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クロスオーバー  作者: 連鎖
みさき(運命)
33/99

情報屋②

 静寂が部屋を包み込み、美咲の心は不安と緊張でざわめいていたが、

 それを押し殺しながら彼女が待ち続けていると、

 奥から三島が姿を現した。


 彼の動きは滑らかで、どこか影のように静かだが、

 黒いシャツが体にぴったりとフィットし、

 その下に隠された筋肉がわずかに浮かび上がる。


 美咲はその一瞬に、彼の隠された本性を垣間見た気がした。


「待たせたな。」三島は低い声で言ったが、

 その声には、どこか冷ややかな響きがあった。


 美咲は心臓が高鳴るのを感じながら、彼の目を見つめた。


「何か、分かったことはあるの?」


 そうやって美咲が聞いてきても気に留めず、

 三島はカウンターの向こうに歩み寄り、

 無造作に酒瓶を手に取ってグラスに注ぎ始めた。


 琥珀色の液体がグラスに流れ込み、静かに音を立てる。


「……」


 彼は美咲を見ずに、そのままグラスに口をつけ、

 一口飲んでからゆっくりと話し始めた。


「今回の件について、あまり明確なことは言えない。

 ただ、聞いた話では……」


 彼の曖昧な言い回しがかえって美咲の期待を強く引き寄せ、

 彼女は身を乗り出して彼の言葉を逃さないよう耳を傾けた。


「彼女が最後に目撃されたのは、この近くのバーらしい。

 そこで何かトラブルがあったという噂が立ってる。

 だが、具体的な内容はわからない。」三島は一瞬、視線を外した。


 その視線の動きに、美咲は一瞬の真実を感じた。


「トラブル…どんな?」彼女は思わず声を上げた。

 冷静を装おうとしたが、心の奥底から湧き上がる焦りが抑えられない。


 三島は視線を戻し、無表情で彼女を見つめた。


「分からない。情報は断片的で、確証が持てない。

 ただ…彼女は誰かに監視されていたかもしれない。そういう噂もある。」


 その言葉に、美咲は背筋がぞくりとするのを感じ、

 暗い思いが彼女の心を占め、冷たい汗が背中を流れ落ちた。


 彼女は自分の声を抑えながら、「誰が…監視していたの?」と尋ねた。


「それが、誰だかはわからない。」三島は苦々しい表情を浮かべた。

「ただ、周囲にいる人間の中に、関与している者がいる可能性はある。」


 美咲はその言葉をじっくりと噛みしめ、心に響かせる。


 曖昧な答えではあったが、三島の真剣な眼差しから、

 彼が何かを知っていることを感じ取り、

 彼女は再び身を乗り出して、言葉を重ねる。


「それでも、何か手がかりはあるはず。頼む、もっと教えて。」


 三島は少しの間考え込み、グラスを静かにテーブルに置いた。


「俺もできる限り調べるが、危険な道になるかもしれない。

 お前が知りたい情報は、俺にとってもリスクが伴う。」


 その言葉が美咲の心に響き、

 どうしても真実を知りたいという思いが胸に湧き上がり、

 彼女は三島の目をじっと見つめ返す。


 その瞬間、二人の間に流れる緊張感が一層強まり、

 このままでは駄目だと気づいた美咲は、彼から情報を引き出すため、

 意識的にリラックスした雰囲気を作り出そうとした。


「三島、もう少し詳しく教えてくれない?」


 美咲は笑顔を浮かべながらカウンター越しに三島の目の前に歩み寄り、

 両肘をついて手の上に顎を乗せ、見上げるように話しかけた。


 そうやって彼と美咲の距離が近づくと、

 三島の冷たい眼差しがほんの少し和らいだように感じる。


「お前が欲しいのは、情報だろう?」三島は眉をひそめたが、

 彼女の真剣さと魅力に心を動かされている様子もあった。


 続けて美咲は、彼が飲んでいたグラスを手に取り、

 少しだけ口をつけてから、彼の前に置き直す。


「そう、でもどうせなら、もっと具体的に。あの男の名前を知りたいの。

 彼についての詳細が分からない限り、何も進展しないから。」


 三島はしばらく無言だったが、彼女の言葉に動揺した様子で、

