第2話 予想外?
第2話 予想外?
ロンヒール大陸にあるアルトレン国。大陸の4分の1を占める歴史ある大国だ。その大国の信仰の中心。首都ルルビスにある神殿にて、1年の感謝を捧げる神事が行われていた。
神殿には王族を始め、主だった貴族たちが集まり神官たちが祝詞を捧げる様を見ていた。
アルトレン国の祭る神は、この世界アーズウェンドを作ったとされるタキオン神である。タキオン神は黒髪、金の目の美丈夫で誕生と死を司ると言われている。生命が廻るためには欠かせない物である。
また、文武両道で素晴らしい武勇を誇りどの様な問いにも答えたとされるパーフェクトゴットである。
「神様は何でも出来る」の見本である。だからものすごく信仰されている。
かといって他の神が冷遇されているかと言うとそうではなく、それなりに信仰されている。農業の神サラバン、美の女神アーニス、海神オンディーニュなど。
まあとにかく、神事である。
神官たちがタキオン神の像に向かって祝詞を唱えていると、タキオン神の像が輝きだした。周りの貴族達がざわめく中、それでも神官たちは祝詞を紡ぐ事を止めずに唱えている。中断は禁止されているのだ。この祝詞は神話の時代から伝えられているもので、神を讃える物と言われているが神聖語の為、解読されていない言葉もある。途中で止めるのは神に対する不敬だとして公式の場では罰せられるのだ。
もちろん練習中はどこで止めてもオッケーです。
さあさあ、光っているタキオン神、気になるけど一生懸命に祝詞を唱える神官たち、ざわめいて食い入るように像を見つめる王族、貴族のオーディエンス。
舞台は整いました。何が起こるのか?
おおっと!!ついに神官が祝詞を唱え終わりました。そしてタキオン神像を見つめます!
光が像から離れて、像の前に集まりました。集中する視線!!
その時、神殿に居る全員の頭に声が響きました。
「我が愛し子ルカだ。よしなに・・・自由にしてやってくれ」
声が神殿中に居る人に響き渡りました。
その声は低く、力強く、とても魅力的で老若男女問わずうっとりする美声だった。
神官、王族貴族達がその美声に酔いしれて居るとだんだんと光が弱まってきている。
かずかずの強烈な視線が集まる中、皆息をのみ食い入るように見つめる。
光が収まりその中から顕われたのは、まっ黒な毛、輝く金色の瞳、美しい姿の・・・
黒ヒョウだった。
「おーーー」「神の奇跡だーー!!」「すばらしい!」などなど、神官貴族達がざわめいている。中には涙を流して居る神官も居る。皆の顔が興奮で輝いている。正にカオス。
その中にあって黒ヒョウは、まわりの視線など気にして居ないようにきょとんとした顔(多分)で、自分の手足、尻尾を見ている。
収拾がつかなくなって来た所、
「みな静まれ!!」
と声が響いた。まさに鶴の一声。国王様の声。とたんに皆口を噤み国王様を見る。
アルトレン国国王、ジョーウェスター・オル・アレン・アルトレンさま。
46歳。5人の子持ち。奥様亡き後、独身を貫くロマンスグレーでグリーンの目の素敵なおじ様。
市民の生活環境の改善、市民からも実力のある物を取り立て、身分に囚われず実力主義。貴族には、市民の見本となる貴族たれ。と圧政を許さず、身分を笠に着る馬鹿貴族どもを粛清しまっくたお人。当然市民からの人気は絶大。貴族からもまさに正しい王族として評価が高い。後妻を狙う女性が後を絶たないモテまくり。まさにカリスマ。ファンクラブもあるらしい。
「皆落ち着け。まずはルカ殿の処遇を決めねばならん。神官長、宰相、5候、将軍達以外は解散してくれ。」
国王の命令に人々は名残惜しそうに礼拝堂を出て行く。
「父上。どういたしましょう。先ほどの声はタキオン神なのでしょうか・・」
国王様に話しかける皇太子のアレクシオン。
タキオン神が愛し子と申した言え、黒ヒョウ。獣である。顔が緊張し、目はルカから離さない。
この世界にはヒョウは居ない。しかし、似た獣が居るので警戒している。神聖色の黒を纏っているので黒ヒョウが現れても攻撃されなかったのだ。
「そうだな。取り敢えず国賓という形をとって王宮に部屋を用意しよう。神の愛し子だからな。粗末な扱いは出来ん。かといって自由に、と仰っていたから閉じ込める訳にもいかんし、警備が大変だ。まずは移動だな。」
「陛下。王宮に移動してルカ様に休んで頂き、その間に民への公示とルカ様の処遇を考えましょう。
貴族達から話を聞いた物たちが来るまでに移動しなければ。」
「あぁ宰相、分かっている。抜け道を通って城に移動したいんだが、ルカ殿をどうしようかと。」
大人たちがこれからの対策を話している内に、この中の最年少、国王の3男フィリップがルカに近寄って行った。その様子を見咎めた皇太子が緊張してそのやり取りを見詰める。まわりの大人たちも見詰める中、ルカがフィリップに抱き上げられた。その大人しい様に一同の緊張がとかれた。
「さあ移動しよう。」
国王の声に周りは一斉に動き出し、周りを警戒しながら国王を中心に城に移動していった。