憧れ④
ジジジィイ。ジジジィイ。
真夏の陽射しが容赦なく肌を焼いていく。
休まなければと思いつつも、「そんな暇はない」と自分に言い聞かせ、
「これの先に」と希望を胸に身体を動かし続けている。
日差しが弱くなり、蝉の鳴き声が落ち着いてきたようにも思えたが、
それは時間が過ぎている事だと気づいてしまうと、
何も進んでいないと焦る気持ちを抑えながら、荒れた畑を耕し続けた。
──お父さんからの言葉。
「気持ちはわかった。なら、明日来なさい」
そう言われてからの一晩は、眠れずに過ごした。
夜が明ける頃、もう一度家を訪れると、案内されたのはこの場所だった。
一目でわかった。
十年以上放置され、荒れ果てた広大な畑の残骸。
「ここを自由に使っていい。ただし、あとは自分で考えなさい」
「あの……」
かんがえろと言われても、意味がわからない拓海は、
すがるような声で聞いてしまっていた。
「君は、少し勘違いしているかもしれない。
道を用意することはできても、進むのは、あくまでも君、自身だ。
もちろん、ふたりを祝福したい気持ちはある。だが君は美琴を傷つけた。
それを君が一生背負うことになる──それを忘れないでくれ」
その言葉の意味は、理解したつもりでいた。
だけど、美琴に無理難題を突きつけられ、お父さんにも考えろと言われ、
直接言われていないが「諦めてほしい」と、
言われているような気がしてしまう。
拓海は、あれだけ諦めたくないと願ったのに、
それが美琴の本音ではないかと、心が折れそうになっていく。
またもや、現実を突きつけられた気がしたが、
それでも「諦めない」と、ただひたすらに畑を耕し続ける。
──あと一年、いや。まだ…ずっと、もっと、まだまだ時間はある。
広すぎるこの土地を、再び畑として蘇らせるには何年かかるだろうか。
雑草を抜き、石をどかし、虫や動物たちを追い出し、
そして、肥料を入れて土を耕し、やわらかく整えていく。
気が遠くなりそうだったが、絶対に諦めるわけにはいかなかった。
「どうすれば……」「言っただろ? 自分で考えなさい」
もう一度お父さんに聞きに行ったが、
その言葉が答えなのだと、厳しい顔で追い返される。
ネットで聞くこともできた。
でも、それは彼女のSNSと同じ結果になりそうで、
どうしても気が進まない。
誹謗中傷に、あり得ない情報に、嘘と虚飾。
調べてみれば、家庭菜園程度の手順は載っている。
もちろん、それだけでは、思うようにはいかない。
根本的な物が足りないことに、この時の拓海は気付いていなかった。
そんな彼はすがるように、
何度もお父さんのもとへ行ったが、答えは変わらなかった。
──そんなある日、違う人が訪ねてきた。
「拓海くん?」
「お母さん……。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
やっと声をかけてもらえて、思わず泣きそうになった。
けれど、堪えて、深く頭を下げる。
「そのことはもういいの。……ちょっと独り言を聞いてくれる?」
「はい」
「美琴のこと、よく思い出して。……それ以上は言えないの。
おじいちゃんに口止めされちゃってね。……応援してるわよ、拓海くん」
言葉を残し、すぐに家に戻っていったお母さんの背中を見送る。
その背を見つめながら、彼女との思い出を、必死に掘り起こす。
──全部、自分が悪かった。
そう思うと、また涙がこみ上げてくる。
けれど、彼女の姿は今も鮮明で、色褪せることはなかった。
その一つひとつを胸の中でなぞっていく。
──あっ……
お母さんの言葉の意味に気づき、思わず駆け出した。
今ならわかる。当たり前のことなのに、なぜ最初から頼らなかったのか。
くだらないプライドと、いじけた言い訳を繰り返していた自分は、
結局、彼女のことをちゃんと見ていなかったのだと──
今さらながら、そんな自分に呆れてしまう。
憧れ④




