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クロスオーバー  作者: 連鎖
みさき(運命)
55/103

潜入④

 美咲は、仕事を始めて数日が経つうちに、

 この異常に刺激的な環境にも慣れていった。


 最初は戸惑っていたものの、カジノ特有の大音量や、

 人々が欲望をむき出しにする声にも気を取られなくなり、

 周りの女性たちが、

 お客様をただのお金を運んでくる存在として扱っていることや、

 その対価に引き起こす通常では考えられない行動や言動にすら、

 自然と順応していった。


「アハハハ。ここも一緒よ。ここだっておんなじぃいいい。アハハハ。」


 彼女もまた、周りと同じように壊れてしまったのだろうか。

 周囲と同じように振る舞うことに、

 罪悪感や忌避感といった常識が次第に薄れていった。


 お客から「これで?」と尋ねられることが増えると、

 自然な笑顔で「いいですよ、これで」とプレートを指しながら答え、

 軽い冗談を交わすように「じゃあ、これにしよう」と言われれば

「いいですよ」と返し、実行に移す。


 その全てが、

 少し前の彼女だと人前で行うことなど考えられなかったことだが、

 美咲は、

 その場の雰囲気を壊さずに受け入れることができるようになっていた。


 他の女の子たちが笑い声をあげながら部屋へと消えていく姿を見て、

 自分もその輪に加わりたいという気持ちはあったが、

 れいなさんに「美咲、見るだけでいいからおいでよ」

 と無理やり連れて行かれた経験から、それだけはまだ早すぎると感じ、

 それ以降は見に行くのさえ避けていた。


 美咲が今でも思い出すのは、「ただ見ていただけなのに……」という、

 一人のうぶな女としての記憶だった。


 今でも不意に思い出してしまうその記憶は、

 れいなと客が複数で部屋に入っていき、無理矢理連れてこられた自分が、

 ただ見ているだけでチップがたくさんもらえる、

 簡単な仕事だと思っていた時のこと。


 しかし、複数の客とれいなが楽しんでいる姿が、

 音や臭いとともに視覚にも深く刻まれ、その記憶は強烈にこびりつき、

 何度も頭の中を駆け巡ることとなり。


 その日の仕事が終わり、帰ることになってもその光景は頭から離れず、

 家に帰ってからも何度も思い出しては、少しも眠れなかった。


 美咲は眠れないため、

 仕方なくシャワーを浴びてみたが一段と身体が熱くなるだけで、

 仕方が無いと無理にお酒を多量に飲んで気絶したが、

 朝起きた時には頭を抱えて後悔していた。


 その理由は、

 山田の店から帰ってきた時以上に部屋が激しく散らかっていて、

 その惨状は目も当てられない、臭いと散乱した玩具の光景だった。


「フウ。またね。イイわよ。だって仕事だしぃい。アハハハ。」


 もちろん、この制服に着替えれば触られることは当たり前だし、

 そんなことを嫌がる女は周りにはいない。


 逆に、お金を請求できることに喜び、

 客からはお金で何でもするような物として扱われている。


 少し前までは、そんな事をする女に忌避感を抱いていた美咲だったが、

 今では、自分がする事にさえ全く気にならなくなっていた。


 しかし、一定の確率であり得ない要求をしてくる変わった客が現れると、

 そんな時は黒服が少し離れて見守り、助けに入ってくれた。


「はぁああ、来たの?」


 その変な客として、今も付きまとっているのは、

 キャバクラで出禁になった山田で、

 こちらの店は料金が高すぎて来ないだろうと思っていたが、

 その予想を無視して彼が現れた。


「ゲッ、山田…キモい。」


 現れた山田は、

 彼の店でアルバイトしていた時に着ていたキャンギャルコスプレよりも、

 明らかに美咲が露出の多い格好をしている事に興奮している。


 その姿を見た美咲は、思わず虫酸が走るような気持ち悪さを感じていた。


「美咲、店に来ないってダメじゃないか。あと出禁って、お前だろ?」

