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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
95/98

馬車②

 リアの真剣な目が二人に向けられた。


「少し離れた場所に、人が踏み荒らしたような場所が有ります」


「あたしも、魔物だけの仕業じゃないとは思ってたけどさ……

 オーガとかトロルがいるよな? いただろ? いたよな?」


「……魔力の残滓は薄いですが……人以外の気配は有りません」


 リーダーは周囲を一度見回し、視線を戻すと三人の名を呼んだ。


 ミアとリアが頷き、馬も不安そうに鼻を鳴らす。


 その瞬間、突風が巻き起こり、下草が一気に刈り取られ、

 壊れた馬車の脇に広めの空き地が現れる。


 普通なら音だけで馬は逃げ出すはずだが、

 仲間は落ち着いたまま、ゆっくりとその場所へ歩み入った。


「お願い。守って」


 リアが両手をわずかに広げると、指先から緑色の微光がこぼれ落ち。


 地面に触れると葉や木となって広がり、

 壊れた馬車や瓦礫と、仲間の輪郭を曖昧にしていった。


 ◇


 全てが草むらと見分けがつかなくなり、

 誰が見ても、「森の一部」と「土の山」だけが有るように見え。


「これで、しばらくは大丈夫でしょう」


 少し疲れたように、リアが小さく息を吐く。


「すぐに戻るから、ここで大人しく待っているんだよ」


 ミアは、見えづらくなった仲間に優しく声を掛け、

 男は仲間へ障壁を張ると、森の奥へ歩き出した。


 三人が森へ入っていく場所は、下草が生い茂り、

 陽光は枝葉に遮られて、まだ昼前だというのに薄暗く。


 人が分け入った痕跡など何も無い。


 ミアが先行し、双剣の柄に手を添えたまま静かに足を運ぶ。


 リアは中央を進み、ときおりしゃがんで足跡や折れた枝を確かめ、

 可能な限り痕跡と記憶を整えていく。


「……これ」


 草に隠れていた地面を指差した。


 大きい足跡らしき窪みと、小さく薄いのは明らかにブーツの形。


「人間と、何かの混成でしょうか? 足取りは整然としていますが、

 獣の群れにしては、ばらつきが少ないです」


 リアは困ったように森の奥を睨み、ちらりとリーダーを見上げる。


「リーダー、これ……魔物の群れじゃないぞ」


 ミアは何処か興奮した声で話していた。


 リーダーは何も言わずに、含みのある笑みを浮かべるだけ。


 次々と見つける痕跡を確認する度に、二人の口数が減り、

 だんだんと広くなっていく獣道を、ひたすら先へ進む。


 風は弱くなり、湿った土と苔の匂いが濃くなり、

 枝葉が頭上すれすれをかすめ、時折ミアの革鎧に擦れる音がした。


 ◇


 膝辺りまで下草が生え、視界が悪く手入れされていない森を、

 周りに気付かれないように注意して屈んで進む。


 数時間が過ぎたような感覚が流れ。


 陽は少し傾き始めているはずだが、

 薄暗い森の中では変化はわずかにしか感じられない。


「……匂いが変わりました」


 リアが立ち止まり、長い睫毛が細かく震える。


 残りの二人にも、生活の匂いを感じ取っていた。


 煙、乾いた土、古い木材……そして、隠しきれていない血の匂い。


「村?」


 ミアが前方を覗き込むように、目を細めた。


 そこには、森の開けた広場があり、

 低い柵の向こうに崩れかけた屋根や傾いた壁が見える。


 遠目には、完全に打ち捨てられた″廃村″だが、

 近くで鳥の声がしない。虫の音も急に薄くなっていた。


「ああ、やっぱりな……」


 ミアは双剣の柄を、さらに強く握り直す。


「廃村に見せかけていますが、明らかに違います」


 リアが冷静に続ける。


「じゃあ、誰かいるよな」


 ミアが吐き捨てるように呟く。


 リーダーは二人の背後へ回り、村と思しき空間をじっと見つめ、

 含みを持った笑みを浮かべ、唐突に二人の名を呼ぶ。


 二人にとって、いつも通りの重く低い声。


 だが、微かに何かの響きが混じっていた事に気づかない。


「ん? なに――」


 ミアが、気になったように振り返ると、

 振り返った瞬間、視界が不自然に跳ね上がり。


 慌てたリアも、身を沈めて周りを警戒していた。



 馬車②

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