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売られた先は軍隊でした

 結論から言えば、戦略兵器として私が配備されたのは陸軍でした。

 事の経緯は順を追って話します。


 あの後、私達フィンチ族の殆どが捕縛されて攫われました。

 檻に詰め込まれて、人身売買の商品として取引されて、とある国の軍に購入されました。

 唯一幸いだったのは、怪我をした人は居ても死者はいなかった事でしょうか。

 ……いいえ、本当は違います。

 それこそが私達の不幸で、彼らの思惑の一旦だったんです。

 この世界の住人には、魔法としか言いようのない不思議な能力(ちから)が宿っています。

 それらは種族ごとにあって多種多様ですが、私達フィンチ族の能力(ちから)は特に希少なモノでした。

 最大七日程、死ぬ前の記憶を保持した状態で時間遡行が可能なんです。連続で死んで、大きく時間を遡るような事は出来ませんが。

 これはとても奇妙な現象で、なるべく死に難いように危機への対策がしやすい過去の地点へ戻されるんです。

 だからなんでしょう。

 銃を携帯した人狩りに私達が襲われながら、誰も殺されなかったのは。

 彼らは知っていたんです。

 フィンチ族が死に戻りで危機を事前に察知した行動がとれてしまう事を。

 あるいは能力の詳細を知らなかったとしても、拉致したければ安易に殺害してはならない事を。


 ――これから()()()に知ってもらうのは、戦略兵器カナリアがミナト少佐の部隊に配備され、初めて死に戻りをしたあの日の事です。


「君がフィンチ族のカナリアだね? 本当にいたんだな」


 私との初対面で、ミナト少佐が感情の読み取れない無表情でそう言いました。


「各国に戦争で使い潰されて絶滅したと噂されていた幻の短命種族、それが君達だよ」


 おそらく何を言われているのかわかっていない顔をしていたのであろう私に、ミナト少佐が丁寧に自分の発言の意図を解説してくれます。


「未来予知能力での奇襲の警告、敵部隊の配置、伏兵の有無……そういった貴重な情報を提供できる力、すまないがここで活かして貰う事になった。誤情報を教えるのは勘弁してくれよ? 我々が死ぬような事態であれば君も道連れだろう。一蓮托生というやつだ」

「…………?」

「ああ、そういえば……聞くところによると、実際近い未来に死ぬような状況じゃないと発動しない能力だと上層部からの伝達ではなっていたな。まだ自覚も発動経験もないのか……?」

「あの、何の事だか……」

「その様子だと当たっているみたいだね……当面はあまりアテにしないでおいた方がいいな」


 死に戻りについて、この頃の私は何の覚えもありませんでした。

 こういった挨拶を済まし、部隊の方々に紹介されて、私は知らない人達と交流する事になりました。

 歓迎会だと隊員たちに連れて行かれたのは駐屯地(キャンプ)に備え付けられた食堂で、そこで今にして思えば手厚い、けれどその時の感覚ではとても質素なおもてなしを受けることになります。

 男の人が多かったですが女の人もそれなりにいて、そこは安心できたし馴染み易かったです。

 年代はまちまちで、同世代から親よりも年上っぽい人までいました。

 それは久しぶりに笑顔になれるひと時でした。


「お嬢ちゃんを見てると娘を思い出すなぁ!」


 獣人の手で果物を挟んで持つ私をかわいいと褒めてくれるおじさんとか。


「ほら、お口開けて? 食べさせてあげるから」


 食器が使えないだろうからと代わりに甲斐甲斐しく料理を私の口に運んでくれる面倒見の良いお姉さんとか。

 この部隊の人達は、私の胸にこびり付いていた不安や悲哀を幾ばくか吹き飛ばしてくれるくらい陽気で親切な方々だったんです。

 たくさん可愛がってもらえました。

 もしかしたらそれは、自分達の生存率を上げる為に私の力を期待して持て囃してくれただけなのかもしれませんし、利用する為の画策だったのかもしれません。

 ですがおそらく、それを抜きにしても私の扱いはそれほど変わらなかったように思います。

 そう思える人達でした。

 だから私も、好意を抱いて接することができました。

 ――そんな時だったんです。

 私の目の前で爆発音と共に複数人が炎に飲まれていったのは。

 敵対している勢力の工作員によるテロでした。

 争いの絶えない世界(サンサーラ)では、これが日常でした。

 これまでの私が知らなかっただけで、隔離されて守られていただけで、この世界はもうずっとこんな所だったんです。

 これによって部隊は全滅して、当然私も殺されました。

 立ち竦んだまま無数の銃弾を全身に受けて、ほぼ即死だったので恐怖も苦しみも感じなかったのは幸運だったかもしれません。


「あれ……?」


 ですが気が付くと、私はミナト少佐と挨拶をする直前の場所――駐屯地(キャンプ)に仮設されているミナト少佐の執務室にいました。

 白昼夢……にしては妙に現実感があって。

 私はミナト少佐が到着するなり、自分の体験を全て報告しました。


「……未来予知じゃない。死に戻りだったのか」


 そうミナト少佐は呟きます。

 そして、さらに続けます。


「これは他の人達には言わない方がいいだろうな……。死に戻りの能力で死なない世界線を探すなんて伝えたところで、それで死の恐怖が和らぐわけでもない。混乱を招くだけだ。協力してくれるかい?」

「はい……」


 私は素直に頷きました。ミナト少佐の言う通りだと思ったからです。

 それからすぐに襲撃への対策が講じられ、迎撃態勢が整えられて索敵が行われました。

 作戦は無事に成功したと言えたでしょう。

 被害が非常に軽微な結果で事態は決着します。

 私は部隊のみんなから多大な称賛を浴びて、歓迎されました。


 こうして私は、戦場で生きていくことになったのです。

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