宿屋②
リーダーは二人を無視するように窓へ向かった。
太い首の下に盛り上がった肩。巨大な背中や脂肪で垂れた乳房。
腰の周りには、肉と脂肪が一体化したような重い輪がまとわりつき、
その先も太った下半身が続く。
窓の外は、まだ朝靄の残る街並みが広がり、
煤けた屋根と石畳。煙突からは薄い煙が何本も立ち上っていた。
「ミア、絡まっていますよ。そんなに勢いよく引っ張ったら――」
「あ、ホント……リーダーも、気付いたら教えてよ」
男の背後から、衣擦れの音と楽しそうな話し声が聞こえる。
ミアとリアがショーツやブラをつけ、
キャミソールにシャツやレギンスを重ねていく。
ミアが革鎧のバックルを締め、金具を小気味よく鳴らし、
リアが長い髪をいったん前へ流してから後ろで纏める。
男は黙って窓の外を見続けていたが、
二人が着替え始めると、窓の中央へ身体を寄せていった。
「リア、そのベルト、もうちょい上だよ。もっと上げて……」
「この位置でいいんです。だから、ちょっとやめて。ダメったら」
男の身体が、かすかに揺れた。
「……ですが、リーダー。どっちがいいですか?」
「こっちだろ?」「これじゃあ、下品ですよね。リーダー?」
リアは誘うように声を柔らかくしながら、
外を見続けている男が、気になる姿に変わっていく。
二人の着る布と革の匂い、剣や弓の匂いが部屋に満ち、
さっきまで漂っていた酒と残り香は、それらに押し流されていった。
しばらくすると、ミアの明るい声とリアの落ち着いた声が聞こえ、
男が振り返ると、そこには戦士の顔をした二人が立っていた。
「リーダー、もう着替えていいよー」
ミアは長袖シャツやレギンスの上から、赤い装備を着けている。
上半身はボディコルセットで締め付け、レザーベストを羽織り、
腰から下は動きやすいフィットしたロングパンツ。
コルセットで一段と目立つ胸とくびれた腰、
お尻から脚へと続くラインは、動く度に表面に浮かんでいた。
武器は、腰のベルトに双剣の赤い鞘が左右に一本ずつ並び。
膝下の編み上げロングブーツの内側には短剣と、
各所の金属装飾が朝の光を受けて鈍く光っていた。
「私も、終わりました」
リアは深い森色の、膝上あたりまであるチュニックを着ている。
細い腹部を囲う太いベルトで、裾を引き上げているので、
真っ白い太ももの半分以上が外に出ていた。
胸にはチェストガード。腰のベルトにダガーとショートロッド。
背中には矢筒とロングボウ。足元は布のショートブーツ。
各所には綺麗な刺しゅうが施されて、
それらもまた朝の光を受けて淡く映えていた。
ミアがにやりと笑って腰に手を当て、
リアは少し恥ずかしそうに、チュニックの裾へ指先を添える。
「ね、どう? リーダーの好みでしょ?」「どうでしょうか?」
リーダーは二人を見てから静かに視線を逸らし、
ミアとリアは顔を見合わせて、満足そうに頬を緩めた。
「やったよ、リア。似合うって!」
ミアはこぶしを握り、
リアも、普段はあまり見せないほど、柔らかな笑みを浮かべていた。
「あのぉ~、リーダー? あとで細かく見てもらえますか?」
「こっちも見てほしいんだけど?」
そんな二人に、男は静かに頷いてから着替え始める。
肌着と下穿きを身に付け、
その上から布のパンツとロングチュニックを通す。
なぜ太った男の着替えを、二人が食い入るように見ているのか。
男はそれを意にも介さず、
真っ黒なローブコートと黒革のロングブーツを身に着けていった。
最後に大きな荷袋を背負い、手には豪奢な錫杖を握る。
すべての装備を整え終えると、深く一度息を吐き、
腹が大きく上下し、そのたびにコートの前がわずかに揺れた。
「いつも、カッコいいよ。リーダー」
ミアが少し真面目な声で言った。
「ええ。素晴らしい姿です」
リアも合わせるように頷き、
二人の瞳には、尊敬というよりも狂った愛情が宿っていた。
男が何かを短く告げると、ミアが笑って手を叩く。
「了解! 朝ご飯に行こっか」
「できれば作りたいのですが……
そんな場所も、時間もないですよね。すみません」
三人が狭い部屋を順に出ると、リアとミアは自然な仕草で、
リーダーを挟むように分かれ、一歩後ろに並んだ。
黒い法衣と太りすぎた体躯を合わせれば、
年老いた「悪徳神官」という言葉が自然と頭に浮かぶような姿。
廊下が広くなり食堂に近づくにつれ、
若く美しい女たちを堂々と左右に従えて歩く。
お金持ちで性欲旺盛な「神官崩れの奴隷商」と、
その「借金奴隷」――そんな不穏で不快な噂が周囲で囁かれていた。
宿屋②




