販売①
リーダーの腰に結ばれた縄に引かれ、
手枷と首輪に猿轡までされた二人は、男たちに囲まれて村へ入った。
盗賊が偽装した″廃村″は、離れて見た印象とはまるで違う。
崩れて見えた家屋は、壁の内側に新しい板が打ち増され、
割れた窓も同様に布で防いでいた。
通りには、わざと壊したままの荷車や桶が転がされているが、
その隙間には新しく踏み固められた靴跡と轍が何筋も走り。
奥の建物から漂ってくる濃い生活臭と、かすかな血の匂いが、
ここが″目的の場所″だとリーダー達に説明してきた。
太り過ぎでハゲた中年の、黒いローブコート姿が珍しいのか、
粗末な革鎧に古い武器を持った男たちが、次々と建物から出てくる。
しかし、美しく若い二人を見つけると、
ニヤけた顔で距離を保ちながら、取り囲むようについてきた。
どいつも欲望まみれで目つきが悪く、
視線は真っ先にミアに向き、次にリアを舐めるように全身を探り。
ミアは猿轡越しに眉を吊り上げ、振りほどこうとしたが、
手枷に繋がる縄がぴんと引っ張られ、首輪が光ると大人しくなる。
リアは、どこか呆然とした顔のまま俯き、引かれるまま歩いていた。
先を行く黒衣の背中は、いつも通りだが纏う雰囲気は違う。
腰の少し下に手を当て、腹を突き出すような歩き方。
顎を上げ、左右を見下ろして進む態度。
二人へ手を伸ばそうとする男達がいても、露骨には止めず、
商品を見せびらかすような、侮蔑混じりの暗い視線を向けるだけ。
そして、後ろに続くミアとリアを振り返る時も、
情を押し殺したような、穏やかで安心する眼差しを向けない。
売り物を品定めするような、卑しく下卑た気持ち悪い視線。
ミアは表情が凍りついたように消え、リアはそちらを見もしない。
しかも、普段ほとんど喋らないリーダーが、やけに饒舌だった。
「見ろよ、この引き締まった腰」
「しかも人族にしちゃ、あり得ねえほどデカい胸とケツだ」
「これを、お前らは味わいたくねえか?」
どの言葉も、男達がざわつくのを待って、煽るように続け。
「ああ、年を食っちゃあいるが、
経験豊富な方が、色々と″無茶に″楽しめるもんだぞ」
視線を集めると、ミアの鎖を持ち上げ、
大きな乳房や、くびれた腰、張り出したお尻を強調させていく。
猿轡の下で、ミアの歯がぎりりと鳴る。
「そっちのエルフのねーちゃんは、黙ってりゃ可愛いが……
ああ、まあ……。その分、躾け甲斐ってのは、あるもんだな」
ミアへ男達の視線を集めた後は、リアの顎を指先で持ち上げた。
だが、目が死んだように冷え切っているのを見ると、
すぐに指を引っ込めて、困り顔で、冗談を言うような顔を向けた。
「おいおい、ケチな神官にしちゃ、言うじゃねえか」
周囲の男たちが、楽しそうに下卑た笑い声を上げた。
「お前たちも。女神さまに仕えてりゃ、いい事があるぞ」
リーダーの女神という言葉に、周りの男達は一斉に笑い出し、
神官も一緒に、肩を揺らして笑ってみせる。
あまりの“ハマり”っぷりと饒舌に、
ミアとリアだけは、焦った顔で目だけで会話してしまう。
やがて、村の中央にある大きな村長宅へ案内され。
中へ入った瞬間、空気が変わった。
外よりさらに濃い人の息づかい。酒、煙草、脂っこい食べ物の匂い。
扉が開かれ、通された部屋の床には毛皮が敷き詰められ、
壁には揃っていない武具や装飾品。奥の一段高い場所に豪華な椅子。
その椅子に座っているのが、この一帯を仕切る男らしい。
四十代半ばほどの男。分厚い首と太い腕に対して腹は突き出て、
短く刈り込んだ黒髪に無精ひげ、指にはいくつもの指輪。
首には幾重にも鎖。革のベストの下から刺青が覗き、
片目の下には古い傷跡が走る。
