再会②
電車のドアが開いた瞬間、ひときわ目を引く若い女が姿を現した。
その光を反射するような派手な出で立ちに、思わず言葉を失う。
「久しぶりぃ。せんせー。老けたんじゃない?」
真っ直ぐこちらを見てくるその声には、聞き覚えがあった。
だが、それ以上に目を奪われたのは、露骨なほど強調された胸だった。
(……こんな格好で電車に?)
短くて腹が見えるシャツに、透けて見える黒いブラのライン。
まるで自分の特別な魅力を見せつけているかのようだ。
昔もその場所に目がいってしまい、すごく嫌な顔をされたことがあった。
その記憶を思い出してスグに、そこを見ないように視線を逸らしたが、
何故か今の彼女は少しも気にしていない。
「あはは、何見てんの?先生が見るほど、大きくなった?」
冗談めかしたその言葉に、言い返す余裕もなく黙ってしまい、
悪いことをした子供のように目を逸らすと、視線が脚へと落ちていく。
上半身も魅力的だったが、
それ以上に下半身を隠すはずのローライズデニムの前が開いていて、
そこから黒いショーツがのぞいている姿を凝視してしまう。
(……わざと見せているのか? 見せたい?本当に、彼女なのか?)
その場所を長く見続けるわけにもいかず、視線をさらに下へ。
視線に映る日に焼けた脚は、健康的というよりも、
どこか見せる事を前提に、お金をかけて磨いているような肌だった。
(あの頃の彼女が……)
記憶の中の彼女は、量販店のトレーナーにロングスカート。
足首まで隠し、夏でも制服の下にシャツを重ねて汗だくになりながらも、
顔を真っ赤にして耐えていた、照れ屋な少女だった。
「そんな格好してたら、田舎じゃ虫に刺されるぞ」
「えぇ~、だって暑いんだもん」
甘くて濃い香水の匂いが、ふわりと鼻をかすめる。
「その匂いも虫除けか?」
「ひど~い!これ、ちゃんと選んだ高いやつだよ?」
つい手を伸ばし、彼女のキャリーバッグを無言で受け取る。
そのバックでさえも、そういう事を知らない自分でも知っているような、
巨大なブランドのロゴが入った、いかにも高そうな代物だった。
「壊さないでよ? 高いんだから」
「道具は使えば壊れるもんだ」
「わっ、パワハラ~! 先生、こわ~い」
「……その“先生”って呼ぶの、やめろ!」
「えぇ~? じゃあ、“たっくん”?」
やっぱり彼女にとって自分は、いつまでも“先生”なのか。
そんな風に思うと、胸の奥がざわついて、つい強く言い返してしまう。
その声の裏にある気持ちを、彼女は敏感に察しているらしく、
どこか茶化すように笑って、こちらの様子を探っていた。
「拓海さんか、高橋さん、だろ? 10歳も違うんだよ。大人の常識だ」
「えぇ~。じゃあ、“みこちゃん”って呼ぶなら許す~」
頬をぷくっと膨らませて怒る仕草は、あの頃とまったく変わらない。
それにつられて、こちらも昔のような口調になってしまう。
「おかえりなさい。刺激も何もない田舎に、よく戻ってきたな、橘さん。
お祖父さんとお祖母さんがお待ちだ。早く車まで来てくれ」
「じゃあ、美琴でいいよ。それでいいよね? 拓海……さん」
昔のように少し俯き、恥ずかしそうに笑う彼女を見て、
ようやく、あの子が帰ってきたのだと実感が湧いてくる。
「早く乗りなよ、美琴。安い車でエアコンの効きも悪いけどさ」
「もぉ~、拓海くん待って~。この靴、走るの大変なんだからぁ」
厚底サンダルを履いた彼女は、
もともと高い背をさらに伸ばして、堂々と誇るように話していた。
そういう何気ない会話の中でさえ、見上げている自分に気づいてしまい、
なぜか気恥ずかしくなり、そのまま車に向かって早足になっていた。
再会②




