秘書⑤
店員がトイレに行ってしまいどうすればいいか迷った美咲は、
「続きはどうしますか?」と、佐々木に聞く。
「それ。それに着替えろ」と、この下着も嫌いなのか、
彼はそれを見ようともせずに指差す。
次に選ばれたのは、糸の束のようになった黄色い毛玉だった。
美咲も大人なので、それが何かに気づき、
「まあ、こういうのよね。あはは…」
と呆れた顔で、その毛玉をほどいていった。
佐々木が、その下着に少しも興味がなさそうにしていたので、
美咲は「本当に着ますか?」と聞く。
その返事は、「アイツはいないが、見てやるから着ろ」と言われ、
社長に着ろと言われれば、仕方がないと諦めて美咲は着始める。
前に使った人が悪かったのか、明らかに中古品の紐を解き、
ショーツと言えないほどの紐の塊を、股の間に通して腰で固定する。
胸の方も似たようなもので、
胸を丸い枠に通し、首後ろと背中部分の紐を結んで固定した。
「佐々木さん、どうでしょう?」「まあ、いい。アイツはいないから次だ」
佐々木は、相変わらず興味がなさそうに下着姿の美咲を見ているので、
そんな態度に、
「でも、こういうのが人気なのよね…どうして?別に何も隠れないよね」
と、彼女も少し気が抜けていた。
紐を止める時に固結びをするわけでもないので、
軽くブラの固定した結び目を外した時に、
「ハァ、紐のあとってなかなか取れないのよね」
と、身体のことが気になった。
しかし、ショーツを脱ごうと腰の部分の結び目を外しても、
「あれ?どこか…」と、いつまで経っても紐が落ちてこなかった。
「…ひっ…」と、外し忘れている場所に気づいた美咲は、
顔を真っ赤にして、慌てて全ての紐をまとめ、
さっき以上に入念に、二つの紐を団子にしていった。
「どうした?」
「い、いえ、大丈夫です。次ですね、次」「ああ、あれが最後だ」
最後に着替えるべき下着を見て、美咲は少し戸惑っている。
「今回は普通っぽい…」と心でつぶやく美咲。
今までの派手なデザインや紐のようなものではなく、
レースが飾られた白い下着は、普段目にするようなデザインだった。
そこへ、満足そうな表情で、少し疲れた店員が戻ってきた。
「佐々木さん、アレ終わりましたか?」「ああ、あれが最後だ」
「…あ、見せなくてすみません」と、焦った顔で美咲は謝るが、
手にしていた黄色い紐の塊を、なぜか握り締めたまま離さなかった。
「さっさと次に着替えろ」と、佐々木が少し不機嫌そうに促す。
「次のがいいですよね?佐々木さんの好みでしょう?」
佐々木の趣味をわかっているなら、
「最初から、これに着替えさせてくれたらよかったのに…」
と、美咲は心の中で思いながら、
「これに着替えますね」と言い、
手で包むように隠した下着を、二人に忘れてもらおうとしていた。
「今度のは普通の形だし、これなら…」
と、美咲は片手でぎこちなくショーツを履いたが、
ブラのホックがなかなか留められず、仕方なく店員に助けを求めようと、
「お願いできますか?」と、少し不安げに頼む美咲。
店員は困った顔で佐々木を見たが、
佐々木は無関心に「美咲がいいなら、別に構わない」と言い放つ。
佐々木の了承を得た美咲は、店員の背丈に合わせようと脚を左右に開き、
ストラップを両肩にかけたまま「よろしくお願いします」と言い、
腰を落としつつ頭を下げた。
店員が彼女の背後に回り、舐めるような視線を、
お尻の先に送っているのに気づいた彼女は、
全身に言いようのない恐怖が走る。
「やっぱり、佐々木さんに…」と躊躇したが、
その時、店員がブラのホックをとめるだけのはずが、
胸に直接触れて、支えるように持ち上げたことに驚いた。
もちろん「やめて!」と反射的に体をひねって彼を睨みつける。
「ちゃんとカップに収めないとダメだろ?それとも自分で出来るのか?」
と、店員は美咲を馬鹿にするように笑う。
美咲は先ほどまで身に着けていた紐の下着を手に握りしめたまま、
何かの違和感に気づいた。
店員が背後に回った際、「エアコンの風?彼が…見た?」
と、布で覆われているはずの部分にあり得ない感覚を感じ、
自分の目でその部分を確認すると、
さっきまで白いレースの下着と思っていたデザインが、
