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クロスオーバー  作者: 連鎖
みさき(運命)
54/98

潜入③

 美咲をひとりだけ乗せたエレベーターが地下へと降りていく。


 体にかかる違和感から下っていることはわかるが、

 どこへ向かっているのか、何をするのかも知れないまま、

 その時間が永遠に続くかのように感じられた。


 こちらを向いているカメラの先で男たちが彼女を覗き、

 本当の目的を知って笑っているように思えて、

「これから…まさか…」と胸がざわつく。


 そんな心のまま時間が過ぎ、ようやくエレベーターが止まり扉が開くと、

 目の前には巨大なカジノが広がる。


「あの小さなビルの下に、こんな空間があるなんて…」

 と、驚愕する美咲の視線の先には、

 自分と似た衣装をまとった女たちが、男に抱きつき嬌声を上げ、

 他の女は、機械のように無表情で酒や食べ物を運んでいた。


 勝利を喜ぶ者や敗北に涙する者と同じく、地下特有のこもった空気に、

 酒と煙の臭いが混ざり合った物が漂っている。


「ここで…」と、美咲はこの場所が自分の仕事場だと悟り、

 大きなカジノに少し気後れして、

 閉じたエレベーターの前で呆然と立ち尽くす。


 そんな美咲に、美しいがどこか影のある女が声をかけてきた。


「新人さんかしら?あら、うふふ。みんな、新しい子よぉおお!」


 その女が笑いながら近づいてくると、美咲の胸元に手を差し込んできた。

 もちろん、美咲も焦ったが、「これは見られている。」と我慢していた。


「ウフフフ。」


 その態度に喜んだ彼女は、巨大なカジノへの興奮なのか、

 それとも緊張なのか、美咲の膨らんで固くなった部分を、

 痛いほどに指先で押しつぶす。


 美咲は、今すぐにでも絶叫して逃げ出したい気持ちに駆られたが、


「こういう人は嫌がったら喜ぶだけよ。」


 と、最近の経験からそれを知っていたため、嬉しそうに笑い返していた。


「美咲です。よろしくお願いします、お姉様。」


 その強烈な痛みに戸惑いはしたが、コレがまだ面接の続きだと気づき、

 そんな痛みに動じることなく、笑顔を浮かべて返事をする。


 そんな態度をしてくる美咲を見て、一瞬驚いた顔をした女は、

「これは出勤表よ。貼っておいてね。」と言って、

「みさき」と書かれたシール状のピンク色のワッペンを肩に貼る。


 その後は「じゃあ、こっちへ」と背を向けて歩き出した。


 もちろん、彼女も同じ制服を着ていたので、

「この人は…」と気になって視線を落とすと、

 引き締まった小ぶりのお尻に、自分の手書きシールとは違い、

 豪華で精巧に出来た金色のワッペンが貼られている。


 それを見た瞬間に、「店側…」と、

 この女が明らかに自分と立場が違うと確信した。


「すみません、れ…いなさん?」「お姉様でいいわよ、美咲。」


「じゃあ、お姉様、ここでは、何をすればいいですか?」

「(お金)が喜ぶことよ、うふふ。」


「れいな」が偽名なのか、少しだけ嫌がるような素振りを見せ、

「お金」という部分は、声に出さずに唇の動きだけで話す。


 そんな返答に、美咲は何かキャバクラと重なるようなものを感じて、

「ココでも同じように…」と、少しだけ安心した。


 周囲に見えるのは、

 海外のカジノで見かけるような遊技台やスロットマシン、

 さらにはテレビで見たことのある、賭博場を模した場所まであった。


 他に気になるのは、壁には行き先がわからない扉が並んでいて、

 嬉しそうに客とキャストが腕を組んで入っていく、

 その特徴的な雰囲気の中で、客たちは勝敗に一喜一憂している。


 最初から美咲を連れて行く場所が決まっていないのか、

 二人は遊んでいる人々の横をゆっくり歩いていった。


「おねえさま?」「ウフフフ。コッチよ。」


 美咲は、高すぎるハイヒールのおかげで一段と背が高くなり、

 首からプレートを下げていることも珍しいのか、

 ただ歩いているだけで、自分の体に視線が集まっている事に気付く。


 もちろん美咲は、顔を向けてその視線を確認することはなく、

 ここ数日の経験から感覚が敏感になったのか、ふと感じ取っていた。


「見てる…あの男に…あの女まで…うふふ…そんなに、私を欲しいの?」


 と、明らかに意図的な視線が彼女の身体に痛いほど注がれていることに、

 優越感が混じった喜びまでも感じ始めていた。


 そのうちのひとりが

「れいな、また負けちまったぁあ。慰めてくれよぉ」と彼女に話しかけ、

 れいなは、すぐさま彼に近づいて軽く頬にキスをした。


 そこから先は、れいなへのお礼なのだろうか、

 何かを握った男の手が、胸元からハイレグワンピースの内側に滑り込み、

 その手を中で広げると、そのまま引き抜いていた。


「え…」戸惑う美咲に、「これが仕事よ。イヤかしら?」


 と、服の内側に残ったコインを、

 今も興奮して見てくる彼を無視して、嬉しそうに取り出していくれいな。

 

