表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスオーバー  作者: 連鎖
黄昏
83/98

贖罪④

「うっ。うぅうぅ。ハアハア。うぅう。」


 拓海は、公園の片隅で、腹を抱えてうずくまっていた。


 胃の奥からせり上がる吐き気と、

 情けなさと、もうどうしようもない感情がぐちゃぐちゃに混ざり、

 ただ、そこに横になって寝ている事しか出来なかった。


「……キミ、大丈夫かい?」


 心配そうに、覗き込んでくる声。制服の男が、そっとしゃがみ込む。


 彼等が乗って来た車のけたたましいサイレンの音は収まり、

 赤色灯だけが回っている音が聞こえる気がした。


「う、うぅ……」「救急車、呼ぶかい?」


 そのすぐそばで、美琴には、もう一人の制服男が声をかけていた。


「彼、どうしたの?」「酔っ払って……転んだみたいです」


「こんな夜中に?通報があってスグに来たんだけどね。

 喧嘩してるって通報と、金髪の男がいたと聞いているんだが?」


「はぁ……まぁ、ちょっとムカついちゃって……

 私の髪が明るく見えたんじゃないですか?」


 背が高く、ふてぶてしく見えなくもない彼女だが、

 近くで見れば、手は華奢で、指も細くて長い。


 引き締まった手足には力強さも感じるが、

 鍛え上げられたボディービルダーという印象はない。


 けれど、喧嘩をしていたとすれば、色々と矛盾があった。


 暴力の痕跡は地面にうずくまっている男の身体にだけあって、

 美琴には何も無いし、彼女は何も語らない。


 拓海は、うめき声しか出せずに、真相を説明できる状態にはいない。


「女の子が、『やめろ!』って大声で叫んでいたって証言もあってね。

 本当に痴話喧嘩、ってことでいいのかな?」


「はぁあ。わかりました。スルスル。腕デスが……」


「うわ……この男が?」「全身、こんな感じですよ……確認しますか?」


「……いや、いい。はぁ……可哀想に」


 それまで拓海を「襲われた哀れな男」として見ていた制服男の目が、

 美琴の身体を見た途端に変わった。


 まるで、人が入れ替わったかのように——


「……虐待なら、訴えられるよ?」


「すみません…あそこに住んでまして……」


 美琴が指さしたのは、高級マンションの上層階。

 その一言で、男たちは察したのだろう。


 美しく若い女、美琴。みすぼらしい農作業着の男、拓海。


「えっ……」「おいおい……コイツが?」

「ここくらいしか、私の帰れる場所が無くて……すみません」


「両親の遺産が……とか、そんなんですよ……アハハハ」


 すべてを諦めたように笑う美琴に、彼等も同情するしかなかったらしく、

 制服の男たちは、うめく拓海を抱えて美琴の部屋へと運んだ。


「本当に……ここでいいのかい?」

「はい。ありがとうございます……あとは、ここで休ませておきます」


「……何かあったら、いつでも連絡して」


 部屋にはカーテンがなく、窓は壁一面に広がっていた。


 その向こうに見えるのは、

 冷たく、暗く、静かに瞬く光が、どこか遠い世界のようだった。


 その隅っこに、小さい公園が見えた。ほんのさっきまで拓海がいた場所。


 ——まるで、すべてが嘘だったかのように。


 美琴は携帯を耳に当て、どこか陽気に話していた。


「タカ…うん、大丈夫。病院?行ってない。アハハ、ホテルに置いてきた」


「ええ、うん。友達増えたし。浮気?

 アハハ、タカのためだし、ソレぐらいはいいでしょ?」


「うん……ごめん、そろそろ疲れたから、切っていい?」


「ダメ?えっと……あのバッグをプレゼント?

 アレは…いやぁ~あれ?気付いた?持ってるし、いらないよ。

 ……アハハハ。じゃあ、旅行でも行く?夏も終わるし」


「ああ、うん。でも明日は無理。

 朝から病院行くし、夜はパパが来るから……

 それじゃあ。今日は色々とありがとうね。うん、また今度」


 俺は、もう泣かないって決めていたのに、

 歪んでくる世界の中で、彼女の言葉が……頭から離れない。


「涙は……」



 贖罪④

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