第1話 呼び出される?
第1話 呼び出される?
東京郊外。
2階建ての瀟洒な洋館が建っている。門から一歩入ると、玄関に向かって車寄せが有り、庭はローズガーデンでイギリスに来たと思わせる素敵な家である。洋館の周りは高い塀に囲まれて道からは洋館の屋根の部分が辛うじて見えるくらいで、プライバシーは完璧に守られている。
この洋館にどの様な人物が住んでいるのかと言うと、普通の会社員の父親、専業主婦の母親、家事手伝いの娘(25歳)、大学院生の息子(23歳)、大学生の息子(19歳)のどこにでもいる普通の5人家族である。
なぜこのような洋館に家族が住んでいるのか?
一家の大黒柱の父親は、普通の会社員。肩書きは課長だがこの家を買えるほどの稼ぎは無い。
では親から受け継いだのか?
一家が家に越してきたのは7年前である。
あれは今から15年前。日々子育てに追われる主婦がちょっぴり愚痴を吐いた事から始まりました。
「ねぇ~~ルカちゃん。このお家素敵よね~。こんなお家に住んで優雅に過ごしてみたいわ~。薔薇のお庭が素敵よね~」
主婦はイングリッシュガーデン特集が組まれた雑誌を見ながら長女に話しかけた。それは単に憧れ、ちょっとした夢を語っただけだったのでしょう。しかし、長女にとっては違いました。
母親は自分の世話をしてくれる人。ご飯をくれる人です。ご飯をくれる人は大事な人です。
長女は真剣に雑誌の写真を見ていました。
その間も母親は、ずっと庭と家の事を話しています。
「わかった。」
ルカは静かに答えました。言葉足らずな所が有る娘です。実際は話すのが面倒なだけですが、母親は素敵な庭と家の事で共感してくれた返事だと思いましたが、ルカの中では家をプレゼントするという返事でした。
「よかったわ~。ルカちゃんもそう思ってくれて、ママ嬉しいわ。」
母親は笑顔でニコニコしていますが、ルカは無表情でした。
ルカは小さいころから無表情でめったに表情が変わりません。かといって感情が無い訳ではなく、表情を作るの面倒くさがっている内に表情筋が動きにくくなっているだけです。家族はわずかな変化の、ルカの表情を読み取れます。ただし、この時は読み間違えました。
ルカは基本的に興味の無いものは目に入りませんが、家族の話はきちんと聞きます。この時の話もきちんと覚えていました。
ルカは考えました。家を買う。それにはお金がいる。稼ぐには頭が良くて、いろいろな事を知らないといけない。勉強するか・・・
今までは興味のある事以外勉強しなかったのですが、色々な事を勉強しだしました。
両親はルカがいろんな事に興味を持ちだしたので喜びました。どんどん成績が上がり普通の学校では物足りなくなりました。色々な論文が認められて、海外の学校に飛び級でスカウトされました。ルカは余り行きたがらなかったのですが、母親がご飯を冷凍して送るからと言うとあっさりと行きました。
そうして8年。数々の博士号を取得しルカが日本に帰って来てしばらくした時の事、家族そろって朝ごはんを食べている時にルカが爆弾発言をした。
「明日みんなで引っ越すから。」
家族みんなはいきなり何を言うんだとルカに詰め寄ったが、ルカは詰め寄るみんなに家の権利書などの書類を提示した。びっくりした家族全員で家を見に行くと、素敵な洋館。母親は大喜びである。
父親は「大黒柱は俺なのに」と呟き妻に慰めて貰おうとしたが一蹴され、隅っこで息子たちに慰められていた。
母親はきゃーきゃー言いなから家中を見て回っていた。ルカは母親のそんな様子を満足そうに見てた。
ルカは容姿端麗な両親から生まれたので、もちろん容姿端麗。頭の良さはまさに天才。それに女性としての魅力あふれるナイスプロポーション。身長は父親に似て大柄で178センチある。そして運動神経も半端無くいい。海外ではその黒く長いうねった髪と黒い瞳、美しい姿に無表情もミステリアスだともてまくっていた。言葉が少ないのも物静かで思慮深いからと思われていました。まさに神に愛されていると。
家を手に入れてから7年。ルカはずっとごろごろしていた。熱帯を模した温室の中で惰眠を貪りながら。正に3食昼寝付き。ルカの理想の生活である。神に愛されしルカは、極端なものぐさだった。本能のままに生きている。
お金はごろごろしている内に、自作のプログラムが株取引で稼いでくれる。外にはめったに出ず、研究の勧誘なども蹴っていた。偶に出かけても一人で飲みに行くくらいである。家族はそんなルカを心配していたが、そのうち興味がある事を見つけて動き出すだろうと思っていた。
そんなグータラ毎日を過ごしていてもルカは美しかった。ますます美女に磨きが掛っていました。まあこれは遺伝子の神秘でしょう。
ある日家族で朝食をとっている時の事(朝食は家族で取るのが決まりです)、いつも通りルカ以外が話しルカは聞き役です。
ルカは変な気配を感じました。ルカが周りを見渡していると、家族が話を止めてルカを見ました。
ルカが気配に敏感な事は知っていましたから。そうしたら二男が「あッ」と声を出しました。
ルカの体が光って居るからです。家族は息を詰めてルカを見つめました。
体がだんだんと透けて行っていました。慌てて家族がルカの体を掴もうとしますが掴めません。手は体をすり抜けます。
「もどってきてーー!!」
と母親が叫びました。
「わかった。」
とルカの声が聞こえたような気がしましたが、完全にルカは消えてしまいました。
家族は茫然と取り残されていました。