「いえ…稼げるって聞いたので」と、困ったように美咲が答えると、

 れいなの表情が少し探るように変わって、

「本当にいいぃ?」と聞いてくる。


 さっきの戸惑った顔を見られていたので、

「すみません。本当は驚いてしまって…」「まあ、いいけどね。ウフフフ」

 と、特に気にした風もなく、れいなは先へ歩き始めた。


 これと同じような事が自分にも起こり、

 その時にはあわてずに「コレって貰ってもいいですか?」

 と、れいなに聞いてから対処をしたが、


「イイわよぉ。お小遣いだと思って、自分でアッチに賭けてもいいし。

 帰りに渡せば、それだけバイト代が増えるわよ。」


 そうやって話す彼女の顔が、一瞬だが探るような表情に変わり、

 この女が面接官の一人で、店の一員だと気づいていた美咲は、


「そんなに稼げるのなら、スグに店を持てるかも…」


 と、スグに用意していた言葉を並べて、相手の出方を見ていた。


 しかし、彼女の返事は、

「そう?良かったわね」と、その言葉には微妙な顔をしていた。


 。


 様々な人が遊んでいる中で歩き続け、あれ以上の行為を客からされても、

 美咲は笑顔で応じていた事で信頼されたのか、

 それとも、面接が終盤に差し掛かって終わりの時間なのだろうか、


「美咲。そのプレートって本当なの?」


 首から掛けられたプレートについて聞いてきた。


「はい、変ですか?」 「ふぅん。修正?」

「もちろん、天然ですよ。もし違ったら大変です。」


 この話題を突然振られたのなら、普通の女なら動揺して慌てそうだが、

 彼女に調べられていると気づいている美咲は、

 平然とした態度を崩さないで答えていた。


「じゃあ、稼ぐのは難しいかなぁ?」


 もちろん、経験は無いが最近は色々あったので、

 あの事を言いたいのだと、美咲は気づいていたが、


「えっ…でも、コレって高く売れるって聞きましたけど?」


 ここで稼ぐために面接を受けに来たという嘘がばれないように、

 勘違いしたふりをして、美咲は大げさに驚いた顔で答えた。


「そうなの?そんな話、私でも知らなかったけど。高く売れるって?」


「ここの面接でも、そう言われたんです…」


「面接?へぇ…でも、そんな情報、どこで仕入れたの?」


 それが本命の質問だろう。


 いやらしい視線を向け、探るように見つめるれいな。


 この店を知っていること自体が、不自然に思われるかもしれないが、

 もし美咲が働いているキャバクラの客から聞いたと言えば、

 それほど、この店の時給が高い事を知っていても不自然ではない。


 しかし、「処女が高額で売れる情報」まで知っているのなら、

 客から聞くにしても、変な話題なので怪しまれるかもしれないが、

 ここで彼の存在を出しておけば、それ以上は追求してこないと、


「(情報屋さんに、稼げる方法を無理矢理聞き出したんです)」


 周囲に聞かれたら問題になりかねないと思っているような顔で、

 れいなにだけ、聞こえるような声で囁いた。


「へえ、そんな人もいるんだね。初めて聞いたわ。今度、教えてよ」


 れいなは少しだけ興味を示し、警戒が和らいだようだった。


「口止めされてて、料金も高額なんですけど…」「あら、残念ね」

「でも、仲良くなったら教えます。それでいいですか?」


 美咲が可愛らしく楽しそうに返事をすると、


「ふふ、そうね。じゃあ、美咲に、ここでのこと、

 いろいろ教えてあげて、仲良くならないとね。ウフフフ。」


 れいなは、安心したような顔で微笑んだ。


「ありがとうございます、お姉様」


 この店に来た本当の目的を知られるかは、彼を信じるしかないが、


「ごめんなさい、三島さん」


 と、ツケで聞いた情報以上に迷惑をかける事になりそうで、

 美咲は、彼の名を心の中で呟きながら謝っていた。



 潜入③

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