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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
94/100

馬車①

 三人の乗った馬車は街道を外れ、荒れた土の道を進むにつれて、

 周囲の景色は徐々に薄暗さを増していった。


 さっきまで続いていた畑や、手入れの行き届いた雑木林に、

 ところどころに石垣で囲まれた小さな農家。


 背の低い雑草の間には生活の匂いが漂い、

 色あせた野花がわずかに彩りを添えていた。


 だが今は、日差しが差し込むことも少なく。


 土を踏む摩擦音と、車輪や馬蹄が石を弾く乾いた破裂音だけが響き、

 濃い緑の匂いが一帯を包んでいた。


「リーダー。この辺まで来ると、街の喧騒が嘘みたい」


 ミアが荷台の縁に腰かけ、足をぶらぶらさせながら言う。


「空気も澄んでいて、精霊もたくさんいます。

 あの澱んだ場所と比べれば、とても気持ちいいですね」


 リアは荷台から、濃い緑の景色と隙間から差し込む光を見ていた。


 さらに森の奥へ入ると、道の窪みや転がる石も大きくなり、

 ゆるやかに左へ曲がっていき、その先は見えない場所に近づく。


 その先で何かを感じ取ったのか、馬の耳が忙しなく動き、

 リーダーがユックリと手を動かし、馬車の速度が落ちていく。


 それを察した二人も、静かに周りを警戒していた。


 その時だった。


「……あれ」


 ミアが目を細め、道の片側に大きな影を見つけ。

 近づくにつれて、その影が壊された馬車だと気づく。


 荷台はへしゃげ、片方の車輪は軸ごと折れて地面へめり込み、

 木板はところどころ裂け、破損した部材が道端に散らばる。


 鋭利な何かで抉られたような深い溝が幾筋も走り、

 さらに馬車や道にも、血の乾いた染みがべったりと残っていた。


「……はあ、嫌になる」


 ミアは即座に荷台から飛び降り、

 双剣の柄へ手をかけたまま周囲へ目を走らせる。


 リアも軽やかに舞い降り、

 壊れた馬車へ近づくと小声で何かを口ずさんだ。


 馬車を停めたリーダーは、御者台からゆっくりと降り、

 転がる破片や裂けた木板を確かめていく。


 男が調べるうちに何かに気づいたのか、

 言葉を発さず、二人へ視線を送った。


 即座に反応する二人。


 ミアは壊れた馬車が進むはずだった道の先へ。

 リアは馬車の倒れた側の森へ、音もなく進んでいく。


 男は周囲に人影がないことを知っていたのか、

 邪魔な破片を持ち上げて、道の外へと投げていた。


 ◇


 道を塞ぐものがなくなった頃、二人が戻ってくる。


「人の姿も、気配さえありません」


 森の奥まで進んでいたリアが、帰ってくると冷静な声で伝える。


「あっちもいなかった」


 姿が見えない程に遠くから帰ってきたミアも、苛立った顔で答えた。


 転がっていたのは破損した荷物など、値のつかないものばかり、

 しかし、血の跡は確かにあるのに、その死体や痕跡は見当たらない。


「馬もいない」


 ミアが、馬とつないでいた革紐を指さす。


「刃物じゃないな。もっと……力ずくで裂いた感じ?」


 今度はしゃがみ込み、地面の草をかき分ける。


「二足歩行……オーガか、トロル……か?」


 湿った土の上に、大きな足跡が残っているのを見つけた。


 だが、男は何も言わず、静かになった森を見続ける。


 リアが、リーダーが見ている森の異変を感じ取った。


 残っているのは森の傷跡、何かを引きずった形跡、大きな足跡。

 血の飛沫が点々と続き、しばらく先で途切れている。


「痕跡は生々しいのに、何も残っていません」


 周囲へそっと手を差し伸べ、声を掛けると、

 指先に、かすかなざわめきが触れてきた。


「リーダー。少し、待って下さい」


 リアは一歩下がり、印を結ぶように指を組むと目を閉じた。


「……さあ、お願い。見せて」


 リアの足元がわずかに揺れ、風もないのに銀髪が持ち上がり、

 周囲に透明な輪のような揺らぎが生まれ、円状に広がっていく。


 それ自体は見えないが、何かが通り過ぎていく感触を生み、

 細かな塵や花粉が渦に巻かれるように流れて、ふっと散った。


 エメラルドの虹彩に、淡い像が映り込む。


 ミアは、その横顔を見ながら双剣の柄を握り直し、

 男は、周囲の気配を量るように視線を巡らせた。


 二人は息を殺し、一人は人の気配が消える。


 森は三人に気付くことは無くなり、虫の囁きさえ戻ってきた。


 ◇


 静かな森が突然ざわめき、リアの長い睫毛が一瞬だけ震え。


「……見えました」


 呟く声は、いつもより少し硬く、

 瞳が現実へ戻って、虹彩に映っていた淡い像が薄れていった。



 馬車①

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