「すみません。ここが忙しくて……」


 この店ではさすがに、

 美咲であっても山田を出禁にすることはできないので、

 他の客に自分を呼んでもらおうと、視線をあちこちに送る。


 それに気づいた山田は、美咲をじっと見つめて、

「すごい格好だな。ほとんど全裸じゃないか?」と言ってきた。


 それは、だらし無いとか、止めろという優しい指摘ではなく、

 明らかに喜んでいるのが伝わってきたので、美咲は冷静に

「そうですか?みんな同じですよ。あの子はどうですか?」と、

 他の女のところへ行けと言わんばかりに返答していた。


 こうしたことを普通にできるようになった美咲も、

 慣れとは不思議で、嫌だったこの身体のラインがはっきり見える服も、

 店にいる間は、周りの人が身体をじっくり見ている状況にも慣れ、

 逆に「これを着ると…」と、そういった行為が普通だと受け入れる。


 そうして、彼との話が終わったと思い歩き出そうとした美咲に、

 山田が「これで」とコインを差し出してきた。


「なんで知ってるの!」と、逃げるタイミングを失った美咲が、

「ありがとうございます」と嬉しそうな顔でそれを受け取る。


 もちろん、「クソ……」と心の中で呟きそうになるが、

 そうした気持ちは、すべて「コレが仕事」と諦めていた。


 そんな心の声など聞こえていない山田は、

 床に寝転んで仰向きになり、痛いほどに美咲を見つめてくる。


 美咲は「床に寝るのは、おやめください」と、軽く声を掛けたが、

「早く顔の上に来い」と言ってやめようとはしない。


 美咲は「変態…このまま踵で…」という殺意に似た気持ちのまま、

 彼が見やすいように、脚を大きく広げて顔の上にまたがっていた。


 それ以上の事がしたいのか、とても嬉しそうに見続けていた山田が、

「じゃあ座って」とチップを渡してきたので、

 やむなく「変態…死ね…ブタ」と心の中で呟きつつも、

「わかりました」と、嬉しそうな顔で要望通りにしてあげる美咲。


「してあげるわよ。山田ぁあああ。」という心の声のまま、

 目や鼻や口を塞さぐように、全体重をのせてお尻を押し付ける。


「ぶぶぶ。ぶばぶびぃい。ぼべぶぶう。」


 彼は息ができなくて苦しいらしいが、

「お触りは別料金ですよ」と、お尻を顔に押し付けたまま、

 暴れる彼の腕をハイヒールで踏んであげる。


 その後も暴れたが、段々と踵が腕に食い込んでいく事で気づいたらしく、

 暴れる事はやめて、「ぶぶび。ぶぶぅう。ぶぶぶぅ」

 と、喜んでいる豚の罵声を垂れ流す。


 もちろん、豚はご褒美が欲しいのだろうと

 美咲は「このまま死ね…」と、腕を足でおさえながら座り続けていると、

 目の前にあった彼の物が、ズボンを持ち上げて膨らんで来た。


「キモいんだよ。変態やろおぉおお。さっさと死にやがれ。」


 その光景に苛ついた美咲は、

 窒息させてもいいと、お尻で鼻を締め付けながら押し付けると、

 その後の山田は「ウゥ、うぅうう」と、

 うめき声と汚物を吐き出しながら、全身の力が抜けてしまった。


 もちろん、私がする事は、「お客様は、退店です」と声を掛けることで、

 幸福そうに気絶した彼は、すぐに黒服が何処かへ運んでいった。


 しかし、今日も元気に来ている。


「美咲。ひふぉいじゃないか」「申し訳ございません」

 声が少し変で笑いそうだが、清ました顔で相手をする美咲。


「美咲。最近は冷たいじゃないか!」「申し訳ございません」


 心の中では何とも思っていないし「さっさと消えろ」とさえ思っている。


 もちろん、こんな客が消えたところで、

 自分にも店にだって影響はないと気づいているが、

 店のお客様である以上は、丁寧に頭を下げるしかなかった。


 山田が「ホラ」とコインを出すと、「どうぞ、お好きに」と応じた美咲。


「舐めたいんだけど……」

「どうぞ。ただし、噛んだり吸ったりはご遠慮ください」


 なぜか「身体を舐めたい」という客は多く、

 山田もその一人で、身体の隅々にまで舌を這わせてくるが、

「部屋で、最後までしないの?」と、

