お風呂
朝から亮平と遊び続けて疲れているが、海からの帰り道はまだ長く、
途中で休憩しても、窓の外を流れる高速の景色は変わり映えしない。
違うのは、助手席でスマホをいじっている亮平が、
ちらちらとこちらをうかがっていることだけで、
それがひかりの気持ちをわずかに紛らわせていた。
「何を見ているの?」ひかりは軽く睨むように亮平に視線を向ける。
「べつにぃ。」亮平は一瞬目をそらし、
再びスマホに集中するふりをしていた。
そういう、意味のない会話も気晴らしになったらしく、
「ふぅ。。」と、ひかりは軽くため息をつき、
再び前方に視線を戻して、真剣な目をしていた。
。
そういう穏やかな時間が過ぎていき、やっとアパートに着いたときには、
ひかりは心の中で「やっと着いたぁ。」と、ほっと安堵の声をあげた。
車をアパートの駐車場に止めて、荷物を持って部屋に向かうと、
玄関先でメイクをした亮平の母親が、
これから仕事に向かおうとしているところだった。
「お帰り!本当にありがとうね、ひかりちゃん。」
「いいえ。私は楽しかったので。。。」「亮平も楽しかった?」
母親は、にこやかに言いながら亮平を抱きしめていた。
「うん、めっちゃ楽しかった!」亮平は母親に満面の笑みを向けた。
「よかった。それじゃ、私はもう行かなきゃいけないから、
ご飯は自分でね。お母さん、仕事頑張ってくるからね。亮平。」
そう言うと、急いで仕事へと向かっていった。
その背中を見送りながら、ひかりはふと亮平のことが気になった。
「亮平、今晩一人でご飯を食べるの?」
声には出していないが、彼女の視線や仕草で何かを感じ取ったのか、
亮平は少し気まずそうに顔を背けて、
「まあ、いつもそうだし、平気だよ。」と肩をすくめた。
その仕草に、ひかりの胸に小さな引っかかりが残っていた。
亮平はまだ小学生で、
一人でご飯を食べる姿は、どこかとても寂しそうに思えたらしく、
「ねえ、亮平。もしよかったら、今夜うちでご飯食べていかない?
一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいでしょ?」
ひかりは優しく微笑んで言葉にしていた。
「ほんと?お姉ちゃんと一緒に食べる!」
亮平は目を輝かせ、嬉しそうに答えた。
「じゃあ決まりね。荷物を片付けたら、うちにおいで。」
そう言って、二人はそれぞれの部屋に戻った。
。
夜が更け、二人は静かな部屋で向かい合って食卓を囲んでいた。
ひかりは、簡単に作ったパスタとサラダをテーブルに並べ、
亮平は「いただきます!」と元気に手を合わせて食べ始めた。
「うまい!お姉ちゃん、料理上手だね!」
と、亮平がパスタを口いっぱいに頬張りながら無邪気に笑う。
その様子にひかりは少し照れながらも、
「ありがとう。でもそんなに褒めないでよ、恥ずかしいから。」
と、笑顔で応えていた。
亮平の笑顔を見ていると、ひかりは日常の疲れや仕事のストレスが、
この一瞬だけどこかへ消え去っていくように感じていた。
食事中、亮平は今日の海での出来事を楽しそうに話し続けた。
「お姉ちゃんが浮き輪で遊んでるの、面白かった!」と言って、
思い出し笑いをする亮平に、ひかりもつられて笑っていた。
。
楽しい食事が終わり、亮平がシャワーの時と同じように、
「お姉ちゃんと、一緒にお風呂に入りたい!」
と、無邪気に言い出してきた。
「えぇ!。。また、一緒に?」
と、ひかりは一瞬戸惑ったが、亮平のキラキラした目に逆らえなかった。
ひかりは少し嬉しそうな顔で「しょうがないなぁあ。」と言い、
少し苦笑いしながらも、走り出した亮平について行った。
二人で入るのが嬉しかったのだろう、亮平は服を乱暴に脱ぎ捨て、
そんな彼の姿を見ながら、ひかりも一息ついてから服を全て脱ぎ、
狭いバスルームに入っていった。
「お姉ちゃん、身体を洗ってあげるよ!」と亮平は張り切って言い、
タオルを手に取った。
「ありがとう。」ひかりは疲れた表情を少し緩め、優しい笑顔を返した。
二人の距離が一段と近く感じられ、
ひかりの心には、何故か穏やかな安心感が広がっていった。
お風呂から上がり、亮平はすぐに彼女のシングルベッドに飛び込んだ。
「お姉ちゃん、一緒に寝よう!」と目を輝かせながら言う亮平に、
「フウゥゥゥ。またなのぉお?」
ひかりは少しため息をつきながらも、寄り添うように横になった。
狭いベッドに二人で寝るのは窮屈だったが、
亮平は「お姉ちゃんと、一緒に寝るのがいいんだ。」と笑っていた。
「もぉ。今日だけ特別だからね。」ひかりも嬉しそうに笑い返していた。
亮平が寝息を立て始めた頃、ひかりも目をつぶり、
二人の心地いい寝息が、一人ぼっちの寂しい部屋に流れていた。
お風呂