片手には、飲みかけのジョッキ。
残った手は、巨大な両手斧の斧筋を床につけ、
柄を女の肌を愛でるように触れていた。
その横には、痩せすぎの不気味な男が立つ。
魔法使い然とした灰色のローブ、擦り切れた帽子。
目の下に不健康そうな隈。
黄色がかった瞳が、常に周囲を値踏みするように動き、
杖の先端を黒衣の男へ向けて、嬉しそうに詠唱を始めた。
一緒に来た男達は、無言で、笑みだけを湛えて壁際に並んでいく。
リーダーは真っ直ぐ前に進み、奴隷達も一緒について行った。
「ドンッ」
周りと違う真新しい毛皮の上に、リーダーの足がのる。
ボスが斧を持ち上げて軽く床を小突き、
ニヤついていた男達から笑顔が消え、魔法使いも詠唱を止めた。
だが、笑顔のリーダーは縄を軽く引いて、奴隷を前に押し出す。
「上の人ってのは、あんたか?」
声の調子は完全に「知り合い」だった。
ボスはジョッキから酒を一口含み、
頭も下げない黒衣の男を、上から下までゆっくり眺める。
「……あ゛ァ? そのツラ、見たことねえな?」
「お前であっているな。ちょっと事情があってよ。
カネを俺に、寄進する気はねぇか?」
リーダーが笑っているのは口元だけ、
繋ぐ縄を更に強く引き、二人を自分より一歩前へ出させた。
ボスの目が露骨に色を変え、
酒気を帯びた息が大きく吐き出されて空気が濁る。
ボスはまずミアを舐めるように見た。
肩までの金髪、浅黒い肌、鍛えられた身体に似合わない巨大な胸。
「人族にしちゃ、なかなか使えそうな発情したメス犬だな」
次に視線はリアへ移る。
腰まで届く銀髪、尖った耳、白い肌、冷たい瞳と魅力的な肢体。
猿轡がその美貌に妙な色気を落としている。
「エルフ、か。こりゃまた……エロい猫を揃えたな」
舌なめずりしたくなる視線を、ボスは隠そうともしない。
ミアの肩がぴくりと跳ね、リアの睫毛が微かに震え、
リーダーは、その反応に満足げな笑みを浮かべる。
「どうだ。いい女だろ? 女神様が信心深い俺に施しを与えてきてな。
今度は俺が、この辺にいるお前らに施してやろうって来たぞ」
「……で、いくらだ?」
ボスは相手の尊大で不躾な態度を無視して、優しく話を先へ進め。
リーダーは大げさに腕を組み、悩んだように目をつぶる。
「そうだな……アイツラにも言ったが……」
周りの視線が悩んでいるリーダーに集まっていき、
雑談の声さえ聞こえなくなった。
リーダーはゆっくりと目を開け、嬉しそうに口角を上げていく。
「よしっ。まとめて金貨五百だ!」
そこ言葉を聞いて周りがざわめく。
「一枚で高級娼婦だろ?」「いい女だけどねえよな」
「百枚もあれば、購入も可能って聞くぜ」「俺達じゃあ無理だなぁあ」
いくら高級奴隷や娼婦だといっても、
あり得ない程の高い価値をふっかけるリーダー。
「……ハァァァ!?」
室内が、一瞬で殺伐とした刺々しい空気になり、
ボスの顔が露骨に歪み、周囲の手下たちもざわめいた。
だが、その瞬間――ミアとリアの目に、わずかな希望が差し込んだ。
「おい、黒豚。連中から、さっきの話は聞いてるんだが?」
「アハハハ。見りゃ分かんだろ?
あんなゴミに払えるような、二匹じゃねえんだよ!!」
リーダーはミアの肩を乱暴に掴み、乳房や腰のくびれを見せる。
猿轡越しに、ミアの呼吸が荒くなった。
続いてリアの腰まで続く銀髪を持ち上げ、流すように落とす。
「初物のエルフは高い――だが、アイツラよりだいぶ安いぞ!」
「あ゛ァあ? おめぇ。殺されてえようだな」
ボスが斧を床へ叩きつけると、鈍い衝撃が部屋全体を揺らし、
周囲に並ぶ男たちが、腰の武器へ一斉に手を伸ばした。
販売①




