第3話 愛し子?
第3話 愛し子?
変な気配を感じ、朝食の席から消えたルカはまっ暗い空間を引張られる様に移動していた。
相変わらず無表情なルカだが、ちょっぴり嬉しそうでもある。何を隠そうルカは、超常現象の類が大好きなのである。今現在の自分の状況が楽しくて仕方が無いのです。
内心、これからどうなるんだとわくわくしながら変化を待っていました。その時、
「楽しんでいるかい我が愛し子よ。」
と、とっても魅力的な声が聞こえてきました。
慌てる事無くルカは、返事の代わりにコクンと頷きました。
「それは良かった。私はタキオンと言う。よろしく。これから私の作った世界に遊びに行って欲しいんだよ。ルカは元の世界にはもう、興味を引く物が無かっただろう? 気分転換にイイかと思ってね。良かったかな?」
声曰く、タキオン神。結構強引な所があるお方です。まぁ神様ですからね。
ちなみに愛し子と言うのは神様たちにある制度で、神様と波長の合う魂に加護を与えて生まれてから死ぬまでの間様子を見るという制度。人間を身近に感じるように、う~ん、映画を見る感じかな。
もちろん見られる方は堪った物では無いけれど、それなりに加護は与えているから良いだろう。という感じです。見ているだけでは無くて、直接ちょっかいを掛ける場合もあります。
今回のタキオンの様に。
「家族は?」
とルカがタキオンに聞きました。
「後で手紙を書くと良い。届けてあげるよ。」
ルカはホッとしたように息をついた。突然消えたルカを心配して居るはずだから。消息を伝える事が出来れば安心するでしょう。ちょっと海外ならぬ異世界旅行に行くだけなんですから。
「そうだ。姿を少し変えてもいいかな?邪な事を考える人が居るといけないから、自分の身は自分で守るんだよ。あと、言葉は通じる様にしておいたよ。何か困ったことが有ったら、心の中で話しかければ聞こえるから、話しかけなさい。」
「ありがとう。」
「さあもう着くよ、楽しんで。」
タキオン神の声が途切れると、ルカは光に包まれていた。
眩しさに目をつぶる。恐る恐る目をあけると、ぼやけた視界の中に大勢の人たちが見えた。
ふと体に違和感を覚え、体を見下ろしてみた。毛皮だ。毛皮の服?パチパチと瞬きする。
手足が猫に成ってる!!これにはさすがのルカの無表情も耐えられず、大きく目を開きびっくりした表情を作った。視界の端に動く物が眼に入ってよく見ると、シッポだった。
(私猫に成ってる!姿を変えるってこういう事だったんだ。)
しげしげと自分の体を見て、いろんな動きをしてみた。面白そうに、爪を出したり引っ込めたりしている。興味しんしんだ。普通は体が変化する事など無いので、ルカはとても興奮していた。
一頻り体を動かして遊んでいたら、周りの人の気配が少なくなっている事に気がついた。
不思議に思って周りを見ると、大分人数が減っている。
一人の青年が近づいてきた。弟と同じぐらいだろうか?嫌な感じはしなかったので、特に何もせず近寄ってくるのを見ていた。
青年はルカの前、1メートルぐらい離れて膝を付きルカに目線を合わせた。
「お初にお目にかかります。ルカ殿。私はアルトレン国国王が子息、フィリップです。この場から王宮に移動したいと思っていますので、お体を抱き上げる事を許して頂けますでしょうか?」
ルカはじっとフィリップを見詰めた後、コクンとうなずいた。
フィリップがホッと息を吐き、手をゆっくりと差しのべてきたので、その手に体を摺り寄せた。
ふわりと体が浮き、フィリップの片腕に座るように乗せられる。
(目線が高い?平均身長が高いみたい。この世界はみんな大きいのね。私も大きい猫に成ったし。王宮って言ってたわね。王子様だし。王家のペットになるのかしら?ご飯が心配だな~ 猫飯か?)
などとルカは考えている。元のグータラ生活もペットと変わりない生活をしていたので、ペットでも抵抗はない。ご飯の心配だけである。でっかい猫、つまりヒョウ生活を楽しむつもりだ。グータラ生活は世界が変わろうとも変えない予定である。興味を引く事が無い限りは。
フィリップは、神の愛し子に対する好奇心と、身分が有り若輩で替えの利く立場からルカに近づいたが、抱き上げた体の心地よさと毛皮の滑らかさ、大人しく腕に抱かれている様の愛らしさに夢中になりそうだった。このフィリップ。動物大好きなのである。
(よかった~三男で。父上や兄上たちは、愛し子といえ見た事の無い獣でケガの心配があるから近づけ無かったけど、大人しいし、かわいいし、懐くと良いなぁ~ 一番に触れてよかったなあ~ そういえば言葉は通じるみたいだし、仲良くなりたいな~)
などと考えている。国王の号令のもと王宮に向かっているが、羨ましそうな視線をちらちらと感じていた。フィリップの顔は得意げである。調子に乗ったフィリップ、
「ルカ殿、毛皮を撫でてもいいですか?」
と聞いた。ルカはしばし考えたのち、まあいいかと思いコクンと頷いた。
許しを貰ったフィリップは嬉々としてルカの体を撫でまわす。その滑らかな感触を楽しんでいた。
撫でられたルカも、さすが動物好きなだけあって気持ちがよく、フィリップにすり寄り喉を鳴らした。
猫が喉を鳴らすのが分かるくらい気持ちがいい。今は猫だから良いか、と心地よさに身を任せ本能のままにすり寄った。本当にいいのかルカ?!人間のままなら大問題だぞ~
(今は猫ライフを楽しむのだ!!)
と、気持ち良さにウットリしている内にうとうとしてきて眠りに引き込まれていった。