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クロスオーバー  作者: 連鎖
みさき(運命)
40/98

情報屋③

 美咲が相手の返事も待たずにドアを開けると、

 カウンターで準備をしていた三島がこちらを見ていた。


「お客様。まだ、準備中なん…」「呼んだのは、ソッチ!」


 彼は、冷静な表情を浮かべてコチラを見たが、

 美咲の姿を見た瞬間、呆れたような顔に変わり、


「……おい、その格好はどうした?」


 と、ため息をつきながら、頭から足先まで見る。


 乱れた髪、化粧っ気のない顔、

 実用的なデニムマキシワンピース、生足に黒い厚底サンダル。


 その格好を見て、美咲が慌てて駆けつけたのが一目瞭然だった。


「急いでいるとしても、もう少し何とかできただろ?」

 三島は肩をすくめ、ため息交じりにぼやいた。


 美咲は顔が熱くなるのを感じ、

 気まずそうに目をそらしながら小声で「急げって…」とつぶやく。


 普段なら、完璧に着飾ってから出掛けるはずなのに、

 今さらどうしようもないこともわかっていた。


 三島はしばらく見ていたが、少し渋い顔で「…まあ、いい」と言い直し、

 話を続けようとしたが、その見た目以上に気になっているらしく、


「…におうぞ」


 と、三島の目には、苛立ちと何か複雑な感情が浮かんでいた。


 その一言に、美咲は一瞬驚いたが「ごめんなさい…」と小声で謝り、

 真っ赤な顔をして視線をそらした。


 そんな美咲の態度を見て、三島は少し間を置いた後、

 低い声で「…しもむら、えいいち」と名前を告げた。


 その名前を聞いた瞬間、美咲の眉がかすかにひそめられた。


 彼女も三島が、重大な名前を伝えようとしているのはわかったが、


「…誰?」と、彼女は少し苛立ちながら問いかけ、


 三島の顔をまっすぐに見つめた。


 三島は黙り込んで、美咲を睨むように見返す。


 その名前は、彼にとって知っていて当たり前なのかもしれないが、

 美咲には馴染みがなく、

 混乱が深まるばかりで「知らない」と頭を振り、悔しそうな顔で答えた。


 そんな彼女に、三島は驚いたような顔を見せ、

「本当に知らないのか?」「知らないわよ」


 そう美咲が即答すると、三島は肩をすくめるように小さく息を吐いた。


「それなら、なおさら話しておかなければならない。奴は……」


 彼が話し始めたところで、


「その人が、友達の失踪に関わっているって言いたいの?」


 と、美咲は遮るように言い放つ。


 三島は無言で頷いた。


 その表情から、

 彼が慎重にこの情報を伝えようとしていた理由がわかったが、

 それでも、美咲の感じた「誰?」という疑念は深まるばかりだった。


「でも、それだけで信じろっていうの?」

 と、意味がわからない彼女の視線が、鋭く三島に突き刺さる。


「だから、しもむらだって言っているだろう?」

「その名前を聞かされても、何の実感も湧かないのよ!」


 三島はため息をつき、視線を一度落としてから、

 もう一度美咲を見つめ直し、低く静かな声で話しを続けた。


「ああ…それは、何となく俺もわかっている。

 でも、ヤツの名前を知っておくことで、

 少しでも、お前が危険から遠ざかるなら十分だ」


 三島の真摯な言葉に、美咲はわずかに動揺したものの、

 視線を緩めることはなかった。


「いいから、ちゃんと教えてよ!」


 彼女の声が厳かに響き、緊迫した空気が二人の間に張り詰める。


「自分で調べてみろ!」と、冷たく突き放すような声に、

 彼女は三島が言っていた名前を、スマホに打ち込んで検索をかけた。


 しかし、画面に表示されたのは、

 断片的な情報や同姓同名の情報ばかりで、

 どれがそうなのか、目ぼしい手がかりにはたどり着けなかった。


 美咲は苛立ちを募らせ、視線を三島に向けた。


「何よこれ、全然意味がわからないじゃない!

