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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
98/98

販売①

 リーダーの腰に結ばれた縄に引かれ、

 手枷と首輪に猿轡までされた二人は、男たちに囲まれて村へ入った。


 盗賊が偽装した″廃村″は、離れて見た印象とはまるで違う。


 崩れて見えた家屋は、壁の内側に新しい板が打ち増され、

 割れた窓も同様に布で防いでいた。


 通りには、わざと壊したままの荷車や桶が転がされているが、

 その隙間には新しく踏み固められた靴跡と轍が何筋も走り。


 奥の建物から漂ってくる濃い生活臭と、かすかな血の匂いが、

 ここが″目的の場所″だとリーダー達に説明してきた。


 太り過ぎでハゲた中年の、黒いローブコート姿が珍しいのか、

 粗末な革鎧に古い武器を持った男たちが、次々と建物から出てくる。


 しかし、美しく若い二人を見つけると、

 ニヤけた顔で距離を保ちながら、取り囲むようについてきた。


 どいつも欲望まみれで目つきが悪く、

 視線は真っ先にミアに向き、次にリアを舐めるように全身を探り。


 ミアは猿轡越しに眉を吊り上げ、振りほどこうとしたが、

 手枷に繋がる縄がぴんと引っ張られ、首輪が光ると大人しくなる。


 リアは、どこか呆然とした顔のまま俯き、引かれるまま歩いていた。


 先を行く黒衣の背中は、いつも通りだが纏う雰囲気は違う。


 腰の少し下に手を当て、腹を突き出すような歩き方。

 顎を上げ、左右を見下ろして進む態度。


 二人へ手を伸ばそうとする男達がいても、露骨には止めず、

 商品を見せびらかすような、侮蔑混じりの暗い視線を向けるだけ。


 そして、後ろに続くミアとリアを振り返る時も、

 情を押し殺したような、穏やかで安心する眼差しを向けない。


 売り物を品定めするような、卑しく下卑た気持ち悪い視線。


 ミアは表情が凍りついたように消え、リアはそちらを見もしない。


 しかも、普段ほとんど喋らないリーダーが、やけに饒舌だった。


「見ろよ、この引き締まった腰」

「しかも人族にしちゃ、あり得ねえほどデカい胸とケツだ」

「これを、お前らは味わいたくねえか?」


 どの言葉も、男達がざわつくのを待って、煽るように続け。


「ああ、年を食っちゃあいるが、

 経験豊富な方が、色々と″無茶に″楽しめるもんだぞ」


 視線を集めると、ミアの鎖を持ち上げ、

 大きな乳房や、くびれた腰、張り出したお尻を強調させていく。


 猿轡の下で、ミアの歯がぎりりと鳴る。


「そっちのエルフのねーちゃんは、黙ってりゃ可愛いが……

 ああ、まあ……。その分、躾け甲斐ってのは、あるもんだな」


 ミアへ男達の視線を集めた後は、リアの顎を指先で持ち上げた。


 だが、目が死んだように冷え切っているのを見ると、

 すぐに指を引っ込めて、困り顔で、冗談を言うような顔を向けた。


「おいおい、ケチな神官にしちゃ、言うじゃねえか」


 周囲の男たちが、楽しそうに下卑た笑い声を上げた。


「お前たちも。女神さまに仕えてりゃ、いい事があるぞ」


 リーダーの女神という言葉に、周りの男達は一斉に笑い出し、

 神官も一緒に、肩を揺らして笑ってみせる。


 あまりの“ハマり”っぷりと饒舌に、

 ミアとリアだけは、焦った顔で目だけで会話してしまう。


 やがて、村の中央にある大きな村長宅へ案内され。

 中へ入った瞬間、空気が変わった。


 外よりさらに濃い人の息づかい。酒、煙草、脂っこい食べ物の匂い。


 扉が開かれ、通された部屋の床には毛皮が敷き詰められ、

 壁には揃っていない武具や装飾品。奥の一段高い場所に豪華な椅子。


 その椅子に座っているのが、この一帯を仕切るボスらしい。


 四十代半ばほどの男。分厚い首と太い腕に対して腹は突き出て、

 短く刈り込んだ黒髪に無精ひげ、指にはいくつもの指輪。


 首には幾重にも鎖。革のベストの下から刺青が覗き、

 片目の下には古い傷跡が走る。


 片手には、飲みかけのジョッキ。

 