 彼の視線は少し泳ぎ、何かを考えているようだった。


 美咲は、その隙を逃すまいと、続けた。


「あなたも、彼のことを気にしているでしょ?」


 言葉を続けながら、美咲は彼の腕に軽く手を置いて笑いかけた。


 仕事で使う親密さを演出するための小さな仕草だったが、

 三島の反応は意外にも鈍い。


 それでも彼女はあきらめずに、さらに言葉を重ねた。


「彼はどこにいるの?何をしているの?」


 三島は少し考え込むように視線を下げ、

 カウンターに置かれたグラスを見つめた。


 その沈黙の中で、美咲は彼の表情から何かを読み取ろうとしたが、

 彼の中にある葛藤が、情報への道を閉ざしているように感じていた。


「お前が言っている男は…確かに俺も気になっている。」


 三島が口を開いた瞬間、美咲は期待を胸に抱いた。


「だが、その名前を口にするのは危険だ。もし知られたら、後が怖い。」


 その言葉に、美咲は真剣に頷き、さらに身を乗り出した。


「分かるわ。私も危険を覚悟している。

 でも私にとって、彼を知ることが最優先なの。だから、

 あなたが何かしらの形で手を貸してくれるなら、私も協力するわ。」


 その時、美咲は三島の視線が自分の顔を見つめているのを感じ、

 彼女の真剣な思いが、彼の心に響いているのかもしれないと気づく。


 静かな瞬間が流れる中、彼女は再び言葉を選び、

 彼の心の扉を少しでも開けようと努力する。


「教えて、彼の名前を。私ができることは何でもするから。」


 美咲の言葉が静寂を破り、三島の眼差しに少し動揺が見えた。


 その瞬間、彼は彼女の心を試すかのようにじっと見つめ返し、

 ゆっくりと話し始めた。


「何でもというのは、結構な覚悟が必要だぞ。本気だな?」


 三島はそう言いながら、カウンターの奥から一枚のDVDを取り出し、


「コレをある場所に持っていき、お前にやってもらいたいことがある。」


 美咲は不安を抱えながらも、そのDVDを彼から受け取った。


 そのDVDのラベルは何故か真っ白で、

 その理由やこれから何が待っているのかを想像するだけで、

 彼女の鼓動が激しくなる。


「これを持って、ビデオショップに向かえ。」三島は冷静に言う。


「…」

「お前はキャンギャルとして、販促のバイトをしてこい。」


 三島のあまりにも想定外の言葉に、


「キャンギャルとして?販促バイト?どういうことなの?」


 美咲の心臓は一瞬止まったかのように感じ、思わず目を丸くした。


 三島は無表情のまま続けた。


「このDVDのプロモーションだ。お前にはその仕事をしてもらう。

 お前の美貌を使えば、間違いなく注目を集められるはずだ。」


「でも…」美咲は弱気な声で言葉を詰まらせた。

 自分がどのような格好で、その場所に立たされるのか想像もつかない。


 彼女は一瞬ためらったが、強く続けた。


「私に何を着ろと?」


 三島は微かに笑みを浮かべ、


「さあ。俺は知らない。嫌なら断れ。話はここまでだ。」

「…」


 その瞬間、彼の言葉が美咲の心に響いた。


 彼女は、自分が三島に頼らざるを得ない状況にいることを思い知らされ、

 友達を早く探す為には、彼の提案を全て受け入れるほかない。


「たぶん変わった事など無い、ただの販促のアルバイトだぞ。」


 なんの慰めにもならない三島の声が部屋に響く。


「分かった。やるわ、でもこれが終わったら、

 必ずあの男の名前を教えて。」美咲は自分の決意を込めて言う。


 三島は頷き、彼女を見送るように視線を向けた。


「じゃあ期待しているぞ、藤崎美咲。俺を信じさせてくれよ。」


 自分から名乗ってもいないのに、三島は自分の名前を言い当てる。

 探している内容も話していないのに、彼は答えを的確に調べてくる。


 そんな彼の言葉に気づいた美咲は、深呼吸をして、

 友達を助けようと勇気を振り絞って立ち上がっていた。



 情報屋②

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