 彼女には、その行為が不思議でならなかった。


 もちろん、彼等が出来る事など、衣装から出ている脇や背中、

 足や指先、肩やうなじ、そういった場所に舌を這わせるだけ。


 それ以上の事は出来ないし、こちらからも行為をしないので、

 こんな事に興味を持つ人が、ある程度いることに、美咲は驚いていた。


「痛っ……お客様、これ以上はご遠慮ください」


 彼は欲望が抑えきれなくなったらしく、

 肌をだしていない、服の上から敏感な場所を刺激してきた。


 もちろん美咲は、小声で「すみません」と呟き手を上げ、

 呼ばれて近づいてきた黒服に「やり過ぎ」と伝えると山田を連れていく。


 そんなやり取りが、彼女と山田の間の日課になりつつあった。


 毎回連れて行かせるのも可哀想な気がして、

 山田の行き先を黒服に聞いてみると、

「こうやって追い出される客には、ペナルティだ」と言われた。


 その内容が少し気にはなったが、明日もまた来るだろうと思い、

 美咲は特に何が彼に起こったのかも気に留めなかった。


 。


 今日も仕事が終わると、

 スモークが貼られた近寄りがたい車に、美咲と男が乗っていた。


「美咲、今日も稼いだのか?」

「まあまあかな。でも、まだ全然足りないけどね」


 男は、美咲に対して好意を抱いている様子で、

 今日も送り迎えを引き受けてくれている。


「今日も教えてやろうか?」

「今日は…そうねぇ…でもなぁ。うん、お願い…」


 少しだけ悩んだが、いつもの事を彼から教えてもらう。


 彼から教わるのは、接客の対応や男を満足させるコツといった、

 仕事に役立つ内容が中心で、話の途中で色々と雑談もする。


「れいなさんって何をしている人なの?」「何かあったか?」

「店の中で全身を揉んでくるのよ」「あはは、気に入られて良かったな」


「あんなに激しく、お客に見られならが揉まれたら…」

「そういう人だぞ。絶対に仲良くしておけ」


 美咲としては笑い話ではなく、部屋に一緒に行くのを断ってから、

 仕事中でも服の内側に手を差し込まれ、優しく揉んだり触ってくるし、


 首筋や耳を舐めながらされてしまうと、

 スグにイケナイ気持ちが膨らみ、美咲は腰砕けでしゃがみ込んでしまう。


「お客様にだって…」


 そんな姿を、お客様に見せてしまって困ってしまうという愚痴だが、

 恥ずかしいというより、気持ちいいという感情が勝ってしまい、

 この男に続きを話すのを止めた。


「そうか、お前は店でアレ無し対応だから欲求不満ってのか?」

「ヒドイ…もお。止めるよ!コレで終わるね!」


「止めるなよ。もう少し。こんな感じでな…もうちょいなんだって。」


 色々とはぐらかされる事も多いが、彼を大事な情報源として活用し、

 仲良くなり過ぎない程度の距離を保ちながら教えてもらっている。


「約束は忘れるなよ」

「分かってる。売れたら、できるだけ早く知らせるわ」


 もちろん、この約束をしていれば、

 大事にしてもらえるだろうとの、打算の中で二番目を約束していた。


 このやり取りで、美咲は彼から様々な知識を得てきたが、

 ふと彼が言った「定期的にオークションがある」という言葉に、

「まさか、私もその対象に…?」そう思うと胸がざわついた。


 その内容は、それとなく聞いたので彼に気づかれていないと思うが、

 お店にいなくなった女が、そこに出品されている事と、


 その先に何があるかは、誰も知らないという事で、

 自分も「友達は、オークションに出品されて、何処かに売られた?」

 と、逃れられない同じ運命のようなものを感じた。


「そこは、もう少し強くなくても…」と悲しい声で彼も頼んでくるが、

「嘘ばっかり…」と思えるほどに、美咲は色々と慣れて、


「ごめんなさい。キオつけるわ」と顔を上げて笑い返すと、

「あっ…ああ。もうちょい」と悲しそうな顔で見てくる彼が可愛かった。



 潜入④

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