実は違って、その部分に穴がある事に気づいた。
これ以上、着替えを手伝う時に触れさせたくないし、
もう一度あの格好で、店員に覗かれたくないので、
美咲は「どうぞ」と、手の中で隠していた下着を店員に渡した。
直接、美咲から下着を手渡された店員は、
においを嗅ぐような仕草をしながら、いやらしく笑みを浮かべた。
その視線や、あの濡れた下着を渡した羞恥心に耐えきれずに、
美咲は店員から視線をそらす。
「うん、いい香りがするなぁ。
美咲ちゃんのは、さっきのも良かったけど、これは格別だなぁ。」
彼が舌を出し、なめるような動作を見せると、
美咲は吐き気が込み上げたが、冷静な顔を保ち彼を睨み続ける。
「さっさと目の前から消えろ」と、佐々木が冷たく言い放つと、
店員は不敵な笑みを浮かべながら立ち去っていった。
「…舐められた。私の下着を、あの男に…」
そういう思いが駆け巡り、美咲の心はざわついている。
彼女は、以前からおりものが多いためシートを貼る習慣があったが、
さっき渡したコットンの下着も、紐の下着にもシートは貼っておらず、
生理も近いわけではないのに、紐の下着は白濁した液体で濡れていた。
最初に渡した下着のことを思い出してしまうと、
「違う。あれが、たまたま濡れていただけ…」
と、必死に自分に言い聞かせ、顔を真っ赤にする美咲。
もちろん、羞恥心で顔を真赤にして「たまたま…」と思いながら、
アソコに紐を強く食い込ませていた理由など考えたくなかった。
色々な妄想が心をかき乱し戸惑っている美咲に、
佐々木が「さっさと着替えろ!」と命令する。
怒鳴り声で我に返った美咲は、すぐに胸元を整えてホックを留めた。
下着を着るだけで妙に落ち着いた美咲は、
店員がいなくなり二人きりだと気づくと、
「着替えました」と嬉しそうな顔で佐々木に向かってポーズをする。
そんな美咲に、佐々木は興奮した表情で「脚を広げろ」と命じると、
しゃがみ込んで見上げてくる。
美咲は「この男も一緒…」と思っているが、
彼の興奮している姿に、自分も興奮していると気づいていない。
今、美咲が思っているのは、あれだけ怖かった佐々木が、
嬉しそうに見上げて来る姿が可愛くて、
自然に腰を前に突き出して、彼から見えやすいような格好になっていた。
。
二人が店で少しだけ楽しんでいた時、不意にドアが開く音が響き、
数人の新しい客が入ってくる気配がした。
戸惑いで美咲の視線は思わず佐々木に向けられ、
自分が今、下着姿でいることに気づくと羞恥心で全身が熱くなった。
必死に「早く服を着ないと…」と思うが、動揺で体がすくんで動けない。
「ほら、美咲、こっちだ!」
と佐々木が手を差し出し、強く彼女を自分の方に引き寄せた。
美咲は驚きながらも反射的にその手を握り返し、
混乱の中で「佐々木さん…」と、頼れるものがそれだけだと感じた。
佐々木は客たちの間をすり抜け、
まるでその場から美咲を守るかのように彼女を連れていく。
頭が真っ白になった美咲は、
ただ彼の後ろについていくことしかできず、
「この人…やさしい…」と心の中でつぶやいた。
外に出た彼が社用車のドアを開けると、
ようやく安全な場所に逃れられたような気がして、
美咲は急いで車内に飛び込んだ。
佐々木も続いて乗り込み、ドアを閉めると、
さっきまでの喧騒が嘘のように静寂が二人を包んだ。
美咲は深く息を吐き、「よかったぁ…」と安堵の表情を浮かべるが、
ふと下着姿のままであることに気づき、再び顔が赤らむ。
「落ち着けよ、美咲。色々あったが、これも仕事の一環だ。」
佐々木が強く言うと、美咲は小さくうなずく。
何とか気持ちを落ち着かせようと深呼吸し、
「これは秘書の仕事なんだ…コレぐらい…」と自分に言い聞かせ、
そうして羞恥を振り払うように背筋を伸ばし、
彼に向かって毅然とした表情を見せた。
「佐々木さん、もうどうにでもなれって気持ちです。」
佐々木はその変化に気づき、満足げな笑みを浮かべて頷いた。
「よし、その意気だ。美咲、さすが俺の秘書だな。」
美咲は少し緊張しながらも、佐々木にすべてを委ねる覚悟を決めた。
彼の指示に従うことで、秘書としての役割を全うすることが、
自分のプライドを守る唯一の方法だと信じたかった。
秘書⑤




