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クロスオーバー  作者: 連鎖
黄昏
88/98

憧れ④

 ジジジィイ。ジジジィイ。


 真夏の陽射しが容赦なく肌を焼いていく。


 休まなければと思いつつも、「そんな暇はない」と自分に言い聞かせ、

 「これの先に」と希望を胸に身体を動かし続けている。


 日差しが弱くなり、蝉の鳴き声が落ち着いてきたようにも思えたが、

 それは時間が過ぎている事だと気づいてしまうと、

 何も進んでいないと焦る気持ちを抑えながら、荒れた畑を耕し続けた。


 ──お父さんからの言葉。


「気持ちはわかった。なら、明日来なさい」


 そう言われてからの一晩は、眠れずに過ごした。

 夜が明ける頃、もう一度家を訪れると、案内されたのはこの場所だった。


 一目でわかった。

 十年以上放置され、荒れ果てた広大な畑の残骸。


「ここを自由に使っていい。ただし、あとは自分で考えなさい」

「あの……」


 かんがえろと言われても、意味がわからない拓海は、

 すがるような声で聞いてしまっていた。


「君は、少し勘違いしているかもしれない。

 道を用意することはできても、進むのは、あくまでも君、自身だ。

 もちろん、ふたりを祝福したい気持ちはある。だが君は美琴を傷つけた。

 それを君が一生背負うことになる──それを忘れないでくれ」


 その言葉の意味は、理解したつもりでいた。


 だけど、美琴に無理難題を突きつけられ、お父さんにも考えろと言われ、

 直接言われていないが「諦めてほしい」と、

 言われているような気がしてしまう。


 拓海は、あれだけ諦めたくないと願ったのに、

 それが美琴の本音ではないかと、心が折れそうになっていく。


 またもや、現実を突きつけられた気がしたが、

 それでも「諦めない」と、ただひたすらに畑を耕し続ける。


 ──あと一年、いや。まだ…ずっと、もっと、まだまだ時間はある。


 広すぎるこの土地を、再び畑として蘇らせるには何年かかるだろうか。

 雑草を抜き、石をどかし、虫や動物たちを追い出し、

 そして、肥料を入れて土を耕し、やわらかく整えていく。


 気が遠くなりそうだったが、絶対に諦めるわけにはいかなかった。


「どうすれば……」「言っただろ? 自分で考えなさい」


 もう一度お父さんに聞きに行ったが、

 その言葉が答えなのだと、厳しい顔で追い返される。


 ネットで聞くこともできた。


 でも、それは彼女のSNSと同じ結果になりそうで、

 どうしても気が進まない。


 誹謗中傷に、あり得ない情報に、嘘と虚飾。


 調べてみれば、家庭菜園程度の手順は載っている。

 もちろん、それだけでは、思うようにはいかない。


 根本的な物が足りないことに、この時の拓海は気付いていなかった。


 そんな彼はすがるように、

 何度もお父さんのもとへ行ったが、答えは変わらなかった。


 ──そんなある日、違う人が訪ねてきた。


「拓海くん?」

「お母さん……。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」


 やっと声をかけてもらえて、思わず泣きそうになった。

 けれど、堪えて、深く頭を下げる。


「そのことはもういいの。……ちょっと独り言を聞いてくれる?」

「はい」


「美琴のこと、よく思い出して。……それ以上は言えないの。

 おじいちゃんに口止めされちゃってね。……応援してるわよ、拓海くん」


 言葉を残し、すぐに家に戻っていったお母さんの背中を見送る。


 その背を見つめながら、彼女との思い出を、必死に掘り起こす。


 ──全部、自分が悪かった。

 そう思うと、また涙がこみ上げてくる。


 けれど、彼女の姿は今も鮮明で、色褪せることはなかった。

 その一つひとつを胸の中でなぞっていく。


 ──あっ……


 お母さんの言葉の意味に気づき、思わず駆け出した。


 今ならわかる。当たり前のことなのに、なぜ最初から頼らなかったのか。


 くだらないプライドと、いじけた言い訳を繰り返していた自分は、

 結局、彼女のことをちゃんと見ていなかったのだと──

 

 今さらながら、そんな自分に呆れてしまう。



 憧れ④

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