享受していた。

そのうち、私が居るべきなのはここではないかと思った。なので墓に入ることにした。

都合よく、返却されずに放置されたスコップを見つけた。それを使って地面を掘ることにした。手入れ用のスコップだったので掘削には向かず、そのうえ雪の冷たさを全身で感じていた。しかし、掘り進めた。窓から見える電気がついに1つもなくなったあと、人ひとり分のスペースができた。

私は墓石も置かずにそこに飛び込んだ。

土で埋まっていくとき、真冬の土の冷たさを感じるだろうと思った。けれども、実際に感じたものは暖かさだった。そのころにはもう、とっくに体温は冷えきっていた。

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