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クロスオーバー  作者: 連鎖
みさき(運命)
34/98

バイト①

 早く三島から情報を得たい美咲は、

 キャバ嬢らしい光沢のある白いプリンセスロングドレスに、

 シルバーのハイヒールという目立った格好のまま、

 繁華街のビデオショップへ向かった。


 その店は、ここから多少遠いが歩けるような距離なので、

 ネオンがちらつく路地を抜け、目指す店の前にたどり着くと、


 薄暗い照明の下に、何かしら古びた感じの看板がかろうじて見え、

 ただ気になるのは「プレジャー」という店名と、

「おとな雑貨」「激安」「セクシーグッズ」と大きく書かれた文字だった。


 美咲が店内に入ると、壁際には古いポスターが色褪せたまま貼られ、

 棚にはぎっしりとDVDやブルーレイのケースが並び、

 カーペットには染みついた汚れやほこりが目立って、

 わずかに湿った臭いまでが、自分を喜んでいる気がしていた。


「いらっしゃい。」低い声と共に、レジカウンターの奥から店員が現れた。


 その店員の顔は醜く、毛穴が脂肪で詰まったような脂ぎった肌をして、

 キャバクラでも何度か見かけたが、再び見たいとは思えないものだった。


 その体格は、ぽっちゃりを通り越して醜悪で、

 手足はぎゅうぎゅうに膨れあがったような、見た目にも暑苦しく、

 仕事で見慣れたはずのその顔は、ここでは一層好色そうな目つきで、

 美咲を舐めるように見てくる。


「うぅうん、美咲ちゃん…だよね?なんだか、意外だなあぁ、

 こんなところで会うなんて。俺を探しに来てくれた?

