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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
96/99

奴隷①

 リーダーが二人の名を呼んだ、その瞬間だった。


 分厚い腕が稲妻のごとくミアへと伸びる。


 肩と腰を同時に捉えるや、抗う機会すら与えられず、

 その背中は地面へと叩きつけられた。


「きゃっ――」


 肩までの金髪が、ばさりと散る。


「……リーダー?」


 ミアの頬が一瞬で赤くなる。


 森の中で押し倒され、好きな男に馬乗りで見下ろされる。


 こんな場所なのに、浅黒い胸元が淡い期待のように大きく上下した。


 だが、その期待は――

 感情のない手つきで首輪を嵌められた時に霧散した。


 今の情景を見ても、状況が理解出来ないリア。


 エルフですら反応しきれぬ速度で男に間合いを詰められ、

 細い身体を一気に押し倒される。


 長い銀髪が地面に広がり、露わになった白い喉元へ、

 同じく首輪がぴたりと重なった。


「っ……!」


 リアの瞳が驚愕に揺れ、反射的に魔力を呼び起こそうとした。


 それよりも早く――黒い首輪が淡く光り、魔力の流れを遮った。


 命令の優先。反抗の拒絶。魔力の遮断。


 男は至近距離から二人を見下ろす。


 冷静で、揺れない黒い瞳。


 二人に首輪を嵌め終えた男は、荷袋から何かを取り出す。


 手に握られていたのは、手枷と丈夫な縄、そして口を塞ぐための布。


 質素だが実用一点張りの物で、

 どこかで使われていたような、擦れや傷みまで残っている。


「そういうこと、ですか?」


 リアが不満そうな顔をして男を睨む。


 だが、睨まれた男は淡々と仕事を続けた。


「……リーダー? やる前に、一言ほしかったです」


 説明をしない男に、リアは聞くことを諦めたらしく、

 邪魔にならないように身体の位置を変えた。


「びっくりさせんなっての……っ。……

 でも、村の連中に怪しまれないように、ってことか?」


 ミアは疑いを滲ませながらも、頬を赤くしたまま渋々と従った。


 リーダーは、いつものように何も答えない。


 ミアの両手首を前へ出させ、手枷で固定する動きは驚くほど自然。


 リアも同様にされ、白い手首に手枷が食い込み、

 そこに刻まれた小さな精霊文字が、微かにきらりと光った。


「これ、スキル封じなのか?」


 ミアが疑うように睨むと、男は真剣な目で見返す。


「本気ですか、リーダー」


 リアは驚いた顔を向けたが、男は応えることもなく、

 洗ってあった布切れが口を塞ぎ、頭の後ろで手際よく結ばれていく。


 ミアは視線で問いかけたが、

 リーダーの眼差しが真っ直ぐに返ってくるだけ。


 観念したように口を閉じ、猿轡が締まるたびに布が食い込んだ。


 リアも同じく猿轡を噛まされ、白い肌に布が妙に映える。


 二人を枷で縛り、森の穏やかな匂いの中、男は服装を整え直す。


 襟元を乱暴に開き、肩口をわずかにずり下げ、

 腰のベルトも一段緩め、だらしなく腹を前へ飛び出させた。


 男の、もともと脂ぎったイヤらしい顔に、

 口角を吊り上げた、ふてぶてしい笑みが浮かぶ。


 顎を突き出し、目を細め、周囲を値踏みするような視線へ変える。


 それだけで「悪徳神官」が出来上がった。


 さっきまで頼りになる、無口で高潔な男は、

 そこに「お金と女にしか興味のない俗物」として生まれ変わる。


 地面に倒され、手首を縛られ、猿轡まで噛まされたミアは、

 その姿を疑うように見上げ。


 同じ格好のリアは、呆れたように小さく息を吐いた。


 男は、二人から武器、防具、装飾品に、靴までを回収し、

 大きな荷袋へと押し込んでいく。


 残ったのは、最低限の衣類だけ。


 ミアは淡いベージュの薄手の長袖インナーと、

 同色の太ももまでのスパッツ状インナーパンツ。


 リアは淡いベージュのノースリーブインナーと、

 茶色のフィットしたショートパンツ。


 男は二人の手枷から伸びる鎖へ縄を結び、

 その先を腰のベルトへ巻き付け、ミアの肩をつま先で蹴る。


 ミアは文句を言いながらも、膝を立てて飛ぶように立ち上がり、

 リアは何も言わずに起き上がり、身体全体を使って立ち上がった。


 縄がぴんと張られ、黒い首輪と手枷、土や草で汚れた衣類が、

 二人をさらに「商品」めいた姿へ追い込んでいく。


 男は一度だけ、二人の足元から頭のてっぺんまでを見上げ、

 いつものように口には何も出さない。


 だが、目線がいやらしく、頬を上げて満足そうな笑みを浮かべる。


 ミアやリアは視線で問いかけたが、男は背を向けて歩き出し、

 縄に引かれた二人も、引きずられるようについていった。



 ◇


 木々が途切れ、偽装された廃村の外周が近づくほどに、

 ″廃村″の粗が目につく。


 あえて崩したように見せた壁。直していない屋根。

 わざとらしく放置された壊れた道具。

 だが、妙に新しい足跡と、炭の新しい篝火の跡。


 村を囲う低い木柵の一角には粗雑な見張り台が設けられ、

 そこに、ぼろ布をまとった二人の男が座り込んでいた。


 一人は痩せぎすで、油汚れた髪を後ろで結わえ、

 もう一人は筋肉質で、片目に傷跡が走る。


 どちらも、田舎の村民には見えない、

 腰には短剣、足元には加工された太い棒などを見せている。


 ミアは、目だけで即座に″目的の男達″と分類する。

 リアも、彼らの周囲に漂う陰惨な匂いを嗅ぎ取っていた。


 笑い声、罵り声、泣き声が染みついたような空気。

 近づく度に、そこに血の気配が混じる。


 リーダーは、道を踏み鳴らすような足音をさせて近づき、

 若い奴隷を繋いだ紐を誇るように、大きく手を振っていた。



 奴隷①

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