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クロスオーバー  作者: 連鎖
黄昏
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贖罪①

「ここ…」


 彼女が合格したと話していた大学の前に、俺は立っていた。


 もちろん、泥のついた農作業着の田舎者が、

 食料の納品でもないのに、こんな建物の中に入る事など出来ないし、

 大学の夏休み中なのだから、近づけるわけも無い。


 何かを探しているように、ただ歩いているだけで目をつけられ、

 少しでも対応をあやまれば、都会の洗礼を受けるのは目に見えていた。


 ――それがどんなものかは、昔の自分がすでに知っている。


 美琴…ごめん。


 拒絶された時に、すぐに諦めていればよかった。


 少し優しくされたくらいで舞い上がって、

 勝手な妄想で彼女の姿を歪めて、取り返しができない程に傷つけた。


 そんな優しい彼女に距離を置かれても、それでもなお突っ走って、

 結局こうして、ここに来てしまった。


 知り合いもいない、あてもない。

 この街で生きていく方法なんて、なにも持っていないのに。


 明日の収穫、畑、雑草、虫――


 現実を思い出そうとしても、

 気づけばただ呆然と、巨大な校舎を見上げていた。


 昔は、俺だって――。


 大学時代、一度はこの街に出てきて、

 自分では色々と「無理だ」とわかったはずだ。


 それでも今、こうして目の前に立ってしまえば、

 もう一度、その夢を見たくなってしまう。


 でも俺は、両親のことを言い訳にして田舎へ戻った。


「家を継がなきゃいけない」と口にしながら、

 心のどこかで「本気を出せば」と、くだらないプライドで生きてきた。


 美琴…君は、どこにいる?


 もしかしてこの大学じゃなかった?

 他の大学に転校? それとも海外へ留学していた?


 あの奔放さは、もしかして――海外の男と…今日も、君は…


 くだらない妄想が、次から次へと脳内に溢れてくる。


 そんな妄想をしている男が

 彼女が話してくれたことを思い出したかったのか、

 それとも、一生忘れないようにと心に刻みたかったのか、

 今では断片的になってしまった思いをメモに残す。


「住んでいる階は…」「とっても綺麗な…」「近くの公園で…」

「コンビニって…」「大学から歩くと…」「駅までは…」「散歩すると…」


 涙が止まらなかった。


 あんなにいろいろと話してくれたのに、

 俺はただ頷いてばかりで、彼女を笑わせた記憶すらない。


 それでも、美琴は――笑って、隣にいてくれた。


 その笑顔ばかりが、頭に浮かんで離れない。


 勝手な思い込みかもしれない。

 でも、言葉の断片を繋ぎ合わせて地図を眺めていると、

 まるで彼女に導かれているような場所に、辿り着けそうな気がした。


「明日の朝、帰るなら今すぐ戻らないと――」


 そんな現実的な考えも浮かぶのに、心は諦める為の言い訳を探していた。


「会ってどうする?」「会えるわけがない」「もう遅いだろ」


「最初から全部…」


 だけど、彼女がこの道を歩いて大学に通っている――


 そう思った瞬間、あの香水が身体を包んでくれた気がして、

 真っ暗な道へ向かって、俺は一歩、また一歩と、足を踏み出した。


 それを続けていくうちに、現実が静かに心を凍らせていく。


 目の前に現れたのは、誰が見ても分かるほどの高級マンション。

 まばゆいほどの光が、俺との“違い”を突きつけてきた。


 ――ここに、住んでいるのか?


 一歩近づくだけで、「無理だ」という耳鳴りのような声が聞こえてきて、

 ただ立っているだけで、俺のすべてが否定されていくようだった。


「SNSに載せてた場所とは違う…ような」

「住んでる場所じゃない…かも」

「聞いた話が全て嘘だった…はず…がない」


 言い訳と後悔と、絶望と憧れがごちゃ混ぜになって、

 それでも――ここに来てしまった事実だけは、もう変えられない。


 まだ何も知らない、知りたくもない子供が、

 自分勝手なワガママを並べ立ててでも、

 この場所にすがりつき、あり得ない未来を夢見ていた。



 贖罪①

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