 残った手は、巨大な両手斧の斧筋を床につけ、

 柄を女の肌を愛でるように触れていた。


 その横には、痩せすぎの不気味な男が立つ。


 魔法使い然とした灰色のローブ、擦り切れた帽子。

 目の下に不健康そうな隈。


 黄色がかった瞳が、常に周囲を値踏みするように動き、

 杖の先端を黒衣の男へ向けて、嬉しそうに詠唱を始めた。


 一緒に来た男達は、無言で、笑みだけを湛えて壁際に並んでいく。


 リーダーは真っ直ぐ前に進み、奴隷達も一緒について行った。


「ドンッ」


 周りと違う真新しい毛皮の上に、リーダーの足がのる。


 ボスが斧を持ち上げて軽く床を小突き、

 ニヤついていた男達から笑顔が消え、魔法使いも詠唱を止めた。


 だが、笑顔のリーダーは縄を軽く引いて、奴隷を前に押し出す。


「上の人ってのは、あんたか?」


 声の調子は完全に「知り合い」だった。


 ボスはジョッキから酒を一口含み、

 頭も下げない黒衣の男を、上から下までゆっくり眺める。


「……あ゛ァ? そのツラ、見たことねえな?」


「お前であっているな。ちょっと事情があってよ。

 カネを俺に、寄進する気はねぇか?」


 リーダーが笑っているのは口元だけ、

 繋ぐ縄を更に強く引き、二人を自分より一歩前へ出させた。


 ボスの目が露骨に色を変え、

 酒気を帯びた息が大きく吐き出されて空気が濁る。


 ボスはまずミアを舐めるように見た。


 肩までの金髪、浅黒い肌、鍛えられた身体に似合わない巨大な胸。


「人族にしちゃ、なかなか使えそうな発情したメス犬だな」


 次に視線はリアへ移る。


 腰まで届く銀髪、尖った耳、白い肌、冷たい瞳と魅力的な肢体。


 猿轡がその美貌に妙な色気を落としている。


「エルフ、か。こりゃまた……エロい猫を揃えたな」


 舌なめずりしたくなる視線を、ボスは隠そうともしない。


 ミアの肩がぴくりと跳ね、リアの睫毛が微かに震え、

 リーダーは、その反応に満足げな笑みを浮かべる。


「どうだ。いい女だろ? 女神様が信心深い俺に施しを与えてきてな。

 今度は俺が、この辺にいるお前らに施してやろうって来たぞ」


「……で、いくらだ?」


 ボスは相手の尊大で不躾な態度を無視して、優しく話を先へ進め。


 リーダーは大げさに腕を組み、悩んだように目をつぶる。


「そうだな……アイツラにも言ったが……」


 周りの視線が悩んでいるリーダーに集まっていき、

 雑談の声さえ聞こえなくなった。


 リーダーはゆっくりと目を開け、嬉しそうに口角を上げていく。


「よしっ。まとめて金貨五百だ!」


 そこ言葉を聞いて周りがざわめく。


「一枚で高級娼婦だろ?」「いい女だけどねえよな」

「百枚もあれば、購入も可能って聞くぜ」「俺達じゃあ無理だなぁあ」


 いくら高級奴隷や娼婦だといっても、

 あり得ない程の高い価値をふっかけるリーダー。


「……ハァァァ!?」


 室内が、一瞬で殺伐とした刺々しい空気になり、

 ボスの顔が露骨に歪み、周囲の手下たちもざわめいた。


 だが、その瞬間――ミアとリアの目に、わずかな希望が差し込んだ。


「おい、黒豚。連中から、さっきの話は聞いてるんだが?」


「アハハハ。見りゃ分かんだろ?

 あんなゴミに払えるような、二匹じゃねえんだよ!!」


 リーダーはミアの肩を乱暴に掴み、乳房や腰のくびれを見せる。


 猿轡越しに、ミアの呼吸が荒くなった。


 続いてリアの腰まで続く銀髪を持ち上げ、流すように落とす。


「初物のエルフは高い――だが、アイツラよりだいぶ安いぞ!」

「あ゛ァあ? おめぇ。殺されてえようだな」


 ボスが斧を床へ叩きつけると、鈍い衝撃が部屋全体を揺らし、

 周囲に並ぶ男たちが、腰の武器へ一斉に手を伸ばした。



 販売①

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