 顔写真とか、会える場所とか、仕事ぐらいは教えて」


 彼女の目は鋭く、三島を追い詰めるように見つめていた。


 だが、三島は困ったように顔をゆがめ、視線をわずかにそらした。


「顔写真だって?そんなもの、手に入るわけがないだろう」


 彼の言葉には、どこかはぐらかすような気配が漂っていた。


「ふざけないで。私の友達が失踪したのよ。

 そんなに嫌がるってことは、あんたも何か重要な情報を隠してる!」


 美咲は食い下がり、さらに三島に迫った。


 三島は小さく息をつき、眉間に深いしわを寄せた。


 しばらく黙り込んだ彼は、

 まるで心の中で何かを整理しているようだったが、

 やがて諦めたように口を開いた。


「いいか…あの男に関わると、ろくなことがないんだ。

 俺だって知ってることを全部言いたいわけじゃない。危ないんだよ!」


 その言葉に、美咲は驚きつつも疑念がさらに深まった。


「その男の事を知っているのよね。じゃあ、ちゃんと話して!

 それが情報屋の仕事じゃないの?」


 彼女の声には冷たさが宿り、三島への不信感がにじんでいた。


 三島は肩を落とし、渋々と口を開いた。


「…会う場所なんて、今の俺には教えられない。

 ただ、もしヤツが動き出したら、そのときにはちゃんと教える。」


「…」


 三島が目的の男じゃないのかと、実は彼も仲間じゃないのかと、

 疑いばかりが強くなって、美咲は彼を強く睨みつけていた。


「もう、コレぐらいでいいだろう?」


 美咲は何かに気づいたかのように目を輝かせ、小さな声で呟いた。


「あなた……本当に知っているの?」


 その声は、挑発的でありながらも深い疑念と嘲笑を含んでいた。


 そんな美咲の反応に、三島はいつもの無表情とは違って、

 一瞬だけ目の奥に興味が浮かんでいた。


 美咲はその変化を見逃さずに口角を少し上げて、


「前にも言ったわよねぇ、知っているのならぁ。全部…ほしいって…」


 と、彼女は三島の好奇心を煽るように、ゆっくりとした口調で話す。


 三島は美咲をしばらく見つめ、眉をひそめて考え込んでいたが、

 やがて小さくため息をつき、


「あんたも、諦めないよな…わかった、少しだけ教えてやる。」


 と、三島は、美咲をじっと見つめたあと、ゆっくりと続きを口にした。


「条件は簡単だ。俺の言うことを何でも聞く、それで教えてやろう。」


 そう言うと、彼はニヤリと口元を歪め、

 この前と同じ顔で、手元のファイルから一枚の名刺を差し出した。


 美咲は名刺を手に取り、

 そこに書かれた「三葉建設工務店」の文字をじっと見つめた。


「え?…工務店?ここで何をしろっていうの?」


 三島は真剣な表情で頷いた。


「そこに行って、秘書として働け。」「その会社で?しかも、秘書?」


 美咲は混乱して問い返したが、三島は一切説明を加えなかった。


「それが俺の条件だ。できなければ、この話は終わりだ。

 さあ、帰ってくれ。仕事をしてくれば、続きを教えてやる」


 美咲はしばらく三島の冷たい視線を見つめ、ため息をついた。


 名刺の会社で秘書をするなんて突飛な要求だが、

 情報を得るためには従うしかなかった。


 もちろん、「お金で…」と、全てを片付けたい気持ちもあったが、

 彼には既に送金済みだし、

 話を引き出すときに、金銭の話をするのはタブーだと教えられていた。


 その思いが顔に出ていたのか、

 三島はこれまでに見せたことのない真剣な表情を浮かべ、

 メモ帳ほどの紙に何かを書き込むと、それを無言で美咲に差し出す。


「なに?」


 そこには、まるで写真のように細かく描き込まれた似顔絵が描いてあり、

 目元や口元まで緻密に再現されていた。


「これが、例の男だ。今回は特別に、お前を信頼して渡す。

 見たら入念に処分しろ、他人には見せるな!いいな。処分だぞ」


 美咲は驚きながら似顔絵をじっと見つめた。

 これだけ精巧な絵があれば、街中で探し出すのも難しくないだろう。


 何かを言いかけた美咲に、三島は冷たく告げた。


「それ以上の情報が欲しいなら、

 あの会社で秘書をきっちりやってこい。それが条件だ。」


 美咲が食い下がろうとした瞬間、

 三島は無言で扉を指差し、追い出すように促した。


 彼の態度に押されるように部屋を後にする美咲。


 廊下を歩きながら、彼の信頼を感じつつも、

 不可解なバイトに対する不安が募っていた。



 情報屋③

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