 やっぱり、俺の事が好きなんだよね。いやぁ。仕事場にまで…ぐふふ。」


 彼のねっとりとした笑みが、美咲の背筋を一瞬凍らせ、

 彼が一歩近づくたびに、

 視線がドレスのラインや、肌の露出部分にじっくりと絡みつくようで、

 美咲は言いようのない不快感と戦慄を覚えた。


 その程度の事は、我慢できないわけではないが、

 彼が着ている服は、キャバクラで見た姿とは異なり、

 Tシャツに短パンという格好で、スネ毛や脇毛が見える上に、

 毛穴から滲み出す汗の感触まで感じられそうで、

 気持ち悪さが一段と増して、


「今日は、ちょっと…仕事の一環で来ただけよ。」


 と、つい目を逸らして話してしまった。


 美咲は冷静を装いながら応えたが、内心焦りを隠しきれないし、

 相手が自分を知っているだけに、余計に立場が難しい。


 そんな美咲の態度に、

 彼女が自分に会えて恥ずかしがっていると思っているのか、


「そっか、そっか…玩具かなあ?下着カイ?それとも…?」


 と、まるで美咲の意図を読み取るような調子で、

 すぐ近くで、無遠慮にじろじろと見つめ続けている。


 その視線に耐えながら、美咲は深呼吸をして心を落ち着け、

 三島から情報を得るために、ここで自分が果たすべき役割を思い出す。


「カチャン…で、DVD、

 このアルバイトに来たんだけど、店長さんはいる?」


 彼女の言葉に、店員は薄笑いを浮かべながら頷いた。


「ああ、これかい?もちろんさ。美咲ちゃん。特別に俺も協力するよ。

 なんなら、俺も一緒に色々と手伝ってあげるからさ。ぐふふふ。」


「店長さんは?」と、弱々しい声で美咲が問いかける。


「俺がそうだよ。美咲ちゃん。じゃあ、奥に来てもらおうか。」


 その言葉と視線に、美咲はわずかに眉をひそめながらも、

 自分の役割を果たすために淡々と店内の奥へ向かった。


 もちろん、店員は彼女の後に着いてくるし、

 背後から視線を感じつつも、プロフェッショナルな表情を崩さず、

 店内でのキャンギャルとしての仕事を遂行することを決意した。


 やっと美咲が思い出した名前は確か「山田」で、

 店では馴染みの客だったが、思わず顔を背けたくなるほど好色な男で、

 金払いがいいので我慢していたが、すぐにでもお断りしたい客だった。


 彼は背が低く、ぽっちゃりを超えた体型で肌は脂っぽく、

 エアコンがキツい店内でも、首元にはうっすらと汗が浮かび、

 着ているTシャツや短パンはピチピチで、

 はみ出した肌はハムやソーセージのように弾けそうだ。


「美咲ちゃん、なんだか何時もと違う雰囲気だね。ぐふふ。」


 山田が嬉しそうに笑い、彼女を上から下までじろじろと眺めてきた。


 美咲は、その視線がドレスの胸元やスカート部分に、

 まとわりつくのを感じ、思わず肩を強張らせた。


「今日は…ちょっと、キャンギャルのアルバイトで来ただけ。」


 そう言いながらも、美咲は心の中で息苦しさを感じ、

 ビデオショップの中は、店とは異なる種類の不快な空気が漂っている。


 キャバクラでこれだけ露骨に見られれば、席を立つのも許されるし、

 美咲が気に入らないなら入店禁止にもできたが、

 ここではそんなことはできないし、

 店主の山田に嫌われたら、アルバイトの話すら無くなってしまう。


 山田はそんなことを知っているのか、にやつきながら、


「じゃあ、美咲ちゃんには、キャンギャルの服を着てもらおうか」


 と言い、店の奥にある物置のような部屋へと向かった。


 しばらくの間、ガサゴソと何かを探している音が響き、

 やがて、山田が物置きから戻ってくると、

 その手には、あからさまに派手な衣装と、下着らしい布を持っていた。


 美咲はそれを見て一瞬言葉を失った。


「じゃあ。説明するよ。コレはとっぷで。コレはボトムね。いい?」


 トップスは、

 白地に青い縁取りがアクセントのホルタークロップドトップで、

 首元には大きな白襟が特徴的で、

 首に巻いたチョーカーは、蝶結びの青いリボンになっており、

 どこか愛らしさを感じさせるデザインだ。


 ただし、商品に使われた生地は薄く、頼りない手触りだし、

 胸の谷間部分は露骨にくり抜かれ、見せるように設計されて、

 首の襟以外は背中がすべて露出しており、トップスを固定しているのは、

 アンダーバストから伸びる広めの紐だけ。


 着丈が短いボトムは、

 スリットの入った青いローライズのタイトミニスカートで、

 トップ同様、外で着ることなど全く考慮されていないかのようで、

 丈の半分ぐらいのスリットがサイドに入り、美咲が体に当ててみると、

 お尻の下あたりをかろうじて隠す程度の長さしかなかった。


「コレ?」と、この服のことを指したのか、

 もしくは、これを以外にして欲しいと美咲は頼んだのだが、


「気づいた?ショーツまで付いているんだよ。安いでしょ?」


 彼からの答えは違って、嬉しそうに布切れを見せてきた。


 あり得ないのは、トップやボトムも既に使った形跡があるし、

 ショーツとして渡された物など、

 黒く細い紐が腰を一周し、T字の紐で前後をつなぎ、

 前側は三角形の大きな布が、前後を説明するように着いているだけ。


「どう?美咲ちゃんにぴったりだろ?ここで着替えてもいいし、

 難しいなら着替えを手伝うけどね。ぐふふ。」


 山田が下卑た笑いを浮かべながら言う姿に、

 美咲は内心で嫌悪感を抱きながらも、

 ここで引き下がるわけにはいかないと決意し受け取った。


「…これに着替えればいいのね。」そう言いつつ、

「更衣室は狭いから、ここで着替えなよ。僕は、店に行くからさぁ。」


 そう言ってくる山田の声は、既に耳には入らないし、

 彼の視線を気にしないように、

 店の奥にある狭い更衣スペースへと向かった。


 そこは古びたカーテンで仕切られた小さな空間で、

 中に入ると、壁際に大きな姿見が置かれている。


 その鏡の前に立つと、

 今の自分の姿が映り込み、自信に満ちたキャバ嬢の顔は消え去って、

 本当の自分の顔がクッキリと浮かんでいた。


 しかし、三島との取引を果たすため、彼女は深呼吸をして覚悟を決め、

 彼女は少し戸惑いながらも慣れた手つきで、

 キャバ嬢のタイトなドレスのファスナーを下ろすと、

 ドレスは肩から腰へとゆっくりと滑り落ち、

 鏡に映ったのは白いレースのブラとショーツ姿の彼女。


 その下着は控えめでありながらもセクシーで、

 彼女の体のラインをしっかりと引き立てていたが、


 山田から渡されたショーツはそれとは異なり、

 それを着ろとまで指定されるとは思ってもいなかった美咲は、

 着替える為に下着まで脱いでいた。


 全てを脱いだ姿を鏡で見つめているわけにはいかないと、

 慌てた美咲はショーツを手に取って着替え、

 ホルターネックのブラのような上着で胸を隠してリボンを取り付ける。


 そして、最後に残ったフェイスタオル程度のスカートを、

 できるだけ腰より下にして履き、

 彼女は鏡の前に立ち、胸元を気にしながらそっと手を当てる。


 もちろん、できるだけ胸が露出しないよう、慎重に位置を調整するが、

 それでも胸の下がわずかに覗いてしまうし、

 大きな胸の谷間は丸見えになった。


 そう見えても、どうしようもないのだと諦めるしかなかったので、

 トップが押しつぶされるような感覚を少しでも和らげようと、

 下乳が多少はみ出すような位置で着ていた。


 続いて、ミニスカートに手を伸ばす。


 できる限り下まで引き下げてみるが、鏡の中の自分は、

 わずかに覗く鼠径部やショーツを隠しきれていない。


 それでも、もう仕方がないと小さくため息をつき、覚悟を決める。


「靴は……」


 山田から靴の指定がなかったのは、せめてもの救いだった。


 今日はシルバーのハイヒールを履いてきたので、

 そのまま履くことにしたが、

 普段ならお尻を引き立たせるこの高さが気に入っているはずだが、

 今の姿で履くと、どこかちぐはぐな印象を与える。


 その違和感が気になり、

 彼女は無意識にハイヒールの感覚に合わせて踵を少し持ち上げ、

 鏡に映る自分をじっと見つめた。


 そして、「もう、諦めるしかないか」と小さく呟き、苦笑いを浮かべた。



 バイト①

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